(2012.10.16)
No.050

懲りない朝日新聞、
またまた関西電力のためのプロバガンダ報道



『今冬、電力足りる見通し』?!

 他の主要マスコミ同様、朝日新聞の『今夏電力不足』、『電力料金値上げ』キャンペーンは見苦しいものだった。『今夏電力不足』に幾分かの真実が含まれているならともかく、全くの虚構に基づく電力業界のウソの数字をそのまま垂れ流したものだけに、その見苦しさ、いかがわしさは倍加し、悪臭ふんぷんたるものがあった。特に朝日新聞の場合は、時に手の込んだアリバイ作りの紙面と共に電力業界、特に関西電力の『威嚇政策』に直接手を貸すものだっただけに、一層の悪質さが際だった。これら記事の虚偽性、デマ宣伝性、羊頭狗肉性は、雑観『広島2人デモ』シリーズで検証の途中である。『広島2人デモ』①~⑥参照のことこれらデマ宣伝記事の真の狙いは、関西電力大飯原発再稼働を合理化・正当化するものだった。

 2012年10月13日(土曜日)付けの朝刊5面の記事(大阪本社版)、『今冬、電力足りる見通し』『関電「最低限は確保」』の見出し記事を読んで、朝日新聞が悪臭ふんぷんたる「関西電力プロバガンダ紙」の役割を性懲りもなく続けていることを、私は正直ウンザリする気持ちで再確認したのである。

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 この記事のリードは次のように書く。
「関西電力は12日、この冬は電力不足に陥らないとの見通しを明らかにした。」当たり前である。これに続く記述がこの記事のミソ中のミソである。「大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が稼働し続け、節電を見込めば、電力のゆとりを示す「予備率」は安定供給に必要な3%を越える4.1%になるという。あらためて利用者に節電を要請するかは今後、11月上旬までに決める。」

 このリード記事によれば、『関西電力は今冬電力不足に陥らない』見通しなのだそうだ。しかしそのためには2つの条件がある、という。その条件とは――。

 ①大飯原発が稼働し続けること。
 ②さらなる節電

 以上の条件を満たせば「予備率」は4.1%となり今冬電力不足に陥らない、という。ここですでにこの記事の虚偽性が明らかになる。というのは、条件の一つの「節電」数字が示されていないのに「予備率」予想が「4.1%」と明示されているからである。「節電数字」が示されていないのに「予備率」予想が出ている。これは「節電」はつけたりで、「大飯原発再稼働継続」が真の狙いであろう。言いかえれば、大飯原発再稼働継続さえできれば、「今冬電力不足に陥りません」といっているのに等しい。


「予備率」とはなに?

 そもそも「予備率」とは一体何なのだろうか?この記事によれば予備率とは「電力のゆとり」を示す数値だという。しかし「予備率は電力のゆとりを示す」という説明は典型的な同義反復である。「予備率とは?電力のゆとりを示す数値。それでは電力のゆとりとは?予備率が3%を越えた時」という同義反復に相成る。つまり何も説明していない。わかりやすい説明と詭弁(同義反復)は自ずと違う事柄だ。

 東北電力のWebサイト(<http://setsuden.tohoku-epco.co.jp/terms/supply.html>)は、『予備率』を次のように定義している。



 『予備力』とは『予想最大電力』に対して『ピーク時供給力』がいくら上回っているかを示す数値のことだ。予備率とは予備力の予想最大電力に対する割合のことだ。いかにももっともらしいが、『予備率』に一体意味があるのかどうかがまず問題になる。あまりにバカバカしい話なので真面目に説明しようという気も薄れるが、朝日新聞がおごそかに取り上げているので、そのバカバカしさを説明しておかなければならない。

 ポイントは『ピーク時供給力』にある。ここでは関西電力の例を取り上げて説明することにするが、予備率に何らかの意味があるとすれば、『ピーク時供給力』が関西電力の『ピーク時供給力の上限』の場合のみである。

 『ピーク時供給力<ピーク時供給力の上限』の場合は、『予備率』になんの意味もないことはすぐ見て取れるであろう。ピーク時供給力はその日のピーク時最大需要量に合わせて変化させられるし、またピーク時使用電力に合わせてそれを若干上回る電力を供給しなければ無駄な電力供給をすることになる。次の表は2012年8月3日の関電管内電力供給実績表である。

