(2012.8.5)
No.044
<雑観44> 広島2人デモ
その① 政府・関電、そして関西広域連合の詐術


 大飯原発再稼働の意味

 色々なことが一時に起こる。今一番気になることは、やはり欧州経済危機(それは仕掛けられた国家信用危機というべきだろうが)だ。「先進主要諸国」はどこも例外なく国家自体が借金漬けだ。借金をするという以上は、金の貸し手がいるということだ。その金の貸し手はどこも例外なくその国家を代表する大手金融資本だ。各国の大手金融資本は例外なく国際金融資本でもある。つまり国際金融資本が各国を借金漬けにして、そこから利益を吸い上げる仕組みができあがっている。

 しかし国家の借金には限度がある。その限度まで来ると、「国家財政危機」「財政不均衡」を言い募って、国民からの収奪を強化する。それは増税であったり、養老年金支払いの切り下げであったり様々な形をとる。(養老年金は日本では国民年金や厚生年金、アメリカではソーシャル・セキュリティ・タックスと呼ばれている。また電気事業が事実上の国家独占体である日本では、毎月の電気料金も事実上の“税金”の一種だ。)

 その国の国民が温和しく言うことを聞けば良し、聞かなければギリシャのように国際金融資本が集中攻撃を行って、「収奪強化」を強行する。一種の見せしめのようなものだ。ヨーロッパが一巡すれば、次にその矛先が向いて来るのは日本だろう。

 こうして、国際金融資本が国家を借金漬けにしてそこから利益を吸い上げる仕組みは永遠に続くと見えるのかも知れない。そしてこの仕組みこそ各国に「格差社会」を産み、増幅させている。気になるテーマだ。

 様々気になるテーマが一時に起こっている。それらを横目で見ながら、私たちは「広島2人デモ」を始めた。というのは、日本は「福島原発事故問題」の解決なしに次の展望が全く開けないからだ。それでは「福島原発事故問題の解決」とは一体どういう形か、ということになるが、これは長い話になるのでここでは触れない。ただはっきり言えることは、「関西電力大飯原発再稼働」が「福島原発事故問題の解決」を大幅に遅らせること、確実、という点だ。その意味で「大飯再稼働」は、解決に向かうか、あるいはそれを大幅に遅らせるだけなく、後退させるかを象徴的に表現する試金石だからだ。

 すでにできていたシナリオ

 2012年6月16日は、民主党野田政権が関西電力大飯原発の再稼働を決めた日だった。産業経済相の枝野幸男が、2012年5月5日、最後まで稼働していた北海道電力泊原発が定期点検のため運転停止になった直後、42年ぶりに日本国内で運転する原発がゼロになったのを受けて、「これで日本の原発稼働は、一瞬ゼロになります」と口を滑らせたが、この時大飯原発再稼働のシナリオはすでに出来ていたと言える。

 そのシナリオについてはすでに「6・16 怒りの緊急デモ 大飯原発再稼働を止めよう!ヒロシマから」という雑観記事に書いておいたので詳しくは繰り返さないが、要するに今夏の電力不足を理由として、大飯原発を再稼働させよう、そのためには大阪市長・橋下徹率いる関西広域連合を「今夏電力不足」の検証役に仕立てて、「今夏電力不足」という政府・関電の主張に説得力を持たせようというものだった。(これには直接証拠はない。しかし後ほど説明する関西広域連合の杜撰な検証ぶりや絶妙のタイミングの橋本の「降参宣言」など状況証拠はいくつもある。)

 私は「一つの山」だな、と漠然と思っていた。これに抗議行動を起こさなければ、あとは一瀉千里、ずるずると再稼働が続くと感じた。実際民主党野田政権は、これまで既成事実の積み上げには極めてあきらめの早い日本市民の習い性を見越して、再稼働さえしてしまえば、世論は再稼働容認に傾くと考えていたフシがある。

