(2010.12.4) | |
No.017 |
朝鮮半島、どちらが挑発者か? |
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「イ・ミョンバクが悪い」
1905年11月17日の夜、韓国註箚軍司令官長谷川好道を引き連れ、天皇特使として重明殿(当時は漱玉軒と呼ばれた)に乗り込んだ伊藤博文は、庭に警官や兵士を配置し、韓国の大臣たちを威嚇して、第二次日韓協約を結ばせた。この協約によって日本は韓国を保護国化し、1910年の日韓併合へと突き進む。(以上『「歴史認識と東アジアフォーラム」ソウル会議フィールドワーク資料』と題する資料より。執筆は歴史学者の荒井信一。) 展示資料には、この協約文書のレプリカも展示されていたが、日本側は特命全権公使林権助、韓国側は外部大臣朴齊純の名前だけで、韓国皇帝の名前も御璽もない。大体文書の表題もない、なんとも珍妙な「外交文書」である。 宿舎に帰って、「日本の朝鮮侵略、大陸侵略を理解するには、1904年の第一次日韓協約、1905年の第二次日韓協約にさかのぼって理解しなくてはならない。」という荒井信一の言葉を思い出していた。 「荒井先生がガイド役とは豪華版なソウル・ツアーね。」と網野沙羅。今年84歳の碩学にガイド役とは大変失礼な話ながら、私もそう思った。 宿舎と書いたが、朝鮮王朝時代の両班の私邸を改造した低料金外国人旅行者向けの「ソウル・ゲストハウス」が我々の宿舎である。1泊1人2500円程度である。それでもトイレ・シャワー、テレビまでついている。
ただちに「ソウル・ゲストハウス」のご主人のところにいった。ご主人はニュースを見ていた。私たちが居室に入ると、すぐにNHK-BSに切り替えてくれた。そして何が起こったか、直ちに了解した。 ご主人はなかなかインテリである。開口一番、 『イ・ミョンバク政権が悪い。』 何故? 『イ・ミョンバクになってからですよ。北朝鮮と対決姿勢になって・・・。北は3月の哨戒艇沈没事件にも本当に怒っている。そうですね、韓国人の2/3は、アレは北がやったと思っていないです。』 『今回の事件も、結局あんなところで実戦さながらの軍事訓練をやれば、そりぁ怒りますよ。』 民間人も死んだ、という情報も入ってきてますが、と私。 『え!民間人も死んだのですか?そりぁ、いかんなぁ。』と暗い顔。 温家宝の警告 その後、民間人が2人死んだことが確認された。11月26日付けの韓国の英字新聞「The Korea Times」によると、延坪島(ヨンピョンド)の韓国基地建設で作業していた作業員だそうだ。島の住人ではない。同日付の同紙は北京発AFP電で、中国首相温家宝のコメント、「朝鮮半島でのいかなる挑発行為にも反対する。」も伝えている。「中国は朝鮮半島における平和と安定の維持に確固として関与する。そしていかなる軍事的挑発行為にも反対する。」 私の頭の中には、北朝鮮が一方的に攻撃した、という思いこみがあったために、この温家宝のコメント記事をうっかり読みとばすところだった。よく読んでみると、温家宝は、北朝鮮の砲撃だけを「挑発行為」と言っているのではない。このAFP電も「この声明から、温家宝が北朝鮮の砲撃行為を指しているのか、あるいは計画されている米韓軍事訓練を指しているのか明確ではない。」としている。 すでにアメリカの航空母艦ジョージ・ワシントンが、母港である横須賀基地を出港して、西海(日本では黄海)へ向い、韓国軍と合同軍事演習を11月28日―12月1日の日程で行う、と発表されていた時だ。米韓プロパガンダべったりのこの英字新聞は、「中国メディアは北朝鮮よりの報道をしている。」と結んでいるが、どっちもどっちだ。 温家宝のコメントは、よく読んでみると、北朝鮮、米・韓双方に軍事的挑発行為を呼びかけていることがわかった。 「砲撃事件」の現場となった、ヨンピョンド付近は極めて微妙な地域である。 このことを理解するには、「朝鮮戦争は終わっていない」という根本的な理解がまず必須である。 1950年に始まった朝鮮戦争は、1953年7月27日休戦協定が成立し、朝鮮半島本土では北緯38度線を停戦ラインとすることで「国連軍」と「北朝鮮・中国人民志願軍両軍」との間で合意した。そして38度線は事実上、韓国と北朝鮮の国境戦として固定している。 北方限界線と北朝鮮軍事境界線 しかし、西海(黄海)上はそうではない。 