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元のエクセルファイルはこちら

 これは関西電力が毎日公表する『でんき予報』のWebサイトからダウンロードしたものだが、2012年8月4日に更新した8月3日の供給実績である。

 この日関西電力管内の気温は最高36.7℃でもっとも暑い日の一つだった。前日までには36℃の予想をしていたので関西電力は『ピーク時供給力』を2999万kWに上げた。その日のピーク時最大電力使用量は、午前9:00頃からジリジリと上昇をたどり、午後1:00頃には2600万kWを越え、午後2:00には2681万kWのピークを迎えるのである。この表によれば、この時の『電気使用率』は89%だから電力供給量は2978万kWだったはずである。だからこの日関西電力はピーク時供給力2999万kWとしながら実際にはそれより約20万kW少ない2978万kWしか供給しなかったことになる。


電気使用率の裏返しが「予備率」

 ここで『電気使用率』といっているのは、供給に対して実際に使用した電力の比率のことである。なんのことはない、供給に対して実際に使用しなかった電力の比率が『予備率』、使用した電力の比率が『使用率』というわけだ。使用率を裏返すと「予備率」になる。従ってこの日の『予備率』は使用率が89%だから予備率は100%-89%=11%ということになる。それではこの日、関西電力のピーク時最大供給電力は2999万kWが上限だったのか?そんなことはない。自社設備による火力発電は84.8%の設備利用率とまだ余裕があったし、水力発電にいたっては設備利用率66.9%と大きな余裕があった。この状況では『電気利用率』だの『供給予備率』だのといった数値はなんの意味も持たない。単にその日供給した電力に対して利用率は何%だったかを示す数値にすぎない。裏返しが「予備率」だ。

 余裕をもった電力供給は必要だが、みすみす無駄とわかっている供給をする愚か者はいないから、ほぼ使用率は80%から90%%に保たれていることになる。従って『予備率』もほぼ10%から20%に保たれていることになる。それが今年の夏の関電管内の供給実績の推移であった。

 わかりやすいのは最高気温が34.6℃だった8月12日の日曜日である。休日は電力需要が落ちる。生産事業所やオフィスが閉じているので電力需要が落ちるのは当たり前である。この日電力使用のピークは家族連れが外に出かけて一斉に帰宅する午後7:00にやってくる。2066万kWのピーク使用だった。それではこの日も関電は2999万kWを供給したかというとそんな無駄なことはしない。日曜日の電力使用のパターンはわかっているので、午後7:00のピーク時使用に合わせて2477万kWの供給を行った。それでは2477万kWが関電の最大供給能力なのかというともちろんそうではない。原発なしで(大飯原発も除いて)、3000万kW以上、恐らく3100万kWから3200万kWが関電のピーク時最大供給能力であろうが、そのうちの2477万kW を供給したに過ぎない。それでもこの日の電気使用率は83.7%ということになる。従って予備率は16.3%ということになる。使用率だの予備率にはそれ以上の意味はない。


デマを流す首相官邸

 ここで次の文章を読んでみて欲しい。引用するのは首相官邸のサイト『今夏の電力需給について』と題するページである。このページで『今夏の関西電力管内における電力需給の検証』という記事には次のように書いてある。
(<http://www.kantei.go.jp/jp/headline/summer2012_denryoku.html>)

 「① 最大需要を記録した8月3日(金)(最高気温36.7℃)、予備率は+11.6%でした。
  仮に大飯原発3、4号機の再稼働分(237万kW)がなかったとすると、関西電力管内の予備率は+2.7%となり、3%を下回る事態になっていました。」

 首相官邸のサイトでは、最大供給電力を2992万kW、ピーク時最大使用電力を2682万kWとしているので、電気使用率は88.4%、従ってそれを裏返した『予備率』は11.6%としている。しかし大勢には影響ないだろう。問題は「②仮に大飯原発3、4号機の再稼働分(237万kW)がなかったとすると、関西電力管内の予備率は+2.7%となり、3%を下回る事態になっていました。」という記述である。