 実際各新聞の世論調査では、4-5月頃「再稼働反対」が7割以上だった。それが関西広域連合の検証過程を新聞が大げさに取り上げ始め、夏場電力が足りなくなりそうだ、という雰囲気が流れ始めた頃には6割、大飯原発再稼働決定の前後には、まだ再稼働反対派が多かったものの、世論調査の結果はほぼ5:5と拮抗し始めていた。(世論調査は長く調査ではなく、調査に名を借りた世論誘導と言う側面を色濃く持っているのだが。たとえば「夏場電力が足りなくなると言う見方もありますが、あなたは再稼働に反対ですか、賛成ですか、わからないですか」聞かれれば、確信のない多くの市民は反対の意志が鈍るだろう)

 しかし実際には野田政権は読み違えをしていたようだった。大飯原発再稼働は多くの市民の「不安」をかき立て、「怒り」を煽る結果となった。それが首相官邸を十数万人の市民が取り囲む抗議行動となったのである。

 原発事故、放射能に鈍感なヒロシマ

 広島の一部の市民運動団体も「6月16日」に再稼働を決定するという情報に合わせて抗議行動を予定した。それが、雑観No.42で紹介した「6・16 怒りの緊急デモ 大飯原発再稼働を止めよう!ヒロシマから」である。


(雨にも関わらず、90人もの人が参加した6.16デモ。 photo by Sarah Amino)

 広島以外に住む人たちには意外かもしれないが、広島は実際「東京電力福島第一発電所事故」にも「放射能汚染」にも非常に関心が薄い。いくつかの要因があるだろうが、広島市民約117万人全体を取ってみると、また近くの呉市や廿日市市まで含めると、約150万人の人口を抱える地域だが、原発問題には非常に関心が薄い。その要因をここで並べ立ててみたところで、誰しも納得のいく根拠があるわけではない。が、あえて並べるとすると、広島が長く(現在もそうだが)三菱重工業の企業城下町という側面があると思われる。これは同じく被爆都市である長崎が重工の企業城下町だという点とよく似ている。つまりは重工の利益に逆らう発言をすることが憚られるという雰囲気が色濃くある。三菱重工の利益ネットワークは、典型的な企業内御用組合である三菱重工労働組合も含め、広島市内に二重・三重・四重にも張り巡らされ、「反原発」というよりも「反三菱重工」あるいは「反三菱グループ」的発言は非常にしにくい状況にある。それだけ「三菱グループ」で「おまんま」を食べている人が多いということでもある。

 同様なことは広島に本社を置く中国電力についても言える。中国電力の子会社や孫会社あるいは関連会社でメシを食っているヒトやその家族は多い。勢い中国電力に対して威勢のいいことをいうヒトは排除される雰囲気がある。

 広島地元の県紙である中国新聞もまた同様である。かつては中国新聞の編集幹部は少なくとも年に一度は、中国電力の招待で、研修・視察と称して大名旅行をしたものだ。(今はそういうことはないのだろうが。この記述にもし中国新聞が抗議するなら証拠や証言の用意もある)そればかりではない。中国新聞にとって中国電力やそのグループ企業は大スポンサーである。単に広告出稿ばかりではない。中国電力やそのグループ企業あるいは経済産業省の予算も様々な形で、「原発推進・広報活動」の一環として中国新聞やその関連イベント会社、番組製作会社、企画会社に流れてきた。人的交流も濃い。(地元の中小広告代理店の幹部のヒトに話を聞くと何とか予算とか、かんとか予算とか立派な名前がついていた。が、もう忘れてしまった。)

 中国新聞が「反中国電力的」あるいは「反原発的」記事を正面に掲げてキャンペーンを張るなどということは非常に考えにくい。精々そうせざるを得なくなって、「反原発市民運動」を広島版の片隅に掲載する程度だ。