上記図で1は今回事件の起こった延坪島。2は韓国が実効支配する白翎島(ペンニョンド)、3は2009年11月10日、韓国海軍と北朝鮮海軍が沖合で砲撃を交えた大青島(テチョンド)、4は仁川(インチョン)国際空港、5はソウル市街、6はインチョン市街である。「A」と表示されている青い破線は、1953年8月30日に連合国軍最高司令官総司令部側が定めた軍事境界線。いわゆる北方限界線(North Limit Line,-NLL)。「B」と表示されている赤い破線は、北朝鮮が主張する軍事境界線である。(図は日本語Wikipedia「延坪島砲撃事件」<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BB%B6%E5%9D %AA%E5%B3%B6%E4%BA%8B%E4%BB%B6>からコピーし、若干地名を書き加えたもの。) 北方限界線は、両者の間で合意して決定されたものではない。米韓が一方的に決めたものである。これに対して北朝鮮はBで示した独自の境界線を、1999年に主張している。従ってこれまで、両者の間で小競り合いが何度か起きている。1999年には第2延坪海戦、2002年の第2延坪海戦では、北朝鮮が北方限界線を越え、韓国軍と戦闘が発生した。
だから、西海(黄海上)の軍事境界線は、当然両者が話し合って決めるべきであったが、
米軍側が91年の「南北基本合意書第10条の協議」99年6月の時点で拒否して以降、実際の挑発行為かどうかは別として、北朝鮮はこの海域の軍事行動が「武装挑発行為」とみなしていることは、米軍・韓国軍とも十分了解している筈である。 一時は南北融和へ やや煩雑化もしれないが、その後の朝鮮半島の情勢を比較的客観的に説明しているので、康成銀論文を続けよう。
韓国の現行の国家保安法は、非常戒厳令拡大措置によって国会が解散状態にあった1980年12月、全斗煥(チョン・ドファン)政権が設立した国家保衛立法会議を通過したことで制定された。盧武鉉政権は人権抑圧の温床になった国家保安法を撤廃し、刑法の内乱罪と外患罪に統合を目指した。これに対し、不告知行為の取締りが困難になるとして、保守系野党・ハンナラ党は同法の存続を求めた。憲法裁判所と大法院も合憲判決を下しており、そのうち大法院の判決文では同法の必要性が説かれている。また、国民を対象にした世論調査でも廃止は少数派である。 2007年12月の大統領選挙で李明博が当選、ハンナラ党が政権を奪還し、翌年4月の総選挙で、国家保安法廃止に賛成する議員が多かったウリ党の流れを受け継ぐ統合民主党や、左派系の民主労働党がいずれも議席を減らし、ハンナラ党を中心とする保守・中道保守勢力が国会の多数を占めたことで国会内でも保安法廃止は少数派となった。戦前の日本の治安維持法をモデルにしたといわれている。 (以上日本語Wikipedia「国家保安法」<a.wikipedia.org/wiki/国家保安法_(大韓民国)>を抜粋。) さて、康成銀論文を続けよう。
ブッシュ、オバマ、イ・ミョンバクで情勢悪化 ところが、こうした南北融和へむけた動きは、
北朝鮮との融和策をとる盧武鉉(ノムヒョン)政権時代には、一時ノムヒョンが「北方限界線は領土線ではない」との主旨の発言を行い、問題になったことがある、という。(前出・康成銀論文) ノムヒョン時代は比較的北朝鮮との小競り合いが少なかった時期である。2007年イ・ミョンバク政権が成立すると、北朝鮮との関係はさらに悪化する。 2009年11月10日には、大青海戦と呼ばれる警備艇や哨戒艇レベルの銃撃戦が発生した。 (日本語Wikipedia「大青海戦」<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7% E9%9D%92%E6%B5%B7%E6%88%A6>) そして、2010年3月には、「韓国哨戒艇沈没事件」(天安沈没事件)が発生する。この事件の発生地点も先の図で、白翎島(ペンニョンド)南方である。5月20日、軍と民間の合同調査団(韓・英・米・豪・スウェーデン)は、天安は北朝鮮による魚雷の攻撃を受けて沈没したと断定する調査結果を発表した。しかしこの調査結果には、多くの疑惑が出されている。北朝鮮はでっち上げと非難した。韓国の軍民合同調査団のシン・サンチュル専門委員は、「沈没は座礁と衝突によるもの」と、これらを批判する所見を出している。 (<http://www.anatakara.com/petition/no-explosion-no-torpedo.html>および <http://www.spark946.org/bugsboard/index.php?BBS= s_news&action=viewForm&uid=2529&page=1>) ここで重要なことは、アメリカ側、韓国側がこの海域で軍事演習を行うことは、北朝鮮側が「軍事的挑発行為」だとみなしていることをアメリカ、韓国側は十分承知しているということだ。 ゲストハウスのご主人が、「イ・ミョンバクが悪い」といっている理由もここにある。 砲撃すれば何が起こるかわからない 今回の事件も、米韓軍軍事演習の最中に起きた。 日本語Wikipedia「延坪島砲撃事件」 (<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BB%B6%E5%9D% AA%E5%B3%B6%E7%A0%B2%E6%92%83%E4%BA%8B%E4%BB%B6>)の記述に沿って、当日なにが起きたのかを見てみよう。(なお、この記述は、朝日新聞、読売新聞の記述に沿って作成したものだという。)
韓国側の被害は、軍で2人死亡、16人負傷、民間で2人死亡、3人負傷。北朝鮮側の被害は不明であるが、先の日本語Wikiは、
と述べている。 11月27日になって北朝鮮は、
東京新聞は、「韓国内における北朝鮮強硬論を和らげるため」とこの北朝鮮の「遺憾声明」について説明しているが、私は北朝鮮の本音だと思う。つまり北朝鮮側に民間人を傷つける意図はなかった、と考えている。しかし、延坪島の軍事施設だけを正確に狙って砲撃すれば、そこに住んでいる人たちの居住地区に着弾しないとは誰も保証できないわけだから、これは「未必の故意」というべきだとも考えている。 砲撃すればなにが起こるかだれにもわからない。戦争は誰もコントロールできないのだ。 北の視点から見れば戦争状態 11月25日になって私はあるソウル市民に話を聞いてみた。一人や二人に話を聞いて、全体を判断するというのも誤りだ。しかし、「北朝鮮の攻撃に憤る韓国民」というステレオタイプの日本の新聞のトーンとは相当違った受け止め方をしているソウル市民も多いこともまた確かだ。 『私もあの海域は知っていますが、本当に目の前なんです。わずか10Kmかそこらですよ。向こうの人の顔だってわかります。』 この人は、北朝鮮側に住んでいる人の視点でものを見ている。 『そこで実弾を使った演習をやるんですから、本当に怖い。弾が飛んでくるようです。本当に戦争が始まるようです。』 私も言われるまで、延坪島のわずか10Km先に住んでいる北朝鮮の人の視点に立ってものを見たことはなかったので、虚を突かれた思いだった。10Kmと言えば、東京湾で一番幅の狭い浦賀水道で、横須賀市の観音崎から対岸木更津市の富津岬までの直線距離に相当する。いやどこでもいい。自分が住んでいらっしゃる地域のどこでも、10Km先を思い浮かべてご覧になるといい。 この人は、まだ幼かった時、朝鮮戦争の時に、父親と共に北から南に逃れてきた人だ。親戚はみな北に住んでいる。 『あんなところで、軍事演習(しかも実弾を使った演習だ)をすればもう戦争状態ですよ。本当に怖い。それから原子力空母が来るんでしょう。日本から。本当に怖い。』 ええ、今日(11月25日)の「The Korea Times」によれば、「アメリカの航空母艦、西海(黄海)へ向かう」と一面トップで報じていました、と私。 ちょっとまてよ、この空母は確かジョージ・ワシントンではなかったか? 同日付けの記事では、「航空母艦ジョージ・ワシントン打撃グループは、11月28日から12月1日までの朝鮮半島西海海上での韓国海軍合同演習に参加する。」とし、「航空母艦ジョージ・ワシントンは戦闘機75機を艦載し、6000名以上乗組員と共に、東京の南にある基地を出発した。」としている。 (日本に帰ってきて、新聞報道やテレビ報道を調べてみたが、ジョージ・ワシントンが出発したのが、横須賀からだったこと、75機の戦闘機を艦載していることを報じたメディアは一つもなかった。かといって、ジョージ・ワシントンがどこから出発したかは書かれていなかった。