 関電大飯原発3・4号機からの供給電力237万kW(関電の資料では236万kWとなっている。これも大勢に影響はない)がなかったとすると、関西電力管内の予備率は2.7%になるのか?そういえるのは、最大供給電力2992万kWが関電の供給できる上限だった場合のみである。後述のようにこの日、自社火力発電設備能力1691万kWに対して、設備利用率は84.7%だった。これを約10%上げて95%だったとしよう。そうすると約160万kWの追加出力ができることになる。また378万kWの自社水力発電設備能力に対して設備利用率は66.9%だった。これも90%まで利用率を上げると87万kWの追加出力ができることになる。また442万kWの揚水発電能力に対して利用率は80.8%だった。これも8月6日、11日、19日、20日などのように100%にしよう。すると85万kWの追加出力が得られることになる。融通電力を含め他社からの購入を全く増やさなくても、自社火力、自社水力、自社揚水で332万kWの追加供給ができたのである。そもそも大飯原発3・4号機の最大供給能力236万kW自体、さして大きな供給力ではない。8月3日のピーク時最大供給2999万kWから見れば、わずか7.87%にすぎない。他電力会社からの融通電力を除いた購入電力(電源開発やその他の独立系電気事業者からの購入電力)はこの日559万kWで、全体の18.64%を占めている。自社火力発電からの供給に次いで大きい供給源だ。しかもこの日が最大の供給限度というわけではない。これも増やそうと思えば増やせる。(8月3日のピーク時最大供給電力の内訳は次項で詳しく見る)

 だから首相官邸の「仮に大飯原発3、4号機の再稼働分(237万kW)がなかったとすると、関西電力管内の予備率は+2.7%となり、3%を下回る事態になっていました。」という分析は間違い、というより「大飯原発再稼働が必要だった」と言い張るためのデマというべきである。
(首相官邸がデマを飛ばすのは亡国の前兆である)



ピーク時供給電力の内訳

 ところで、関電8月3日2999万kWの電力供給の供給源の内訳はどうなっていたのであろうか?それを示すのがこの表の内訳数字である。それによれば2999万kWの内訳は、『原子力発電:236万kW』(すでに大飯原発3号機・4号機はフル稼働に入っていた)、『火力発電:1433万kW』、『水力発電:253万kW』、『揚水発電:357万kW』、『地熱・太陽:1万kW』、『他社受電:719万kW』、従って『合計:2999万kW』となる。

 『揚水発電』は水力発電の一種であるが、ここでは別に分類されている。揚水発電は、夜間や早朝など供給に対して電気使用率が低い時、たとえば、8月3日の『供給実績表』で夜中の0:00から朝の6:00まではほぼ『使用率50%』で推移している、これは、供給する電力の半分を捨てていることを意味している、この本来捨てる電力を利用して揚水発電所の下側発電設備に溜まった水を上側発電所に汲み上げる(揚水)、そして時間差を置いてまた下側発電所に落とす、この時に発電タービンを回して電力を得る仕組みだ。電力が在庫のできない特殊な『商品』であること、また供給力は常に最大需要に合わせなければならないこと、さらに最大需要は1日24時間の中で精々4-5時間程度しかないといった『電力商品』の特徴をうまく組み合わせた賢い発電方法である。

 さてここでの大問題は、『他社受電:719万kW』とは一体どんな供給源かという問題である。この表では他社受電の内訳を『中国電力77万kW』としか表示していないが、あとで正確な数字が提示され中部電力70万kW、北陸電力7万kW、中国電力77万kWの数字が出された。つまり他電力会社からの供給、『融通電力』は160万kWだった。

 電力会社(沖縄電力を含めて10電力会社)同士の電力のやりとりのことを『融通電力』と呼んでいるが、8月3日『他社受電:719万kW』のうち実は『融通電力』は160万kWしかなかった。それでは残りの他社受電559万kW(719-160)はいったいどこからきたのか?関電管内やその近辺には実は大きな電力事業者がいくつもあるのだ。そうした電力事業者の中には直接特定の大口ユーザーに電力販売をする事業者もあるが、ほとんどは関電に電力を販売して経営を維持している。次の表は関電に電気を売っている主な電気事業者(もちろんすべて自前の発電所をもっている)の一覧表である。




