(2012.9.12)
訂正2012.9.19
No.049


【お詫びと訂正】

  この記事の中で四国電力の電力供給能力に誤りがあったのでお詫びして訂正する。四国電力の電力供給能力を考える場合のキーポイントの一つは、日本随一の電気卸売り事業者である電源開発の電気生産力である。この記事の表「四国電力の原子力発電を除くピーク時最大供給能力(推定)」では、同社橘湾火力発電所(たちばなわん)の発電能力を120万kWとしているが、実際には210万kWだった。<http://www.jpower.co.jp/bs/karyoku/open_day/tachibanawan.html>を参照のこと)ナマ分かりの私が「210」を「120」と見誤って記載し、それがそのまま訂正されずに掲載というお粗末だった。大変申し訳ない。

 表「四国電力の原子力発電を除くピーク時最大供給能力(推定)」も別掲のように訂正する。


 橘湾火力発電所(徳島県阿南市橘町)は、1号機(105万kW)が2000年7月に、また2号機が(105万kW)が同年12月に運転を開始、合計210万kWの出力をもつ大規模火力発電所となった。燃料は石炭である。電源開発のWebサイトが「最大出力210万kWの大規模石炭火力発電所です。単機出力105万kWは石炭火力発電所としては日本一の規模を誇り、発電した電気は四国だけでなく、関西・中国・九州地方にも送られています。また、揚炭設備等は隣接する四国電力(株)の橘湾火力発電所と共同利用を行い、設備利用の効率化も図っています。」としている通り四国電力の橘湾火力発電所(出力:70万kW燃料:石炭)と隣接しており、また近くの四国電力阿南発電所(出力:124.5万kW燃料:石油ガス)と合わせれば、この地域は404.5万kWの大発電地帯となっている。

 この火力発電地帯の役割は明白で、もともと市場の小さい四国地帯や他の地域、特に関西地域に対する電力不足時のバッファの役割である。今夏さかんに「電力不足」のウソが大手マスメディアを通じて、こうした分野の知識に乏しい一般国民の頭に刷り込まれたが、実際には、関西電力管内も四国電力管内も原発なしでも十分な電力供給があったのである。

 記事の本文の要旨は訂正しない。訂正しないどころか四国電力管内は伊方原発なしでも十分な電力供給があった、という主張を逆に強く裏付ける結果となるからだ。

 ただ本文は以下の記述に訂正する。(訂正部分は赤)


 『四国電力の他社受電の特徴は他電力会社からの「融通電力がゼロ」の点にある。よほどの緊急時でなければ、他から融通電力を受電することはない。四国電力はつねに融通電力の送り手なのだ。それではこの他社受電はどこから来るのか?前出の表にあるように、四国電力管内の独立系電力事業者だ。日本随一の卸売り電気事業者「電源開発」を独立系電気事業者と呼ぶのはいささか気が引けるが、電源開発は徳島県の阿南市に出力210万kWの石炭火力発電所を持っている。さらに、電源開発は4カ所の水力発電所合計18万7000kWの出力がある。さらに土佐発電所は、太平洋セメントの高知市内にある工場の敷地内に立地しており、電源開発、四国電力、太平洋セメント三社が出資した発電会社で100%販売先は四国電力だ。』


以下本文

広島2人デモ

その⑥ 大飯原発再稼働:電力業界の拡声器としての朝日新聞

原発を今すぐやめるかやめないか―これが究極の選択


 「一つ目猿の国」の二つ目猿

 今日は8月20(月)である。マスコミのオリンピック報道フィーバーは一段落した、と思ったら、今度はメダリストを大きく取り上げての報道だった。今日は午前11時から東京銀座のオリンピック・メダリスト・パレードだった。それを見る限り、日本には福島原発事故も「フクシマ放射能危機」も大飯原発再稼働もなにもなかったかのようだ。(それにしてもNHKの狂ったようなオリンピック報道は異常だった。人々の目をオリンピックに引きつけたいのだな、と思ったのは私1人ではあるまい。)

 時々私の方がおかしいのかしらん、と錯覚に陥る。マスコミの報道ぶりを見る限り、私はまるで「一つ目猿の国」に迷い込んだ二つ目猿のようである。(私が一つ目猿であれば幸いである。)

 さて2012年8月の日本のマスコミの、「大飯原発再稼働」報道に対する沈黙ぶりと同様、4月終わりから5月中旬にかけての報道は、8月ほどではないにせよいったん沈静化していく。今考えてみると、これで“勝負あり”、後は内閣の決定を待つばかりという雰囲気が流れていたのではないかと思う。そして朝日の記事は、徐々に次のターゲット、すなわち「電力不足」、「料金値上げ」の脅しキャンペーンに向かっていく。いわば「大飯原発再稼働決定」へ向けての地ならしである。


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   朝日新聞大阪本社版(10版)の4月21日(土曜日)付け紙面(5面)では、『民主議員「再稼働は拙速」』『福島選出6人 提言へ』と題する記事が掲載される。(署名は関根慎一)この記事の内容は―。

1. 民主党最高顧問で福島県選出の渡部恒三ら6人が大飯原発再稼働の先送りを求める提言を首相官邸に持ち込もうとしたが待ったがかかった。
2. 官邸は再稼働反対の反発が党内に広がるのを警戒している。
3. この提言は「先送り」の他に、「各調査委員会の報告を踏まえる」、「原子力規制庁の発足後新たな安全評価審査指針を策定する」、「立地自治体が同意する」といった条件を含んでいる。
4. 地元福島県知事の佐藤雄平も再稼働に反発している。