 舌を抜かれた地元メディア

 広島地元のテレビ局はある意味もっと惨めかも知れない。現在広島地元のテレビ放送会社はNHKを除けば4社が放送法に基づくテレビ電波の割り当てを受けているが、老舗のRCC(中国放送)は、主要株主中国新聞社およびその関連会社2社、フジタ(広島地元の建設会社。前知事の藤田雄山はフジタ創業家の出身である)、東京放送ホールディングス(TBSHD)、広島銀行などである。出資比率は私には明らかではないが、人的に見ると中国新聞の子会社といっていい。広島テレビ放送という会社もある。日本テレビ系列の会社で、大株主は日本テレビ放送網と読売新聞大阪本社といえば原発についてどのような報道姿勢かは自ずと検討がつこう。テレビ新広島という会社もある。フジテレビ系列で大株主はフジ・メディア・ホールディングス、産業経済新聞社などである。中国電力とも関連の深い会社である。日本語ウィキペディア「テレビ新広島」は「FNN・FNS系列の基幹局で、中国電力の主要関連企業の一社でもある。」と書いている。ついでに書いておけば中国電力は、「ひろしまケーブルビジョン」というCATVの会社も持っている。中国電力の有価証券報告書に「持分法適用関連会社」として記載されている。出資率は33.3%だが、事実上の子会社である。

 もう1社は「広島ホームテレビ」という会社である。テレビ朝日系列の会社である。日本語ウィキペディア「広島ホームテレビ」の一節を引用しておこう。

 『  広島ホームテレビはANN系列に属し、朝日新聞の関係会社に位置付けられる。しかし、中国新聞との関係も深く、中国新聞のCMが放送されている。また、1970年代においてはローカルニュースが「中国新聞ニュース」の名称で放送された時期があった。また、読売新聞や、毎日放送(MBS)も株主に名を連ねている。2010年(平成22年)10月現在では、番組を相当数購入しているテレビ東京と関係が深く、かつてはNETテレビとも関係があった日本経済新聞のCMも放送されている。マスコミ関連以外では広島銀行との関係が深く、歴代社長には朝日新聞・テレビ朝日系列局関連人物の他に広島銀行出身者がなる場合もある。現社長の大辻茂も広島銀行の出身である。』

 テレビ朝日(朝日新聞グループ)と広島銀行の植民地といったところが妥当である。もちろん広島銀行は中国電力に対する最大の投融資金融機関の一つであり、第8位の大株主(1.37%=2011年3月31日現在)である。広島ホームテレビが反原発キャンペーンに走る気遣いは全然ない。

「放射能安全神話」のふるさとが広島

 しかし、広島の「東電福島第一原発事故」や「放射能汚染」、あるいは「関電大飯原発」に対する関心の低さはどうも「三菱重工業」なり「中国電力」なりの企業城下町、あるいは地元メディアが完全に取り込まれているだけでは説明のつかない要因がありそうだ。

 それは、最初の被爆地広島に対して、1945年8月6以来、延々として続けられてきた、一種の刷り込みに関連していると思われる。「放射線の被害は直接大量に浴びた時だけで低線量での被曝は健康に影響がない」とする言説だ。「反原発」の本質は「反被曝」である。被曝をするから原発はいけないのである。そのコアをなす「反被曝」の思想がヒロシマからはきれいに抜き取られている。

 私は「100mSv以下の低線量被曝は健康に影響がない」とする言説を「放射能安全神話」と呼ぶことにしているが、その「放射能安全神話」の誕生の地が他ならぬ広島であることと大いに関連している気がしている。(これはもっと実証的・歴史的に検証していかなくてはならない)

 「3.11」以降「放射能安全神話」は、繰り返し繰り返し広島に刷り込まれている。ICRP派の学者や放射能影響研究所主催のシンポジウムや講演会、座談会などはこれまでに無数に開催されている。こうした催しに陰に陽に関係しているのが中国新聞社であり、編集幹部たちだ。

 私は広島の「東電福島第一原発事故」や「放射能汚染」、あるいは「関電大飯原発」に対する関心の低さ、冷淡さには、もっと歴史的な理由があるだろうと考えている。今この問題に残念ながら深く立ち入ることができない。

 従って6月16日のデモも、東京首都圏のように数万の人が集まるなどということは期待できない。それよりも広島で「大飯原発再稼働」に対する抗議の集会とデモ行進をすることにより深い意義があると考え私と同僚の網野沙羅もこの集会とデモ行進に参加した。