原発の2倍以上の供給力をもつ独立系電気事業者

 この表の電気事業者だけの総発電能力は572万kWにもなる。特に日本最大の卸売り電力事業者、電源開発(Jパワー)は関電管内に火力発電設備を50万kW、鳴門海峡を挟んで徳島県阿南市には210万kWの石炭火力発電所を持っている。こうした電力事業者が一斉に発電所の稼働率を上げて関電に電気を供給したのが、8月3日の『融通電力以外の他社受電559万kW』の中身だった。

 特に電源開発と神戸製鋼所の子会社の神鋼神戸発電所は恒常的に電気を販売している。たとえば、2012年3月末関電買掛金残高一覧表を見ると、『他社購入電力料』の項目があり総額388億円が買掛金残として計上されている。その中の第一位は神鋼神戸発電(株)で89億円、第2位が電源開発で88億9600万円が計上されている。1位、2位がそれぞれ『他社購入電力料』全体のそれぞれ23%程度のシェアしか占めていないから、購入先は相当広く分散していると推測される。
(関西電力平成24年有価証券報告書総覧『②負債の部』の『買掛金』の項参照の事。p114)

(関電webページにも第88期有価証券報告書がアップされています。 第5経理の状況 2財務諸表等 p155でもご覧いただけます)



 といってこうした『他社電力購入』の実情が秘密事項なのではない。電力事業界ではよく知られている、むしろ常識に属することなのである。私はこうした常識を、数字をもとにして整理したに過ぎない。


大きく変化する電力需要環境

 10月13日付の朝日新聞のリード記事がいかに一定の意図をもって読者を誘導しようとしているかがわかろう。『予備率4.1%』だの『安定供給に必要な予備率3%』には全く実質的意味はないのだ。この記事の読者誘導の意図とその矛盾・自家撞着ぶりは本文を読み進めるに従ってますます明らかになる。

 「関電の見通しでは、管内に節電意識が浸透した結果、今冬の最大需要は震災前の一昨年冬(すなわち2010年から2011年にかけての冬期)(2665万キロワット)に比べ5.6%(148万キロワット)減ると予想。(すなわち最大需要は2665-148=2517万kWと予想)昨年並みの厳しい冬を想定しても需要は2537キロワットにとどまると見込む。」

 ここでも今回の『夏期電力需要予測』で使った同じ手口を使っている。すなわち『震災後』の2011年と比較するのではなく、『震災前』の2010年と比較するという手口を使っている。「震災」とは書いているが、決定的な違いは『東京電力福島第一原発事故』の存在である。事故後政府と東京電力は、『電力制限令』を発動して東電管内に節電令を敷いた。福島事故で原発への反発が強まり「原発廃止」への国民的世論が高まることを予想し、「原発なしではこうした厳しい節電状態になる」と威嚇するためだった。この政府・原発事業界の「電気が足りなくなるぞ」という威嚇政策に全面的に協力したのが大手新聞、共同通信、NHKをはじめとする独占テレビメディアだったことはまだ記憶に新しい。現実には福島第二原発や東電柏崎刈羽原発などを動かさなくても電気は十分足りていた。それはそうだろう。東電こそ慢性電力生産過剰体制にあるのだから。

 しかし『制限令』まで発動した「原発なしでは電気が足りない」の威嚇政策はやりすぎだった。つまり裏目に出たのである。一つは国民の多くが「原発による過剰電力よりも原発なしの節電」を選択した。つまりいかに無駄な電力を使っていたかに気がついたのである。これが『節電効果』の本質である。必要な電力まで「節電」はできない。

 二つには実業界が安定電力供給に関して電力会社を信頼しなくなっていったのである。実業界は体力のある大企業からこの1年間で、必要な自社発電設備を整えていった。電力会社の都合で電力を止められては仕事にならない。こうして「福島原発事故」を境にして、日本の電力会社をめぐる『電力需要環境』は大きく変化したのである。電力会社が自ら招いた大チョンボだった。「電力不足の威し」に夢中になって、最重要の顧客の信頼を失ったのである。それは関西電力管内の電力需要によく現れている。