 ここでも私が気になるのは関根の言葉使いだ。関根は『提言では野田政権が13日に大飯原発・・・の再稼働を「妥当」と判断したことについて「あまりに拙速であり、福島県民を落胆させる」と批判。』と書いている。このシリーズのその⑤「原発を今すぐ封印しよう、それが最良の取り引きだ」でも検証したように、13日の閣僚会合では「大飯原発再稼働」を妥当とはしていなかった。「再稼働は安全」であることを確認、また電力需給の面から見て「再稼働の必要性」を確認したというに止まる。どこにも「再稼働妥当」とは言っていない。関根の書きぶりには、「再稼働」に関する「安全判断」(内閣の権能ではない)と「政治判断」(内閣の権能)との区別を曖昧にしようという意図が感じられる。そういえば、4月19日(木)朝日新聞(大阪本社版10版)に登場する、この曖昧化を助長する記事『再稼働閣僚会合を録音』も関根の書いた記事だった。

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 この日同じ5面にはじわじわと電力不足の恐怖をあおる記事が掲載される。『原発 滞る安全確認』「今月設置予定 めど立たず」『経産相「規制庁発足まつ」』の記事である。(署名なし)

   見出しだけ見ていると原子力安全規制庁の早期発足を促す批判記事かと思うかも知れないがそうではない。原子力規制庁がいつまでも発足しないので、大飯原発の次の原発の再稼働のメドが立っていない。経産相の枝野は「次の再稼働は原子力安全規制庁の発足を待って行う」といっている。一方原子力安全委員会はすべての作業を停止しており機能不全状態だ。政府は大飯原発の再稼働ありきの姿勢だったため、需要抑制対策(節電対策)は進んでいない。政府のエネルギー・環境会議は「需給検証委員会」を開いて、5月中旬までに結果をまとめる。政府がどの程度の節電を呼びかけるかも決まる予定、とする記事である。
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 じわじわと電力不足の恐怖を煽る

 要するにこの夏電力が足りないのは決定的だが、どの程度足りないかは5月中旬に判明する、という記事だ。

 まずこの記事、いや朝日新聞の大前提は「原発なしでは日本は電力不足」という見方だ。ここを押さえておかなければ、朝日新聞の記事全体を正確に理解できない。

 リードから見ていこう。

 
 今年夏までに原発をどれだけ再稼働するのか。原子力規制庁発足のメドが立たず、安全確認の手続きが滞っている現状では(大飯原発の次の)再稼働の準備は整っていない。』

 『安全委は作業を停止』の3段見出し部分では、再稼働を進めるには原子力安全・保安院と内閣府の原子力安全委員会が安全を確認することが前提だが安全委は大飯原発の体制評価(ストレステスト)の結果を確認しただけだ、確かに原子力安全保安院は四国電力・伊方原発の耐性評価を行ったが、安全委員会はその確認作業を進めていない。規制庁法案は国会審議にすら入っていない、と書く。要するに原発なしで今年の夏の電力不足をどう乗り切るのか、と言っているわけだ。

 果たして『節電 遅れる対策』の2段見出しでは、

「伊方が動かないと需給はきびしい。火力が1基何らかのトラブルで止まれば、非常に綱渡りの数字だ」。四国電力の千葉昭社長は20日の記者会見で、今夏は電力が足りなくなる恐れがあると言った。』
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 と書いて危機感をそれとなく盛り上げる。「発表報道」の面目躍如といったところだ。(電力会社はウソつきとほぼ相場が定まっているところに、何の批判も検証もなしに四国電力社長の言葉を読者に取り次ぐのだからこれは確信犯と断言しても構わない)


 四電社長・千葉昭の破廉恥なウソ

 ここで四国電力の電力生産・販売体制を見ておこう。次の表は2010年度(2010年4月から2011年3月)の四国電力有価証券報告書から作成した四国電力「電力生産設備」表である。


 大ざっぱに言って、合計697万kWの生産設備をもっていて、その比率は水力16.4%、火力54.6%、原子力29.0%である。ところが実際の生産になると、水力8.7%、火力47.4%、原子力42.6%となる。生産設備全体に対して原子力発電の比率を上げるために、水力・火力の利用率を抑制している。これは関西電力と非常によく似た体質である。

 しかし四国電力はもともと小さな市場しかもっていない。その上に伝統的に四国に本拠を置いてきた住友グループは自前で発電設備を維持拡大してきた。また製紙業大手の大王製紙も自前で発電設備を持ち、四国電力に依存しない体制を取ってきたため、小さな市場が四国電力にとってさらに小さな市場となっている。ここが関西電力との大きな違いだ。参考に四国電力管内の主な独立系火力発電所の表を上げておく。


 もともと小さな市場のうえに、四国電力は伊方原子力発電所を持ってしまった。伊方発電所は1カ所で四国電力総生産設備量の約30%をしめる。四国電力にとっては不釣り合いな生産設備なのである。このため、四国電力は管内だけみるとさらに生産設備過剰となり、慢性的に他電力会社に融通電力と称して、電力を買ってもらわねばならない体質となっている。たとえば2010年度四国電力は342億2300万kWhの電力を販売したが、うち51億2300万kWhは融通電力として他電力会社に販売した。実に総販売量の15%を占めている。しかも家庭用を主体とする「電灯」1kWhあたりの販売金額が20.18円、事業会社を主体とする「電力」1kWhの販売金額が13.63円なのに対して融通電力は1kWhあたり9.25円でしかない。(平成23年四国電力有価証券報告書p8「販売電力量及び料金収入」を参照のこと)