 電力不足のはずがない関電

 この集会では、少なくとも関西電力の電力生産設備から見る限り、電気が足りないなどと言うことはあり得ない、それどころか2010年度を見る限り関西電力は生産過剰体制だ、ということを数字を上げて明らかにした。(左の別表1 関西電力の生産設備参照)

 どう見ても、生産量で火力発電と水力発電を設備利用率で70%にすれば、十分まかなえるはずである。しかし、問題はピーク時の電力供給とその時点の最大需要である。この数字はすべて関西電力が提出するデータに依存するしかない。この時点では、関西電力のデータ、それを基にした関西広域連合の分析は非常に疑わしい、というにとどまる他はなかった。

 実際に関西広域連合の分析の仕方は、非常におかしい。この分析が集約的に報告されている文書は、2012年5月19日付け「関西電力管内の今夏の電力需給見通し等の検証結果」(資料8)と題するものであろう。「関西広域連合エネルギー検討会 電力需給等検討プロジェクトチーム 」の名前になっている。そこでの結論は以下のようである。

 『 ○供給力 2,542 万kW (火力 1,923、水力254、揚水 239、融通 110 、その他 16 )
○需要 2,987 万 kW(平成 22 年並猛暑、経済影響・定着節電随時調整契約折込)
⇒需給ギャップ ▲445万kW(▲ 14.9 %)
3,015 万kW(随時調整契約の効果 28 万 kW を含まない需要想定)』

 最初にお断りしておきたいことは、以下はすべて「ピーク時」の話である。ご承知のように電力は「在庫」のできない商品だ。生産して消費することができなければ、消費されなかった電力は捨てるしかない。非常に無駄の多い産業分野だ。しかし、電気が社会生活の生命線だとすれば、一瞬たりとも需要が供給を上回ることがあってはならない。それは「停電」を意味する。ここで議論していることは「ピーク時の供給力」と「ピーク時の最大需要」の話である。

 関西広域連合の問題の立て方のおかしさ

 まず問題の立て方が非常におかしい。需給バランスは生産力の関数である。電力生産力は電力供給力と同じではない。需要を満たすか満たさないかという問題を考えるに当たって、まず考えなければならないのは、自社生産力であろう。従って問題の立て方としては『自社生産力+他社からの購入=供給力』でなければならないだろう。

 しかし、この分析は徹頭徹尾「供給力」1本でものを考えている。従って常に「自社生産力」と「他社からの購入」の内訳が曖昧なままで進むことになる。(この報告書を読んだ時点では私は、「おかしいな」と思うしかなかったが、今ははっきり意図的な誤魔化しを最初から含んでいた、ということができる。これは後で詳述する機会があるだろう)

 次にこの報告書は「供給力」の具体的な検討に入る。そしてここで出てくるのが「自社火力」という言葉だ。これは「自社火力発電設備による生産力」という意味で使われているのではない。「自社火力発電設備による供給力」という意味で使われている。(「自社火力」みたいな概念規定の曖昧な言葉で本当に科学的分析ができるのだろうか?と私などは首を傾げてしまう。)

 この報告書は次のように述べている。

 『  火力発電については、定期点検時を調整し夏季全稼働させるとともに長期計画停止していた海南発電所2号機(出力45万kW)の再稼働・・・1,472万kWの供給力を見込んでいる。 しかし海南発電所2号機の再稼働は8月の予定であるため・・・確保に務める必要がある。』

 関電自社火力発電生産能力は?