 関電の供給する電力は、福島原発事故前の2010年の夏期電力最大需要でピーク時3070万kW台だった。それが事故後の2011年には最大需要はピーク時2700万kW台に落ち込んでいた。すでに10%以上の需要の落ち込みである。しかしこれは関電管内の電力需要自体が落ち込んだことを意味しない。あくまで関電が供給する電力の話である。前述のように大口需要家(数千kWから1万kW)を中心にして自家発電設備保有や関西瓦斯の子会社など独立系電気事業者との契約に切り替えていった。

 つまりは節電の浸透(無駄な電力を使わない)と自社発電設備や契約切り替えによって、「電気の関電離れ」が静かに進行していったのである。

 このように福島原発事故を境にして関電の(そして日本の電力会社全体の)電力需要をめぐる環境は大きく変わった。このことを一番よく知るものは他ならぬ電力会社であり、日本の電力需要環境を俯瞰し政策立案する立場にある経済産業省の官僚たちである。だから、「電力不足」の威嚇を国民に対して行うにあたって、電力会社をめぐる環境が大きく変わった後の2011年夏と『今夏需要予想』を比較して甚だ都合がわるい。「電力不足威し政策」の真の狙いは「原発再稼働」にある。2011年と比較すると「原発なしでも十分電気は足りている」ことになってしまう。だから必ず環境の変わる前の2010年と比較しなければ「電力不足」の威しにならない。


関西広域連合の手口

 その手口を関西広域連合が行った「需給検証」結果に見てみよう。ここで関西広域連合の検証結果を引用するわけは、彼らが政府需給検討委員会の結果を検証すると称してほぼ政府や電気事業連合会、関電が望む検証結果を出し、このことがきっかけの一つになって『大飯原発再稼働』へ向けての「やむなし世論」が急速に高まっていったからだ。その意味では関西広域連合及びそれを率いる現大阪市長・橋下徹は悪質である。彼らは結局大飯原発再稼働を渇望する関西電力、日本の原発ビジネスを担う経済界中枢部の別働隊として機能した。その意味では関西広域連合や橋下徹は『隠れ原発推進勢力』だったのである。
(橋下徹は日本の支配層に使い捨てにされるだろう。彼らにとって“橋下人気”を上げ下げするなどは造作もないことだ。この意味で橋下は甘やかされた世間知らずの小僧である)

 関西広域連合エネルギー部会・需給予測検討チームも、やはり2010年最大需要実績の約3070万kWから出発する。そうして節電効果を見込んで今夏最大電力を3015万kWと予測する。2010年需要予測から出発した理由は明白だ。2011年最大需要実績の2700万kW台から出発すれば、検討の余地なく「今夏原発なしで電力は足りる」の結論となってしまう。2010年から出発する口実は「今夏一昨年並の猛暑だった場合」という理由である。今夏一昨年並の猛暑であっても昨年(2011年)夏の最大需要を越えるはずがない。電力需要を取り巻く環境は大きく変わっている。

下の表は2012年5月19日付け「関西電力管内の今夏の電力需給見通し等の検証結果(資料8)」と題する文書から抜き出したものだ。



 これを見ると、最大需要をほぼ3015万kWに固定し、全体から見ればどうでもいいような揚水発電能力に着目し、関電の揚水発電能力223万kWは過小ではないか、と一応疑って見せ、揚水発電の汲み上げ時間と発電時間をいろいろ組み合わせて見せて、揚水発電ではやはり関電の言うとおり、と肯定して見せ、次の『検証結果』をまとめている。

○供給力 2,542 万kW (火力 1,923、水力254、揚水 239、融通 110 、その他 16 )
○需要 2,987 万 kW(平成 22 年並猛暑、経済影響・定着節電随時調整契約折込)
⇒需給ギャップ ▲445万kW(▲ 14.9 %)

3,015 万kW(随時調整契約の効果 28 万 kW を含まない需要想定)』(同報告書参照のこと)

 そうして原発なしでは約15%の電力不足に陥る、と結論し政府・関電の援護射撃をしたのである。この検証結果と今夏の実績とを比べてみよう。次の表は関電『でんき予報』に公表される毎日の「需給結果日報」を一覧表にまとめたものである。

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供給力の過小評価と需要の過大評価

 まず供給力全体である。関西広域連合の需給検証プロジェクトチームは関電の最大供給力を原発なしで2542万kWとした。大飯原発3・4号機の発電能力は236万kWだから、関西広域連合は大飯原発3・4号機の発電能力を含めて、最大供給能力を『2542+236=2778万kW』としたことになる。表を見てみよう。この数字を上回った日は8月2日から28日の間で見ると、土日の休みや夏休みの期間を除くとほとんどの通常日で上回っている。関西広域連合は関電の供給能力を過小評価していることは明らかだ。関西広域連合のごまかしによる過小評価のポイントはどこにあったのか?
 