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 さて今は4月20日四国電力社長・千葉昭が、「伊方が動かないと需給はきびしい。火力が1基何らかのトラブルで止まれば、非常に綱渡りの数字だ」と述べ、朝日新聞がそれを無批判に報道している内容を検証しようとしている。先ほどの四国電力生産設備表から原子力発電をまったく取り去ってみると、四国電力は最大494.7万kWしかないことがわかる。


 左の表は今夏四国電力の日毎ピーク時使用電力実績表だ。節電期間が開始された7月2日から掲載すると煩雑なので、温度が上がり電力需要が大きくなる7月17日からとし、8月19日まで掲載する。(四国電力でんき予報「過去の使用実績」をまとめたもの)

 これで見るとピーク時使用実績は、500万kW越えの日が、7月25、26、27、30、31日、8月2、3、6、7日と8日もある。原発なしで500万kW弱しかない四国電力とすれば千葉の言うとおり「綱渡り」であり、原発なしでは非常に厳しい数字と見える。

 ところが実際にはそうではないのだ。次の表は、「四国電力 8月21日 ピーク時供給力の内訳」である。この日四国電力はピーク時571万kW供給していた。原発なしで500万kW弱の生産能力の四国電力がなぜ571万kWも供給できたかというと、そのネタは「他社受電」にある。


 四国電力の他社受電の特徴は他電力会社からの「融通電力がゼロ」の点にある。よほどの緊急時でなければ、他から融通電力を受電することはない。四国電力はつねに融通電力の送り手なのだ。それではこの他社受電はどこから来るのか?前出の表にあるように、四国電力管内の独立系電力事業者だ。日本随一の卸売り電気事業者「電源開発」を独立系電気事業者と呼ぶのはいささか気が引けるが、電源開発は徳島県の阿南市に出力210万kWの石炭火力発電所を持っている。さらに、電源開発は4カ所の水力発電所合計18万7000kWの出力がある。さらに土佐発電所は、太平洋セメントの高知市内にある工場の敷地内に立地しており、電源開発、四国電力、太平洋セメント三社が出資した発電会社で100%販売先は四国電力だ。(次のサイトに比較的詳しく設立の経緯が記されている。<http://www.jpower.co.jp/news_release/news050331-3.html>)

 さらに、住友共同電力(<http://www.sumikyo.co.jp/>)は、もともと住友化学を中心とする住友グループの電力会社であり、四国のグループ内企業に電源供給をしてきたが、今は四国電力にも電力を供給している。(供給量不明)また大王製紙三島工場内には50万kW出力の大規模発電所をもっており、ここも余剰電力を四国電力に供給している。(ただしピーク時2万kW程度の小規模供給と見られる)

 これは私の推測だが、上の表にもあるように、四国電力は原発なしで494.7万kWの発電能力、それに見てきたような独立系電気事業者からの供給最低150万kW以上合計650万kW以上の供給能力を持っていることになる。だから管内ピーク時の電力需要が500万kWを越えても全く供給力を越えることはない。

 4月20日、四国電力社長・千葉昭が「伊方が動かないと需給はきびしい。火力が1基何らかのトラブルで止まれば、非常に綱渡りの数字だ」と記者会見で公言した時、彼はこれらの供給状況を知らなかったのか?そんなことはあるまい。彼は当然知っていた。千葉は大ウソつきである。それを発表のまま伝える朝日新聞も大ウソつきである。

 (原発がいい悪いは別として、もともと四国電力のような規模の会社が原発などを持つべきではなかったのだ。あまりにもリスクが大きすぎる。伊方原発が廃炉と決まれば四電はただちに債務超過同様の状態に陥る。廃炉費用や原子炉核燃料処理費用を四電規模の会社が負担できるわけはない。株式市場も警戒感を強めている。今年4月20日頃、ちょうど今この項で問題にしている朝日新聞の記事が出た頃、四電の株価は2300円前後だった。8月20日の終値は1213円である。4ヶ月で半値近く下がってしまった。<http://www.unoworks.com/trade/stock/num_9507.html>。関西電力もひどい。4月10日の始値は1340円だった。8月20日の終値は670円とちょうど半値である。<http://www.unoworks.com/trade/stock/num_9503.html>)


(四国電力 伊方原発 photo by Sarah Amino 2011.11.11)

 朝日が読者に刷り込みたいこと

 さて道草を食ってしまった。朝日新聞4月21日付け朝刊(大阪本社版10版)5面に掲載された『原発 滞る安全確認』と題する記事を検証していこう。

 四電社長の千葉は『「規制庁の発足時期が明確でないなら今の体制で粛々と手続きを進めていただきたい」と政府に訴える』とこの記事は書いている。結局朝日が読者の頭の中に刷り込みたいのはここだ。すなわち、原発なしでは「電力不足、計画停電、料金値上げ。四国電力社長も訴えている」といったところだ。

   ご丁寧に今年3月資源エネルギー庁が作成した資料をもとに、『今年夏の電力需給の見通しは?』と表題のついた表を掲げている。(別添画像参照のこと)
 

 それによると猛暑で節電なしだと、関西電力の供給力は2353万kWで25%の電力不足、節電しても15.5%の不足。同じく四国電力の供給力は節電なしで8.2%の不足、節電ありで0.6%のゆとり。平然と載せている。朝日は政府・関電・四電・電気事業連合会とグルになって、この時期「原発なしでは電力不足」のデマを読者に刷り込もうと必死だった。

 4月22日(日曜日)大阪本社版(10版)経済面では、『「原発依存度を40年後ゼロに」枝野経産相』の比較的目立たぬ記事が掲載されている。(無署名)