 つまりは、自社発電設備からはピーク時1472万kWの供給しかできないだろう、と予測している。しかしこれは非常におかしな話だ。「別表1」をご覧になっておわかりのように関西電力は合計1690万kWの発電設備能力を持っている。しかもこれは、関西電力が全く私的に公表している数字ではない。認可発電設備量であり、堂々と関西電力有価証券報告書に記載し証券取引委員会に報告、承認されている数字だ。関西電力に投資しようとする投資家は、当然この数字を正しいものとして投資行動を行おうとするだろう。言い換えれば、関西電力はピーク時、1690万kWの火力発電設備能力を備えています、と証券市場に約束していることになる。だから、この数字を維持する責任がある。もし正当な理由がないのに、この数字が維持できないというのなら、それは「有価証券報告書不実記載」あるいは「虚偽記載」というものだろう。

 (  実際には、7月の半ば頃、関西電力の火力発電所はすべて稼働していた。それはフル稼働ではなかった。関西電力の火力発電所が止まっているところがある、という新聞報道があって激昂を買ったために慌てて動かしたものだった。平均して約70%の設備利用率だった。これは、関西電力の「でんき予報」で「供給力に関するお知らせ」を毎日チェックしているとわかる。ちなみに今日、8月5日、日曜日、以下の発電機が停止していた。相生発電所1号機 ▲38万kW、相生発電所2号機 ▲38万kW、相生発電所3号機 ▲38万kW(作業)、姫路第二発電所6号機 ▲60万kW(作業)、海南発電所2号機 ▲45万kW、海南発電所4号機 ▲60万kW御坊発電所1号機 ▲60万kW、御坊発電所2号機 ▲60万kW、他社電源 ▲38万kW。この日他社受電は660万kWもあった。うち中部電力、中国電力、北陸電力からの融通電力は220万kWだった。残りの440万kWは一体どこからやってくるのだろうか?それは関電管内の独立系電気事業者からの長期契約分である。電気が余っているからといってこうした長期契約事業者から購入を断る訳にはいかない。従って余剰電力調整のため、自社火力発電設備の運転を止めることになる。しかしこれは今になって言えることであり、6月半ば時点は、非常に疑わしいというだけで、その原因因子はまだ判らなかった。)

 関西電力は有価証券報告書の不実記載を認めた上で火力発電のピーク時発電能力は今夏「1472万kWです」というか、あるいは「1472万kWはウソです」というかどちらかしかなかった。しかし関西電力はどちらも選ばなかった。「ピーク時1472万kWです」というウソをついたのである。有価証券報告書の不実記載ないし虚偽記載は厳しいペナルティがあるが、関西広域連合に対してつくウソにはペナルティはない。そして結果は有価証券報告書記載数字が正しかったのである。それは7月半ば、すべての火力発電所の全ての発電機が稼働していていたことをみても判る。

「水力発電能力」の詐術

 水力発電の供給力についても非常におかしな計算をしている。揚水式発電を除く水力発電の認可発電量は有価証券報告書によれば、378万kWである。関西広域連合の報告書はこれを331万kW(定格)としている。これは、関西電力の提出データをそのまま鵜呑みにしたものだろうが、すでに47万kWの差がある。さらにこの331万kWをベースにして、関西広域連合の出した結論は、2012年8月の想定供給力203万kWというものだった。それは2007年度と2008年度の降水量と水力発電実績を比較して、「8月降水量が少ないリスクを考慮して、「203万kW」という結論を出したものだった。前述報告書のp4-p5参照のこと)

 なぜわざわざ比較対象年度として2007年と2008年を持ち出したのか甚だ疑問だが、これは私には今のところもっともらしい数字を作るために一番適した年度だったから、という疑いを出す以上のデータを持ち合わせていない。

 それよりも、水力発電の発電能力は、当月降水量の関数ではないということがポイントだ。水力発電の発電能力は、出水率できまる。出水率とは『河水の水量を示す指標のひとつ。毎月あるいは年度の平均流量を、過去40年近い間の平均の自然流量と比較したものでパーセントによって表す。先月の出水率110%とは、例年の同じ月より自然流量が10%多かったことを示す。』
(<http://www.denryoku.co.jp/column/wording_sa/w54.html>)

 
 先ほどの有価証券報告書で関西電力の認可最大発電能力は378万kWと報告していると書いたが、これは発電所のある水系で出水率100%が前提になっている。火力発電と違って水力発電は自然任せのところがある。出水率が100%を切れば、当然最大電力を発電できない。ところが、2010年度(2010年4月から2011年3月)関電管内の水力発電設備に対する出水率は109.1%だった。因みにその前年度は103.2%だった。これを読んだ投資家は、関電は100%の水力発電能力を発揮できたのだな、と読むだろう。平成23年度版 有価証券報告書p13「需給実績表」参照のこと