 8月3日を例にとってみよう。前述のように、最大供給電力2999万kWの各供給源の内訳は、『原子力発電:236万kW』、『火力発電:1433万kW』、『水力発電:253万kW』、『揚水発電:357万kW』、『地熱・太陽:1万kW』、『他社受電:719万kW』、従って『合計:2999万kW』だった。

 『水力』については、8月3日は253万kWで関西広域連合の254万kWと一見ほぼ同じに見える。しかし出水率109%を越えていたこの年は、実は253万kWの水力発電出力は能力に対して66.9%でしかない。次に『揚水』は357万kWで、関西広域連合の239万kWをはるかに上回っている。そればかりではない。揚水発電能力に関する関西広域連合のもっともらしい計算は実は全部嘘っぱちである。というのは、1日24時間のうち電力ピークに達する時間は精々2時間程度でその前後1時間、合計4時間も発電すれば揚水発電の役割は十分果たせる。発電時間を除いた1日の20時間は揚水時間に充てられるのである。それを揚水発では揚水時間に11時間から12時間必要だとした。しかし揚水時間に20時間も充てることができれば442万kWのフル出力できる。表を見ると、実際に100%近い出力をしていた日はいくらでもあるし、8月6日、19日、20日などは定格出力を越える448万kWの出力(101.4%)を行っていた。

 融通電力については関西広域連合は、110万kWが最大としているのに対し、8月3日は、中部電力・北陸電力・中国電力三社から電力供給を受けて160万kWもあった。この三社がさらにこれを上回る供給能力があったことはこの表から明らかである。たとえば、8月25日(土)などは、この三社で250万kWも供給している。

 最大の謎は関西広域連合が、『火力発電』の供給能力を1923万kWとしていることである。というのは表からも明らかなように、関西電力の火力発電生産能力は一切合切合わせて、1691万kWしかない。1923万kWといえば自社火力発電能力を240万kWも上回っていることになる。しかしこの謎も表を詳細に見ていくとすぐ解ける。鍵は表で『他社受電』の中の『内非融通』にある。前述のように『非融通電力』とは、電力会社以外からの独立系電気事業者からの供給を指している。関西広域連合は、関電自身の火力発電能力とこの『非融通』(ほぼ全て火力発電である)からの電力を合算して『火力発電:1923万kW』が最大としたのだ。関西広域連合の計算では、『非融通』(すなわち独立系電気事業者からの供給)を最大240から250万kWと見積もっていることになるが、実際は表を見ておわかりのように、これらは平均して500万kW以上の供給能力を持っていた。8月17日(金)などは555万kWも供給しているのである。大飯原発発電量の優に2.3倍以上の供給力である。では、なぜ関西広域連合はこうして関電自身の発電能力と『非融通』からの火力発電能力を合算したのか?答えを出すのは簡単であろう。独立系事業者からの電力供給をあいまいにして、トータルの関電火力発電供給能力を小さく見せかけるためである。こうして関西広域連合は関電の今夏供給能力全体を小さく見せかけた。

 その一方で最大需要は、前述のように2010年の数字を使って大きく見せかけた。実際ここで関西広域連合が結論している今夏需要予測は3015万kWで、2011年夏実績を300万kWも上回っているのである。2012年夏予測が2011年夏実績を上回るなどということはあり得ない。しかし実際そんな荒唐無稽な予測を関西広域連合は立てたのである。なんのためか?それは『原発なしでは今夏関電管内15%の電力が不足する』の結論を引き出すためである。なぜ、この結論を引き出したかったか?それは、「電力不足」の威しを使って大飯原発を再稼働させるためである。まるで子供だましである。