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 中身は枝野がテレビ東京の番組に出演して述べた中身が中心だ。この記事によると、枝野は番組で、
 1.基本的には40年後には原発をゼロにする。
 2.建設中の原発は個別に判断するが、新増設できる状況にはない。
 3.40年の運転制限には例外がある。
 4.今夏の電力不足は電力使用制限制限令の適用せずに、任意の節電で乗り切りたい。

 と述べたという。朝日はしきりに枝野の発言が揺れると書いているが、枝野の発電が「遠い将来の原発ゼロ」という意味では全くぶれていない。それが「脱原発」というものだ。「脱原発」は、現在ただ今は原発が必要なのである。しかしこの記事で言いたいことは、こうしたたわごとではない。次の箇所である。引用する。

原子力安全委員会が原発のストレステスト(耐性評価)の結果の確認作業を中断していることについては、「安全委」に命令できる立場ではない(当たり前である。安全委は独立機関の建前だ)としながらも、「結果が適切だったかどうかは確認していただきたい」と述べ、安全委で止まっている四国電力伊方原発3号機の確認作業を進めてほしいとの考えをにじませた。』

 この時期朝日の編集幹部の頭には「大飯原発再稼働は決まり。次は伊方を再稼働させねばならない」という思いが強かったに違いない。


 関電の需給見通しを無批判に掲載

 1日おいて4月24日の紙面(大阪本社版10版)はどこから手をつけようかと思うくらい「大飯原発再稼働」関係の記事が掲載されている。

  この前日の4月23日、関西電力は今年の夏の電力需給見通しを公表した。その内容を伝える記事が1面に掲載されている。(無署名)『関電「最大16.3%不足」』『今夏見通し 政府検証委に報告』と見出しを打った記事だ。一部を引用する。

関電によると、猛暑だった2010年8月の最大需要(3095万キロワット)に節電効果を織り込むと需要は3030万まで下がるが、供給力は2535万キロワットに止まり495万キロワット不足するという』

 関電の予測は2010年8月の最大需要3095万キロワットをスタートにしており、2011年夏の最大需要2784万kWをスタートにしていない。これは、2784万kWを使うと、原発なしでも今夏電力不足にならないためだ。その理由として「2010年並の猛暑」を使った。つまり「2010年並猛暑」そのものにトリックがすでに仕込まれていた。

 3095万kWに節電効果を織り込むと需要は3030万kWに下がるという。つまり関電は65万kW節電効果を見込んでいることになる。すなわち3095万kWに対してはわずか2.1%でしかない。(後々問題になるので、この数字、関電は節電効果を2.1%しか見込んでいなかったことをよく憶えていてほしい。)

供給力は2536万キロワットに止まり495万キロワット(16.3%)不足するという。』

 3030-2536=494だから495万kWの不足、495÷3030=0.1633だから16.3%、なるほど計算は合っている。ただしこれは2010年並の猛暑の場合。

平年並みの気温で、節電効果を織り込んだ場合でも400万kW(13.5%)足りないとした。』

 猛暑の場合が3095kWで平年並みだといくらと見ているのか?400万kWが全体の13.5%だから、400÷0.135=2962.96、丸めて2963万kWと見ていることになる。この場合も同じ節電効果2.1%を織り込み済みだとすれば、節電なしでは2963×1.021で3025.22、丸めて3025万kWの最大需要と見ていることになる。ここではじめて「この計算、どこかおかしいな」と気がつく。というのは「3.11」後最初の夏、2011年の関電管内の最大需要は、前述のように2784万kWだった。そして昨年は関電のいう平年並みの暑さだった。平年並みの暑さの実績値が目の前にあるのに、それを使わずなぜ2010年の数値を使うのか?この答えは簡単に出るだろう。2010年の数字でなければ、後に見るように「関電管内15%不足」の数字は絶対出てこないからだ。まるで子供だましである。

 この記事を続けよう。

同委員会(政府の“第三者”需給検証委員会のこと)では今後、こうした見通しを検証し、5月の連休後に結果をまとめる。政府は、それを受け、電力不足の地域に数値目標を求めるなどの対応をまとめる予定だ。』

 まるきり「大本営発表」記事である。


 検証記事と見せかけて電力不足を刷り込む

 この日2面には『夏の電力不足 本当か』の見出しがついた記事が、『1議席が国を支配する』という見出しのついたこれも相当アブナイ記事と並んで麗々しく掲載されている。(1議席が国を支配する、の記事も相当悪質だが、ここでは立ち入らない)

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 見出しだけを見れば、「今夏電力不足」を実証的に検証した批判記事だと誰しも思うだろう。ところがそうではない。批判とみせて権力側に誘導していく「悪質」朝日の面目躍如といったところだ。早速解剖してみよう。(この記事は無署名)

 リード記事は次のようにいう。

原発が動かないと、この夏、電力が足りなくなる―。電力会社はこう主張するが、本当なのだろうか。節電や会社間のやりとりで乗り越えられないのだろうか。専門家による検証が始まった。』

 十分期待を持たせる書き出しだが、実はもうここには、政府・関電、それから専門家といわれる人々の主張がちゃんと織り込まれている。それが「節電」や「会社間のやりとり」、すなわち融通電力でなんとかならないか、という主張である。「節電」に強制力を持たせるためには、違反をすれば罰則をともなう電力使用制限令の発動が必須である。(「電力使用制限等規則」を参照のこと。2011年東日本大震災に伴う「電力不足」解消のため、発動されたが、実際には原発なしでは電力不足をアピールするための政府のパーフォーマンスだった。このため7月1日からスタートした制限令発動は予定よりも早く終了させざるをえなかった。<http://www.garbagenews.net/archives/1818429.html>を参照のこと)