 その月の域内降水量は出水率と多いに関連がある。しかし降水量は出水率ではない。降水量から水力発電の発電予測を立てることはできない。ここは、出水率を過去に遡って調べ、2012年7月・8月の出水率を予測し、そこから水力発電の発電能力を予測すべきところだ。ここは詐術があると考えざるを得ない。

 実際に、手元に関電が7月後半に発電供給したピーク時発電量の実績表がある。7月26日270万kW、27日265万kW、28日256万kW、29日240万kW、30日253万kW、31日253万kWで関西広域連合がピーク時最大とした203万kWをはるかに上回っている。数字が下がり目になっているのは、出水率が落ちているためではない。7月24日に大飯原発4号機がフル稼働にはいり、常時236万kWから237万kWの電力を供給し始めたため、目立たぬように水力発電の発電量を下げ始めたためだ。)

   しかしなんと言っても関西広域連合の水力発電能力予測の問題の立て方のおかしさは、発電能力から出発せずに、発電実績から出発していることだろう。関電はこれまで原発を稼働させるために火力発電、水力発電の設備利用率を極端に落としてきた。関電は発電能力5万kW以上の主要発電所を20カ所もっているが、2010年度これらの平均設備利用率は5%だった。2人デモ第3回目チラシ裏面「関西電力の主要発電設備」参照。左の表がそうです。クリックすると大きな画像でご覧いただけます)まともに動いていたのは新黒部川第三発電所、同じく第二発電所、小牧発電所くらいなものでそれも設備利用率40%台だった。

 関西電力の誇る3つの揚水発電所、奥多々良木発電所(193万2000kW)、大河内発電所(128万kW)、奥吉野発電所(120万6000kW)に至ってはこの年度、ただの1Wも発電しなかった。つまり関電の水力発電実績から供給能力を演繹することは全く非科学的な作業であるということだ。にも関わらず関西広域連合の作業チームは、こうした発電実績と2007年・2008年の域内降水量を比較して、「最大203万kW」という結論を出すのである。

「揚水発電能力」の詐術

 関西広域連合の「需給予測検討チーム」の問題の立て方のおかしさは、「揚水発電」の「最大予測」に至って頂点を極める。報告書から関係カ所を画像にして示す。



 関西広域連合は、

 『 関西電力は、最大電力(3,015万kW)の場合、昼間の需給ギャップが大きいため、揚水発電を約12時間活用すると想定し、供給力を223万kWと見込んでいるがフル出力の432万kWと比べて過小評価ではないかと考えられた。』 

 として関西電力の算定は過小評価ではないか、と一応疑いの姿勢を示しながら検証作業に入る。上記の表は場合分けの数字である。場合分けというのは要するに「発電時間」と「揚水時間」及びその日の最大必要量の組み合わせである。注目しておきたいのは、揚水時間である。

 ここで揚水発電の仕組みを若干説明しておこう。前述のように電気は在庫のできない商品である。生産してその時に消費がなければ、捨てざるを得ない。捨ててはもったいないのでその電気を使って水を揚水発電所の上施設に汲み上げる。そしてもう一度その水を下に落として発電する。だから、揚水発電は在庫のできない発電の蓄電装置だと言う人もいる。ポイントは水を汲み上げている時間(揚水時間)は発電できないと言う点にある。だから上記表で様々な組み合わせをしているわけだ。

 様々な夾雑物を取り去ってみれば、上記表で発電時間と揚水時間の合計は常に24時間、すなわち1日になる。言い換えると1日24時間をどう「発電時間」と「揚水時間」に割り振るかという問題に帰着する。揚水時間が短ければ短いほど発電能力は落ちることになる。それをこの表ではもっともらしく検証している訳だが、お気づきのように揚水時間を最大13時間としているところにトリックがある。揚水時間を13時間最大としたのは発電時間を最低限でも11時間確保したいためだが、果たして11時間も発電する必要があるのか?(実は最初私もこのもっともらしい表のトリックにひっかかった。そしてなるほど揚水発電では最大230から240万kWが限度だと思った。)