文意の通らない文章の『文意』

 ここで朝日新聞の記事に戻ろう。記事はいう。

 「今冬の最大需要は震災前の一昨年冬に比べ5.6%減ると予想。」なぜ一昨年と比べるのか。これは前述の通り、昨年(2011年)と比べてしまうと『今冬、電力足りる見通し』の記事タイトルは『今冬、電力供給過剰』と書き換えなくてはならなくなってしまうからだ。

 朝日の記事を続ける。
「供給力は最大需要に合わせて、他社から融通を受ける電力を減らしたり、火力発電の定期点検を実施したりして、今夏の最大2988万キロワットを346万キロワット下回る2642万kWに抑えた」
 
 この文章の意味することを理解できる人はまず居ないだろう。今この記事は、電力が足りるか足りないかという議論をしている。だから「需要を抑えた」とか「供給力を上げて電力不足予想に対処した」というのなら文意は通る。ところがこの記事は逆に「供給力を2642万kWに抑えた」というのである。まるで文意が通らない。

 この記事に掲げている表『原発に頼らなくても冬の電力はまかなえる見通し(上段は1月、下段は2月)とこの文意の通らない文章とを照し合わせてみると、この記事が何を言いたいのかがおぼろげにわかってくる。この表で「原発に依存せずにまかなえる電力」の関西電力の欄を見てみると上段(すなわち2013年1月)では2670万kW、下段(すなわち2013年2月)では2642万kWとなっている。「供給力を2642万kW」といっているのは、2013年2月の供給力(正確にはまかなえる電力)のことをいっているのだな、と見当がつく。(なおこの「まかなえる電力」の中には大飯原発の3・4号機の236万kWが含まれている)

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 まだ文意は通らないのだが、ここでいっていることは、今夏最大供給力2988万kWだったのを、融通電力や火力発電を減らして2642万kWに抑えた、としか読めない。減らして抑えたのだから、当然まかなえるという見通しがあるに違いない。果たして表の右欄には「もっとも使うと見込まれる電力量」の欄があり、ここには2537万kWの数字が書き込んである。

 これは今冬の最大需要予測2537万kW、としか理解できない。これでも実は過大な予測である。というのは2012年夏、猛暑が続いた中で最大電力使用は8月3日の2681万kWだった。2010年の最大使用電力と比較すると、12.7%も落ちている。

 これは前述の通り電力会社(関西電力)を取り巻く電力需要環境が変化したためである。冬期についてもこの変化は当てはまる。2010年から2011年にかけての冬期の最大需要は2665万kWだった。同じ比率で落ちたとすると、2327万kWが今冬の最大需要と言うことになる。だから、2537万kWという需要見通しも200万kWも過大に見積もっていることになる。しかもこの記事には誤りがある。今夏最大供給電力は2988万kWではなかった。最大供給電力は8月7日の3026万kWだった。だから3026万kWを基点とすると、関電は今冬最大供給量を379万kWも削減することになる。これはもちろん電力が足りないからではない。逆に供給過剰になるので、供給力を減らすことを意味している。そうするとこの朝日新聞の記事を関電の宣伝プロバガンダ記事として読んでみても、深刻な自家撞着があることが明らかになるだろう。

 リードでははっきり、関電が電力不足に陥らない条件として、①大飯原発が稼働し続けること、②さらなる節電、とはっきり書いているからだ。読む者は大混乱をおこすことだろう。今冬供給過剰が見込まれるので供給量を減らす、その削減量は過大な需要を見込んでも(私の計算では200万kWの過大)、347万kW(実際には379万kW)である、にもかかわらず発電量わずか236万kWの大飯原発3・4号機の稼働継続と『更なる節電』が必要になるというのだ。そして『更なる節電』はどちらでもいいつけたりだった。347万kW(実際には379万kW)も供給力を削減するなら、大飯原発の発電を止めて、その分削減量を減らせばいいはずだ。しかし関電と朝日新聞はそうは考えない。大飯原発再稼働継続は最優先事項なのだ。

 ここでやっと、「供給力は最大需要に合わせて、他社から融通を受ける電力を減らしたり、火力発電の定期点検を実施したりして、今夏の最大2988万キロワットを346万キロワット下回る2642万kWに抑えた」という全く文意が通らない文章の、本当の“文意”が通ってくる。