おかしな話だが、韓国の市民は75機の戦闘機を搭載したジョージ・ワシントンが横須賀から出港したことを知っているが、多くの日本の市民は知らなかったことになる。) 『戦争になれば、日本だってただじゃ済まないですね。』とその人。 その通りですね、この新聞で東京の南と言っているのは、横須賀基地でしょう、間違いなく。75機を艦載しているというのは、間違いなく厚木基地をベースとしている、第5空母航空団でしょう。この第5空母航空団の主力は、4つのF/A-18ホーネット飛行大隊で、そのうち3つの飛行大隊はスーパーホーネット部隊計37機です、と私。 (参考資料「アメリカ海軍 第5空母航空団の構成と主要装備」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/US_JP_ST/CVW-5.htm>を参照の事。) 戦争になれば、アメリカも韓国も日本も一連託生ですよ、と私は続けたが、「スーパーホーネットは核兵器搭載可能戦闘爆撃機ですよ。」という言葉は飲み込んだ。なんとなく不吉に思えたからだ。また現在進められている日米ロードマップによれば、第5空母航空団は2014年までに厚木から、私の隣町岩国やってくる。 「国連軍」地位協定 停戦状態にある朝鮮戦争が、再開されれば、朝鮮半島と日本は一蓮托生だというのには、根拠がある。 というのは朝鮮戦争当時、まだアメリカの軍事占領下にあった日本と「国連軍」との間に結ばれた「国連軍地位協定」はまだ生きているからである。私はこのことを、「朝鮮戦争と日本」(新幹社 2006年10月10日 第1刷 大沼久夫遍)という本を読んで知った。
つまりアメリカとの二国間日米安保条約だけでなく、協定に調印した諸国との間の国連軍地位協定はいまだに有効である。朝鮮で戦争が起これば、安保条約・日米地位協定の解釈とは別に、「国連軍」地位協定が存在している以上、日本は直接朝鮮戦争に直接関与することになる。 (国連軍地位協定の全文は東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室のサイトで読むことが出来る。 <http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPUS/19540219.T1J.html>) これら諸国とは、「統一司令部として行動するアメリカ合衆国政府」および「国際連合の諸決議に従つて朝鮮に軍隊を派遣している国の諸政府」としてカナダ政府、ニュー・ジーランド政府、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府(イギリス)南アフリカ連邦政府、オーストリア連邦政府、フィリピン共和国政府、フランス共和国政府、イタリア政府の8カ国。 日本語Wiki「国連軍」(<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E8%BB%8D>)によると、キャンプ座間、横田飛行場、横須賀海軍施設、佐世保海軍施設、嘉手納飛行場、普天間飛行場、ホワイト・ビーチ地区の7箇所が国連軍施設に指定されている。
「国連軍」地位協定が生きている以上、法律的にはこれら諸国は、少なくとも7箇所の施設を自由に使用できる権利を有している。 日本にとっても朝鮮戦争は終わっていない。朝鮮半島と日本は一蓮托生だというのはこういう意味である。 「朝鮮半島」と日本は一蓮托生だと認識に立てば、朝鮮半島やその近海で危ない挑発行為はやめてもらいたい、と考える私は至極まっとうだと思う。 温家宝の「いかなる種類の軍事的挑発行為もこの地域で行うべきでない」、という考え方も至極健全だと思う。 今回の一連の事件で、延坪島に砲撃を行った北朝鮮を擁護するつもりはないが、挑発者は明らかに米・韓の側であり、北朝鮮ではない。北朝鮮は、米韓の挑発に乗ってしまったというべきであろう。 私は、日本の大手新聞やテレビ、アメリカ国務省とともに、「北朝鮮は挑発行為をやめよ」と大合唱に与することはできない。 われわれ、日本の市民は朝鮮半島で戦争を起こしたがっているのは誰か、ということを冷静に見極めなくてはならない。それは真の挑発者は誰か、というポイントを見極めることでもある。 |
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