 法的拘束力のない節電効果は、先ほどの関西電力の予測でも見たように2-3%が精々である。別ないい方をすれば電力使用制限令を発動しない、ということはもともと節電が重要ではない、ということでもある。融通電力にいたっては、電力会社間の送受電であり、本当に不足ならば、一方に送れば他方が不足するという関係になり全体の不足を解消する決め手にはならない。すなわちこのリード記事は「重要ではないこと」(節電)と「決め手にはならないこと」(電力会社同士の融通電力)を取り上げて検証する、といっていることになる。本当に検証するのなら、「電力会社の需要予測が正しいのか」、「電力会社の主張する供給力が正しいのか」の視点から見なければならない。この2点にメスを入れない限り検証にならない。

 この記事は、「ピーク時使用電力」「最大使用電力」の説明をし、『一方、供給力の算出は、この夏に発電所の作ることのできる電力の最大限を積み上げた。』と説明をする。読者はこのいい方を信じてしまうだろうが、実際にはそうではない。「最大発電力」が最大供給力というのは関電の説明(電気事業連合会の説明)であって、供給力と発電力とは違う。最大供給力は最大発電設備+最大他社受電のことだ。

・・・電力不足を原発の再稼働の理由に使おうとしているのではないか、と疑う見方が出ている。このため電力各社は(いつもは供給電力を小さめにするのに)今回、いつも以上に供給力を多めに示した。たとえば、中部電力は緊急時以外は出力をやや抑えて運転する火力発電について今回はフル稼働を前提にした。九州電力は・・・』

 と結局電力会社の出してくる供給力は正しいことを力説している。関電についてみてみよう。朝日は1面の記事で関電の発表する今夏最大供給力は2536kWだと報じた。朝日によれば、これはいつも以上に供給力を多めに示した、つまり比較的信頼するにたる数字だということになる。

 原発を除くと、関電の最大発電設備は火力1691、水力820万kWで合計2511万kWある。だから関電の供給する電力は最大2536万kWという数字は、融通電力を考えてみると妥当な数字に見える。

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 もしこのシリーズをここまで通して読まれた方がいるとすれば、耳にタコのできる話になるが実際には関電公表の「供給力」はウソだった。上に示した表で、今夏関電管内での最大ピーク時使用電力は8月3日午後2時の2681万kWだった。この時関電は2999kWの電力を供給していた。関電のいう「電気使用率」はピーク時89.4%(=2681÷2999)ということになる。この2999万kWには大飯原発3号機、4号機が出力する236万kWを含んでいるので、火力・水力の電力分は差し引き2763万kWということになる。すでに関電水力・火力の合計設備を越えている。この時関電の水力と火力はフル操業、すなわちピーク時設備利用率は100%だろうと思うと、火力は84.7%、一般水力は66.9%、揚水発電は80.8%でゆとりがある。

 なぜか?答えは他社受電にある。この日他社受電はピーク時719万kWあった。他電力会社からの融通電力はそのうち、160万kW(中部電力76万、北陸電力3万、中国電力77万kW)でしかない。他社受電の22%でしかない。差し引き559万kW、すなわち原子力発電炉5基以上分の電力はどこからきていたのか?それは大阪瓦斯の子会社が経営する発電所や神戸製鋼所の子会社の発電所、電源開発の発電所、そのほか大規模事業所が持っている発電所からの余剰電力購入だった。つまり関西電力はこうして契約した独立電気事業者からの購入分、最低でも500万kWを合計すると、自社火力水力2511万kWに加えて原発なしで3011万kWの最大供給能力をもっているのである。この数字には融通電力はいっさいふくまれていない。もし融通電力を100万kWとするなら3111万kWの最大供給能力を持っているのである。もしこの3111万kWをピーク時90%の利用率とすれば、2800万kWの電力供給を、ゆとりを持ってできることになる。

 「今回は供給力を多めに算出した」、という朝日の記事がいかにデタラメかがわかるであろう。


2010年と2011年を都合良く使い分け

 この記事の引用を続けよう。

一方、ピーク時の使用電力は、多くの会社が昨年並みの節電で減ることを織り込んだとしている。このため電力が「足りる」とした会社でも、節電が見通し通りに進まず、電力不足にならないか、という声がある。「特に比較的規模の小さな電力会社では、「仮に主要な火力発電所が一つ、トラブルで止まれば、需給はぎりぎりになる」(北陸電力)という。』

 ここもおかしな部分だ。需要は2010年を基年として考えた。すなわち関電に例を取ると、需要は2010年8月3095kWだったことをスタート点にしている。2011年の夏は2784万kWがピーク時最大使用電力だった。従って2011年の節電効果は10%だったことになる。だから、2012年夏の節電効果も2010年を起点に考えなかればならない。実際に2012年並だとすると15%不足、16%不足といっているのだから。

 しかし節電の話になると、基年が途端に2011年になる。関電に例をとると、節電は3095kWに対してではなく、2784万kWに対して行うことになる。需要は2010年を基年とし、節電はすでに10%を達成している2011年を基年として考えている。先ほども見たように、もともと電力会社は、電力使用制限令がなければ、節電効果を2-3%程度としか見込んでいない。

 「見通し通り進」まなくても大勢に影響はない。「電力不足にならないか不安」ならば電力制限令を発動することだ。

 要するにこの『夏の電力不足 本当か』と題する記事は、批判記事と見せかけて(見せかけているのはタイトルだけだが)、その実電力会社の代弁をしてやっているいかがわしい内容なのだ。