 つまりこの文章は、「今冬は今夏より更なる電力供給過剰になります。ですから今夏最大電力供給2988万kW(実は8月7日の3026万kW)を、さらに融通電力や火力発電を削減して2642万kWに抑制します。これは大飯原発3・4号機の再稼働を継続するための措置です」といっているからだ。すべては『大飯原発再稼働継続』中心に組み立てられている。


朝日の記事のもう一つのデタラメ、「融通719万kW」

 この記事を書いた朝日新聞の記者は、上記のようには正直に書けなかった、だからさっきのような文意の通らない記事が差し挟まれることになった。道理でこの記事は無署名のはずである。こんな関電プロパガンダ記事に署名する記者などはどこを探してもいない。記事を続けよう。

 「関電は今夏、最大需要を2986万kWと見込んだが、実際の需要のピークは約1割少ない2682万kWだった。(正確には2681万kW。8月3日午後2:00)関電は『冬の電力は必要最低限確保できているが、節電要請が必要かどうか今の段階ではわからない』としている。」

 供給力削減をする関電が、「節電要請」をするはずがない。最後にこの朝日新聞の記事のデタラメをもう一つ指摘して、私の記事を終えよう。

 デタラメは付属している『関西電力管内の電力見通し』と題した表の中にある。左側の棒グラフは『今夏の最大需要実績(8月3日)』である。供給力は2999万kWだった。その内訳は『原子力:237万kW』(正確には原子力236万kW+太陽光発電1万kWで合計237万kW)、『水力:253万kW』、『揚水:357万kW』、『火力(これは自社発電火力である):1433万kW』とここまではいい。しかし『融通:719万kW』はデタラメである。前掲表で見たように、この日『他社電力』は確かに719万kWだった。しかし他社電力のうち、融通電力は160万kW(中部電力76万kW、北陸電力7万kW、中国電力77万kW)に過ぎない。他社電力の77.7%、559万kWは卸売り電気事業者である電源開発や神鋼神戸発電所や大阪瓦斯の子会社である泉北天然ガス発電所からの購入電力である。朝日新聞はこうした秘密でも何でもない、業界では周知の電源開発や独立系電気事業者の存在を一般読者の目から覆い隠しておきたいのだ。だから「719万kW」をすべて『融通』、すなわち他電力会社からの『融通電力』だとでっち上げたのである。

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 問題はなぜ、電源開発神鋼神戸発電所泉北天然ガス発電所の存在を知られたくないのか、という点である。これらは全て石炭かLNGを燃料とする火力発電所である。関電は火力発電の依存率が高まっているため、燃料費高騰で大赤字だと宣伝している。朝日新聞も再三再四燃量費高騰のため、関電大赤字という記事を書いている。それではこうした石炭、LNGにのみ依存する独立系電気事業者も燃料費高騰のため大赤字なのかというとそうではない。逆に大阪瓦斯子会社の泉北天然ガス発電所など大きな営業利益を出しており、大阪瓦斯連結決算子会社の優等生である。それではなぜ関西電力(に限らない日本の電力会社)は大赤字なのか?それは国際的に燃料が高騰しているためではなく、関西電力の燃料購入体質に大きな問題があるからだ。

 関西電力にとって原発再稼働は至上命題である。これまでは『電力不足』を口実にしゃにむに再稼働に進んできた。しかしもうこの口実は使えない。電力不足ではなく慢性電力供給過剰体質にあることは誰の目にも明らかになっている。次に使える口実は『燃料費高騰、電気料金値上げ』の威しである。実際に東電はこの口実を使って2012年9月から一般家庭向け電力料金の値上げをした。しかし実際に石炭、天然ガスを燃料とする独立系電気事業者は軒並み黒字である。それは関電などと違って燃料を独自ルートで開発・調達し、十分採算の取れるコストだからである。黒字を続ける独立系電気事業者の存在(それは決して秘密でもなんでもない。経済界、業界ではよく知られた事実である)を一般大衆に知られると、「燃料費高騰、料金値上げ」の口実が使いづらくなる。これが、朝日新聞が「719万kW」を『融通電力』とでっち上げた理由である。

 この新聞は腐っている。悪臭ふんぷんである。