(2010.11.13)
No.016

アメリカの「負債の輸出」



 2010年11月9日、中国の信用格付け会社「大公国際信用評価公司」がアメリカの国債の格付けを、「AA Negative」から「A Negative」に格下げした。数えようによっては2ランク、あるいは4ランクの格下げかもしれない。

 格下げそのものより、興味深いのは、大公のアナリストによる「格下げ報告」だ。アメリカ経済に対する根本的批判になっているからだ。現在その報告書を、勉強がてら一生懸命読んでいる。(「アメリカ経済に対する臨終宣告にも等しい報告書」第一回<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/dagong_20101110.html>参照の事。)

 現在読んでいるところを抜き書きして今回の雑観記事にしたい。話は、アメリカ経済は回復の見込みがない、というところだ。大公のアナリストは、自分の見方を支持する証拠を並べ立てる。第一にその信用拡大政策の問題点、第二にアメリカの「金融経済化」と「産業の空洞化」、第三にアメリカの実体経済が産出する冨は、コストのかかるアメリカのグローバル覇権戦略を支えきれないこと、を指摘し、そして―。

 第四に―。

 負債を輸出するために、ドル切り下げに長期的に依存することは、「貸し手」の利益を害するばかりでなく、アメリカの「負債のディレンマ」の解決を不可能とする。国家発展戦略における問題は、アメリカ政府が巨大な負債の重荷を産み出していることに淵源している。しかし、アメリカ政府は、負債を削減するという戦略を調整することに乗り気ではない。むしろ、ドルの切り下げを通じて負債を輸出することが、アメリカの利益に適う、と信じている。ドルの切り下げは「貸し手」に対して、「貸し手の利益」をアメリカに移転することを余儀なくさせるが、アメリカ・ドルに対する市場の信頼を削減することになる。そのことは、ドル売り傾向の引き金となるかも知れない。ゆえにそれは、国際通貨体制の様式を変えていくことになるだろう。そしてドルの覇権的地位は不可避的に揺さぶられることになる。それは究極的にはドルの環流を引き起こし、アメリカ政府の直接的な国際金融チャネルを害することになる。』

 大公のこの報告書は、当然中国政府の承認のもとに発表されたものだろう。そのことを念頭に置いて読んでみるとかなりドスのきいた脅しになっている、と読めないこともない。

 丁寧にいってみよう。まずドル切り下げによる「負債の輸出」とはどういうことか?

 たとえば、日本は、アメリカ財務省証券(事実上のアメリカ国債)を、2010年8月末現在で8366億ドル保有している。(「アメリカ財務省証券<国債>国外保有者の推移2009年−2010年」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/06.htm>を参照の事。)

 このうち日本銀行や郵政株式会社など日本政府や政府関係機関がどれくらいの割合で持っているか私は調べていない。仮にこの全てが、日本国民の税金や預貯金、あるいは保険の掛け金に淵源するありとあらゆる形の政府関連機関が保有しているものとしよう。(実は私はそう推測している。)

 8366億ドルを、今1ドル=100円で計算してみると、83.66兆円という金額になる。ほぼ1年間の日本の一般会計国家予算に匹敵する。もし、仮にこれがドル切り下げ政策によって1ドル=80円になったとしよう。この場合「円高」という言葉はふさわしくない。ドルの一方的切り下げだ。この82.66兆円はたちまち67兆円に凋んでしまう。(実際そうなっているのだが。)

 日本は約15.66兆円の為替差損を被ることになる。逆にこの15.66兆円の為替差損はアメリカ財務省の為替差益(もちろん含み益だが)となってアメリカ連邦政府の負債を軽減することになる。

 これがこの報告者のいう「負債の輸出」の一例である。(民主党自慢の仕分け会議で得られた数千億円や在日米軍への思いやり予算などはカワイイものである。)

 中国は日本を上回るアメリカ財務省証券をもっている。2010年8月末で8684億ドルである。中国元は、日本円ほどドルに対して切り上がってはいないが、それでも2年間で10%近く上がっている。中国もその意味では「負債の輸出」の被害者なのだ。

 この報告者のいうように、「負債の輸出」は、アメリカの利益にはなる。しかし、それは、

アメリカ・ドルに対する市場の信頼を削減することになる。そのことは、ドル売り傾向の引き金となるかも知れない。ゆえにそれは、国際通貨体制の様式を変えていくことになるだろう。そしてドルの覇権的地位は不可避的に揺さぶられることになる。それは究極的にはドルの環流を引き起こし、アメリカ政府の直接的な国際金融チャネルを害することになる。」

 と述べているとおり、長期的にはアメリカの利益にはならない。ならないどころか「中国はもう買いませんよ」という威しとも読めないことはない。

 今G20とかで各国の首脳が韓国のソウルに集結し、その席でアメリカの大統領オバマと中国の国家主席胡錦涛が1時間半も個別に会談した。新聞報道によれば、ほとんどの時間を元切り上げ問題に費やしたという。私がそこでのやりとりを想像してみると―。(こういう時は何故か関西弁になる。)

『オバマ: なぁ、フーさん、元切り上げてエな。
フー: だからいうとるやろ、いちどきに切り上げたら、ウチらナンボ損するおもとんねん。8684億ドルからもっとんのよ。
オバマ: なにいうてんねん。いつやったかいな、9400億ドルももっとんの減らして。アレ、去年の今頃ちごうたんかいな。めだたんようにやったつもりやろが、わかってまっせ。ええやないか、あと10%くらいあげても。わての顔たててエな。
フー: そはいかんて。これ、みんなの金でっせ。奥の方は、やっと食えるようになっただけやんか。もちっと大事に使わんと。堪忍してエな。ゆっくりやりまひょ。そやな、2―3年くらいかけてやね。
オバマ: そならナ二か、ウチら潰れてもエエいうんか。ドル本位制、壊れてもエエいうんか。
フー: ま、そない怒りイな。そりぁ、ウチらも困る。協力しとんやないか、いままで。よーわかってま。でもな、オバマはん、ものには限度ちゅうものがあるやろ。そら、元上げてもエエで。30%でも40%でも上げたる。あんたはんとこの国債ぜーんぶ、売り払うてやな・・・。そしたらなんぼでも上げたる・・・。
オバマ: ま、そないいわんと。ほなら、ゆっくりでエエ。そやけど2年、3年は長過ぎるで、そやな、1年でどうや、1年で手打と?
フー: ま、その話、また今度にしよ、な?しばらく日本からむしったらええやないか。なんでも云うこと聞くやろ?あそこ。
オバマ: それがやな、もう限度かもしれんのよ。菅のとこも金借りまくりで・・・。
フー: まだ郵貯の金があるやないか。
オバマ: うーん、実はそれも計算にはいっとんのよ。
フー: わかった、ニッチもサッチもいかんのやね・・・。また、こんどにしまひょ、その話。ナ、わてまだ昼飯、食うとらへんねん・・・。』

とこんな感じではなかったと想像する。