 
 そしてそのいかがわしさは『節電と融通が焦点』と見出しが打たれた部分で頂点にたっする。

 「電力不足」を解消するポイントは先にも見たように、「自主的な節電」ではない。自主的な節電効果は2-3%でしかない。本気で節電を電力不足解消のポイントにするなら電力使用制限令を発動することだ。融通電力については、電力会社間でやりとりをするだけだから、トータルでの電力不足解消の決め手にはならないことは先に見たとおりだ。実際に関電の手当てをみても融通電力はほとんどあてにしていないことが見て取れる。以上を念頭に置いて次の記事を読んでみて欲しい。引用する。

だが、本当に電力会社が示した数字は信頼できるのか。検証を進めれば、まだ努力する余地は残っているのかも知れない。「節電のやり方はもっといろいろあるはずだ。」「電力会社どうしの融通(やりとり)の余地があるはずだ。(政府第三者需給検討)委員会では、意見聴取に応じた専門家から疑問の声が上がった。(これが本当に専門家なのか?)

供給力の面では・・・「融通」が焦点だ。・・・関西電力は8月の午後中部、北陸、中国の各社から計122万kWの融通を受ける。・・・・もう少し多く見積もる余地はありそうだ。』

 実際に各社はもっと多くの電力を関西電力に融通している。例えば、8月4日の土曜日だ。三社合わせて250万kWを融通している。この日は土曜日で、ピーク時使用電力は2296万kWと平日より300-400万kWも少なかった。電力需要が少ない日に平日の倍の融通電力をしてもらったおかげで関電は、火力発電の設備利用率を70.7%まで抑制できたのである。

委員会では、発電所の検査時期をずらして供給力を増やすことや民間企業の自家発電から買う電力を増やすことなどについても検証していく方針だ。』

 とこの記事は結んでいる。政府の検証委に言われなくても関電はちゃんとこうした独立系発電事業者と長期契約を結んでいた。しかし、この事実を誰も最後まで指摘しなかった。指摘しなかった理由は、検証委員会や関西広域連合の需給検証チームが知らなかったからではない。指摘すると「原発なしで電気は足りてしまう」からだ。朝日新聞の専門記者も知らなかったはずはない。大体秘密の情報でも何でもない。すべてよく知られた事実なのだから。だが朝日も指摘しなかった。指摘するとたちまち「電気は足りて」しまう。

 とんだ検証記事である。


国民全体を「当事者」から排除

 24日はさながら「再稼働」特集紙面である。いろいろ検証しておきたい記事も多いのだが、悪質な順から取り上げなければなるまい。大阪本社版(10版)3面には『再稼働 関与望む民意』の4段見出しで、朝日新聞が大飯原発再稼働に関して、地元の福井県、近畿地方(2府4県)で行った世論調査の結果を報ずる紙面となっている。

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 朝日新聞も世論調査が大好きなメディアである。この24日のつい10日前にも、大飯原発再稼働に関して全国世論調査を実施したばかりだ。このことはその「④大飯原発再稼働:政府・関電のウソと朝日新聞の拡声器ぶり」でも書いた。(「世論調査という名の世論誘導」の項参照のこと)

 この記事の中で、朝日新聞が全国世論調査と銘打ちながら、『原発を再稼働する場合「地元の市町村や県の同意が必要か、それとも政府が判断すればよいか」という設問』をすることによって、大飯原発再稼働の当事者として「国民全体」を慎重に排除する、という世論誘導をしていると指摘しておいた。朝日新聞の認識では、大飯原発再稼働問題に関して、たとえば広島に住む私は当事者ではないのだ。東京で「大飯原発再稼働に抗議しよう」と呼びかけている首都圏連合に応えて毎週金曜日の夕刻、首相官邸前に集まる十何万人の市民たちも当事者ではないのだ。これは野田政権の認識と完全に一致している。

 福島原発事故が解決を見ていない、まだ放射能を出し続けている中で、次の原発を再稼働させるべきないと考えている国民の多くは、ここでは当事者から完全に排除されている。

 4月24日に公表された世論調査は「国民排除」の延長線上で実施されている。第一に前回調査は全国調査だったが、今回調査は福井県と近畿2府4県だけが調査対象である。

 「世論調査は世論誘導」の鉄則から問題を検討してみると、設問表にまず注意を向けてみなければなるまい。

 一番重要な設問は「した」質問ではなく、「しなかった」質問である。この記事には下欄に『本社世論調査・質問と回答』というコラムがあり、設問表がついている。ところが、この設問表にはなくて実際に世論調査でした質問があるらしい。というのは、記事中に『原子力発電を段階的に減らし将来はやめるという「脱原発」への賛成は71%、14~15日の定例調査で聞いた全国の賛成とほぼ変わりない。』と書いているからだ。ところが「脱原発に賛成・反対」の質問は設問表にはない。ともかく、この調査では「原発をただちに停止し全てを廃炉に賛成ですか、反対ですか」の質問は排除されている。「反原発」の選択肢は朝日には存在しない。人々が「脱原発」でいてくれる間は心配ない。「脱原発」は永遠に的を射抜かないヘラクレスの矢だからだ。

 次の問題設問は、2つの設問が実はセットになっている。設問表から引用する。

野田政権は、大飯原発の運転再開に地元の同意を求めています。「地元」の範囲をどこまでにするべきだと思いますか。(択一)(以下回答) 県(福井県)とおおい町だけ-4 嶺南地方まで含む-11 県内全域-22 福井県以外も含める-59』