 考えても見て欲しい。1日11時間や12時間もその日のピーク電力使用が続くわけはない。これまでの実績でいうと、平日オフィスや工場が動いている時でピーク時間は午後2時から午後4時までの2時間、その前後を合わせても4時間も発電すれば、揚水発電の役割は十分に果たせる。仮に発電時間を4時間としよう。そうすると1日20時間はせっせと捨てる電力をひらって揚水発電所は水を汲み上げられる計算になる。私はこう考えて関西広域連合の検証で出た数字「揚水発電能力239kW」はインチキだと結論するに至った。

 実際に私の手元に、2012年7月19日から8月1日までの関電ピーク時揚水発電実績表がある。これを見ると2週間の平均が416万kW(設備利用率94.1%)で、ほぼ100%稼働していることが判る。7月21日や26日などは101.4%の利用率を示している。これは、原発がフル稼働して捨てる電力が多くなったことと関係している。他の電力源は需要に合わせて発電量を一定の範囲で調整できるが、原発は一定の発電量に達するとその発電量を維持しなければならない。夜間や早朝の電力需要が落ち込む時もただバカみたいに一定量を発電しなければならない。それら捨てる電力を揚水発電がせっせとひらって水を汲み上げているわけだ。もちろん水を落として発電する時間は、1日4-5時間もあれば足りる。原発は融通の利かない無駄の多い発電システムなのだ。

広島2人デモ8月3日配布チラシ裏面データより。数字はすべて「平成23年度関西電力有価証券報告書」および関電「でんき予報」過去実績ダウロードデータより引用)

 さてここまで、この退屈な記事を辛抱強く読まれた方は、関西広域連合は政府関電に完全に欺された、と判定されるだろうか?私はそう判定しない。関西広域連合の「エネルギー検討会 電力需給等検討プロジェクトチーム」は専門家が入っている。ついこの間山口県知事選挙に出て落選した飯田哲也も入っている。なによりもしっかりものの大阪市長・橋下徹が目を光らせている。こういう人たちが、この子供だましのようなトリックに引っかかって欺された、と考えることは非常に無理がある。むしろ関西広域連合は政府・関電とグルだった(非常に下品な言葉だが、これは私のせいではない。私の言葉使いが下品なのではなく、彼らの詐術が下品であり、その他の言葉が見当たらないせいだ)と考えた方が妥当だと思う。

 そう見ていくと、橋下の絶妙の「降参宣言」のタイミングの、政治的意味も理解できようというものだ。

 この項を終わるにあたって、一言だけ付け加えたい。関電管内は未だに10%節電体制である。これだけ電力が余っているのになぜ節電体制か。それは、政府・関電の辻褄合わせである。政府・関電は夏の最大需要を3015万kWとし、15%不足と結論した。大飯原発の2つの原子炉が動いてみてもわずか238万kWに過ぎない。彼らの需要予測からすれば約8%に過ぎない。差し引きまだ7%不足する勘定だ。10%節電はこのための辻褄合わせにすぎない。実際には電気は充分足りている。それはこれまで見たとおりだ。

 こんな節電を守る必要はない。特に中小零細事業者や疑う事を知らない人々こそ律儀にこの節電要請を守ろうとしている。自分の大事な生活の糧を犠牲にしてまで。大事な商売を犠牲にしてまで。命や健康を犠牲にしてまで。

 こんな辻褄合わせの節電計画を守ることはない。政府・関電はあなたがたのことはまるっきり考えていない。自分たちの利益のために、しかも辻褄合わせのためだけに節電を押し付けている。

 あなたがたの善良さにつけこんだ、こんな非人間的なことを許してはならない。生活と命を守るために節電をしてはならない、と呼びかけたい。


(以下のその②へ)