 もし「福井県以外も含める」という質問が「日本全国を含む」という質問だったとしても59%の回答率はそんなには違わなかったろう。しかし朝日新聞には、野田政権同様、全国を含めるという発想はない。第一そんなことをしたら「成るもの」(大飯原発再稼働)も成らなくなってしまう。

 これとセットになった質問が以下である。

大飯原発の運転を再開する際、滋賀県と京都府の同意も必要だと思いますか。 必要だ-85 必要ない-10』

 この設問の後「大阪府や兵庫県など原発から100キロ以内の府や県の同意も必要だと思いますか」の設問があってあたかも独立した質問のように思えるが、これはそうではない。100キロ以内に大きな意味がないとすれば(ないのだが)、これは滋賀県と京都府の同意が必要か、という設問と同義である。原発からの距離で地元を決めようという世論操作以上の意味はない。

 この記事には『京都・滋賀に政権説明』の見出しの一種の囲み記事がついており、野田政権が滋賀・京都に配慮していることを伝えている。引用する。

大飯原発の再稼働への反対が賛成を上回っていることは、野田政権の判断に影響を与える可能性がある。』

 このシリーズをここまで読まれた方があるとすればウンザリされると思うが、ここで再び「大飯原発再稼働までのロードマップ」を見ていただこう。



 このロードマップは恐らくは野田政権が3月末までに立てたロードマップだ。「⑦ 滋賀・大阪・京都に理解を求める」というステップはすでに重要ステップとして野田政権は織り込み済みである。『野田政権の判断に影響を与える可能性がある。』もなにも、野田政権はここに全力投球をしている真っ最中ではないか。そしてその切り札として「電力不足・計画停電」「料金値上げ」を脅しの切り札として使おうとしているその矢先ではないか。まことにこの囲み記事が次のように締めくくっている通りである。

政権にとって世論の動向は気がかりなところだ。野田佳彦首相は23日のTBSの番組で「地元に一定の理解が得られなければ、当然再稼働はできない」と強調。ただ「関西は今年の夏は相当厳しいと思う。必要性の問題も含めて判断していく」とも述べ、再稼働には前向きな姿勢だ。』

 この記事の見出し「再稼働 関与望む民意」の「民意」の中に国見全体を含めないことで、再稼働へむけて着々と世論を誘導している朝日新聞の姿がここでも出ている。


「反原発」は登場しない「オピニオン」

 この日4月24日はもう1本見逃せない記事が出ている。15面「オピニオン面」の『原発再稼働の前に』と見出しがつけられた記事だ。「耕論」というコラム名がつけられている。

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 3人の人物が登場する。内閣府原子力委員会委員長代理の鈴木達治郎(聞き手:高野真吾)、大阪大学特任准教授の神里達博という人物(聞き手:尾沢智史)、そして反原発ならぬ、実は脱原発の河野太郎(聞き手:荻一晶)の3人である。

 鈴木は『原子力発電をいいものにして、利用できるようにしていくのが私たち専門家の使命なのです。』と述べ、当然のことながら、原発をあきらめてはない。鈴木によれば、原発問題は「信頼回復問題」だということになる。従って彼の話は―。

そのためには、議論の中身を透明化し国民にみてもらう』ことが最重要であり、このことにつきるということになる。しかし核ビジネスを完全に透明にすると、誰も原発を支持しなくなる、このことが最大の課題であることは鈴木もよく理解している。こういう人物を紙面に登場させる点が朝日独特のバランス感覚であり、「一方に偏らない」朝日の限界、というよりも定見のなさ、というべきだろう。

 神里達博は「再稼働問題」を「リスク問題」から論じている。『原子炉を止めてもリスクは残ります。・・・3.11のとき福島第一原発の4号機は定期点検中でしたが、使用済み核燃料プールの水位を専門家は最も心配した。』

 ここらへんから神里の「リスク論」はすでにおかしくなる。「原子炉を止めてもリスクは残る」は事実だが、これが「福島原発4号機の使用済み核燃料プール」の話になると別だ。これは、一般的に原子炉を止めた時のリスクの話ではなく、事故を起こしていたのだ。もうリスクではない。現実の事故まで「原子炉停止でも残るリスク」に含められてはかなわない。ミソもクソも一緒というところだ。おかしいな、この人物と思って読み進めると、果たして次のようにいう。

 『再稼働のリスクはもちろんありますが、再稼働させないことでもリスクがある(?!)』

 どういうリスクかというとこのトンチンカンな人物は次のように言う。

停電や経済の影響などの社会的リスクに加え、老朽化した火力発電所も含め長時間使い続けることの安全性のリスクもある。』

 原発を再稼働させないリスクが「電力不足」や「老朽化した火力発電所を長時間使い続けて故障や事故を起こすかも知れないリスクだという。論理的に言えば、原発を動かさないことで電力が必ず不足する時にのみこのリスクは成立する。従ってこのトンチンカン氏は、「電力不足」が原発を再稼働しなければ必ず起こることを証明しておかなければならない。この証明がなければ、「原発を動かさないリスク」は発生しようがない。一般論でいえば「再稼働させない」ことと電力不足は無関係だからだ。「老朽化火力発電所」にいたっては、噴飯ものである。関電に限らず、すべての電力会社にとって発電所は「生産性設備」である。特に株式上場会社は、自らの生産設備を市場に報告し、市場はその報告を信じている。つねに報告された生産設備と生産能力は常に100%フル稼働するものと理解している。たとえば松下電器がその門真工場の生産能力と生産設備を市場や投資家に説明するにあたって、「うちの工場は老朽化していますので報告した生産能力には自信がありません。いつ壊れるかわかりませんから」といえば、そんなもの生産設備に数えるな、とどやされるのがオチだろう。しかしこのトンチンカン氏は平気で「火力発電所がいつ故障するかわからないので、これは原発を再稼働させないことのリスクだ」というのである。

 いつ壊れるかわからない火力発電所(生産設備)なら、市場に生産設備です、と報告しないがよろしい。報告するなら信頼できる生産設備に維持しておく義務がある。老朽化火力発電所が壊れるのは維持管理の問題であって、原発再稼働とは全く無関係である。それが論理というものだ。ちょっとこの人物の言うことはそのトンチンカンさが面白いので続けてみてみよう。

 『問題はそうしたリスクを客観的に評価する仕組みがないことです。』当たり前である。非論理はどこまでも非論理なのであって、非論理を「客観的に評価する仕組み」などあるはずがない。

 『電力不足にしても電力会社が「足りなくなる」といっているだけで、そのリスクが本当かどうかはわからない。(!?)』

 電力に限らず商品の需給関係は、生産力と需要の関数である。数字で詰めていけばリスクは必ずわかる。わからないのは、1.誰かがウソをついていて辻褄があわない、2.数字を調べていない、あるいは隠している、のいずれかである。「電力不足のリスク」はわかるのである。

 今回関電のケースでは、まず需要予測にウソがあった。すなわち、2010年の最大数字、すなわち夏場ピーク時最大需要は3095万kWから出発した。そして2012年の最大需要は3015万kWだとした。現実には、昨年2011年の夏場最大需要は2784万kWだったのである。すでに需要は10%も落ち込んでいたのである。関電の計算に従えば、東電福島原子力発電所事故があった後、大幅な節電を要求しなければならないはずの今年の需要予測は、なぜか2011年の最大需要を8.3%も上回るのである。

 次に供給量に誤魔化しがあった。有価証券報告書に報告している生産設備が、老朽化している、雨が少ないなどという理由を並べ立てて、過小に見積もった。その関電管内で営業をしている独立系電気事業者と供給契約を結んでいるにもかかわらず、これを正直に報告しなかった。実は彼らの供給力は500万kW以上もあったのである。

 こうした数字が正直に出されなかっただけで、決して「電力不足のリスクがわからなかった」のではない。逆にいうと「原発なしでも電力不足のリスクがなかった」から、以上のようなウソや誤魔化しが行われたのである。

 もうこのトンチンカン氏につき合うのはやめよう。この人物は「リスク評価」の専門家というふれこみだが、リスクに関してはどうも「不可知論者」のようだ。とてもものの役に立つとは思えない。


 反原発論者は常に反被曝が軸

 最後に登場するのは、ご存じ衆議院議員・河野太郎だ。この人物は反原発の旗手のように思われているが実はそうではない。引用しよう。

・・・(6月に提出予定の国会事故調査委員会報告が)原発の新しい規制組織のあるべき姿を提案することにもなっています。にもかかわらず政府は・・・このまま再稼働したら政治への信頼は本当に失われてしまう。(河野の指摘は本当である。それが官邸前再稼動反対抗議行動となって現れている。首相の野田はいまだにこのことに全く気付いていない。アメリカの支配層から「決められる政治家」とおだてられ、有頂天になっている。)まっさらなところから原発の安全性について考え直すのが筋でしょう。

脱原発はできます。まずは産業にも社会生活影響のない範囲で省エネを進める。・・・地熱発電も進め、再生可能エネルギーを増やす。もしも足りなければ天然ガスで穴埋めする。・・・きちんと手順を踏んだ上でなら、必要最低限の原発再稼働もあり得ます。』

 河野太郎は脱原発論者ではあっても、反原発論者では断じてない。反原発論者は、今すぐ全ての原発を封印解体してしまう論者のことだ。将来の「原発ゼロ」は脱原発論者ではあっても反原発論者ではない。反原発論者は原発問題を河野のように「エネルギー問題」とは考えない。これ以上の被曝を社会に加えない、また今ある被曝を最小限にするという意味での「反被曝論者」でもある。その意味で反原発論者は、原発問題を「生存権問題」あるいは「人権問題」と考えている。原発を含む全ての核施設は事故やトラブルを起こさなくても普段に放射能を出し続ける。人間の科学技術は核施設のもつ根本的欠陥、すなわち「放射能ゼロ」を実現できない。だから「低線量の放射線は人体に影響がない」とする「放射能安全神話」が必要となってくる。しかし「放射能安全神話」事実ではない。まさしく「放射線に安全な被曝線量はない」のだ。

 やや、朝日新聞4月24日付け朝刊(大阪本社版)に掲載された『原発再稼働の前に』というコラムに深入りしすぎたかも知れない。しかし重要だ。朝日新聞には言葉の正しい意味での「反被曝論者」は一人も登場しない。すべて原発推進論者か脱原発論者だ。「脱原発」や「卒原発」は、「原発推進」の仲間であっても、反原発の仲間ではない。脱原発は永遠に的を射抜かない「ヘラクレスの矢」なのだ。究極の問題の立て方は「今すぐ原発をやめる」か「やめない」か、である。二者択一であり中間の選択肢はない。

 朝日新聞は、様々な議論があるようにみせかけながら、その実「反原発」を慎重に排除し、読者の目に触れないようにしているのである。

(以下その⑦へ)※準備中
(雑観No.50 懲りない朝日新聞、またまた関西電力のためのプロバガンダ報道)