(2012.10.31) | |
No.051-2 |
ICRP学説を信奉し、広め、 国民にさらなる被曝を強制する日本の官僚政府 ② 『等価線量』のシーベルトと『実効線量』のシーベルト… 「国民の健康と安全」を最優先する私たちの政府が必要 |
等価線量の「シーベルト」 | |||||||||||||||
さて話題はシーベルトである。引き続き放影研のサイトで『シーベルト』を見てみよう。
グレイの説明に比べて格段にわかりにくい説明である。グレイは放射線が物質内で放出されたエネルギーの単位である。別ないい方をすると物質の放射線を吸収する線量、吸収線量の単位である。それではシーベルトは何の単位なのか?「それぞれの放射線の生物学的な影響の強さに対応する係数を掛けて合計します」というだけで何の単位か明示されていない。放影研に限らずICRP派が『シーベルト』を、まだ何の知識もない一般大衆に向けて説明する場合、いつも奥歯に物の挟まったようないい方をする。ここでは吸収する放射線の物理線量をグレイだと説明している。そしてその物理線量グレイが生物学的な影響の強さを表す単位がシーベルトだといっている。何のことかわからない。何か詳しく説明したくないことがあるようだ。 実は放射線の種類によって、放出する電離エネルギーが大きく違うのだ。放射性物質によってまた照射する放射線の種類によってその放出する電離エネルギーが大きく違うのである。一般に飛程距離(透過力)の大きい中性子線やγ線、X線(電磁波または光子)は分子や原子に衝突して生ずる電離エネルギーは小さい。逆に飛程距離が大気中でも非常に短いα線やβ線(陽子や電子の粒の流れ)は衝突して発生させる電離エネルギーは大きい。だからα線やβ線を放出させる放射性物質が体の外にあれば大した危険はない。飛ばないからだ。α線は空中を数ミリも飛ばない。空気中の分子と衝突して数ミリ飛ぶと持っている電離エネルギーを使い果たしてしまう。β線も同様に空中を数cmも飛ぶことができない。しかし体の中にはいるとこの飛程距離でも十分細胞を傷つけてしまう。1個の細胞の大きさは精々数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1m)の大きさだからだ。 ICRPはこうした放射線の種類による人体に与える影響を考慮して『放射線荷重係数』を設定している。表が荷重係数表である。
全く納得が行かない。ここでは体の中でβ線の細胞に与えるリスクが極端に過小評価されている。 逆に低線量内部被曝を考えれば中性子線は過大評価されている。中性子線で内部被曝することなどは考えられないからだ。α線はX線やγ線に対して20の係数が与えられている。どちらにせよ、原子炉から出てくる放射性物質を念頭に置くと、低線量内部被曝で健康損傷を与える線種に対しては極端に過小評価する傾向がはっきり見て取れる。つまりこの係数を使って導き出される「放射線の健康に対する影響」はあきらかに内部被曝の影響を過小評価することになる。 先ほどの放影研の記述に戻ろう。物理量(吸収線量)1グレイのγ線やX線は荷重係数が1なので、人体に対する影響の強さは1グレイ×1(係数)で1シーベルトとなる。広島原爆で受けた被曝(これは外部被曝を想定している)は2MeV(200万eV)から20MeV(2000万eV)の範囲なので係数は10となり1グレイの吸収線量は10シーベルトに相当する。シーベルトを中心に記述すると先ほどの放影研のサイトに表記してあった通り、1シーベルト=0.1グレイとなる。セシウム137はほぼβ崩壊をしてβ線を放出するので係数は1、従って1グレイの吸収線量はやはり1シーベルトに相当する。内部被曝であろうが外部被曝であろうが1シーベルトである。 ところでこの場合シーベルトは何の単位だろうか?グレイは物質の放射線吸収線量の単位だった。『kg』は質量の単位である。『km』は長さの単位である。それでこの場合シーベルトは何の単位であろうか?正解は『等価線量』(『被曝線量等量』=equivalent dose)である。つまり放射線の人体に対する影響の強さは、物質的な吸収線量に放射線荷重係数を乗じて算出される『等価線量』のことであり、『等価線量』の単位名称が『シーベルト』なのである。 |
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実効線量の「シーベルト」 | |||||||||||||||
ところがこれで終わらない。ICRPの考え方には、『全身にわたる確率的影響のリスクを評価する線量』概念がある。これが『実効線量』(effective dose)である。実効線量は、等価線量にさらに組織荷重係数を乗じて求める。整理すると次のようになる。 物理的な吸収線量(単位はグレイ)×放射線荷重係数=等価線量 等価線量×組織荷重係数=実効線量 そしてややこしいことに『線量当量』も『実効線量』も単位名称は同じく『シーベルト』なのである。同じ単位名称が異なる物理概念に使用されている。こんなことは科学的世界ではありえない。従って『シーベルト』と表示してあるだけでは、等価線量のことを言っているのか、実効線量のことを言っているのか判別できない。(これだけでも何かいかがわしい) ところで組織荷重係数とは一体なんであろうか?例によって放影研の説明を聞いてみたいところだが、放影研は説明していない。しかたがないので『ATOMICA』に聞いてみよう。
この文章が日本語として理解できる人はそう多くはいないだろう。『組織荷重係数』という概念が難しいのではない。記述の仕方が曲がりくねっているからに過ぎない。 言っていることは、「放射線被曝は全身均一であることは珍しく、不均一であることが通例である。特に内部被曝は常に不均一である。しかしこれでは困ったことが起きる。特定臓器や器官の放射線リスクが算定できない。(たとえば肺がん、胃がんのリスクなど)そこで様々な方法で全身が被った被曝の臓器や器官別のリスクを導き出していった」といっているに過ぎない。この文章が曲がりくねった表現にならざるをえないのは、『組織荷重係数』とは全身が被った被曝のリスクを、臓器・器官別に単純に割り振った係数に過ぎないことをわかりにくくするためである。言いかえれば、「被曝は全身に被る」ことを前提にしていることをできるだけ覆い隠すためである。 「全身均一に被曝を被る」などいう事態はありうるのだろうか?理論上ありうるのである。
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全身被爆を前提とする「組織荷重係数」 | |||||||||||||||
1グレイとは物質1kgあたり1J(ジュール)の電離エネルギーの吸収線量だった。グレイにはすでに1kgあたりという“平均化概念”が含まれている。そのグレイを元にして等価線量のシーベルトが導出されている。その等価線量を元にして実効線量が導出されている。だから実効線量で導出された数値にはすでに“1kgあたり”という平均化概念が措定されている。
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セシウム137・50Bqの実効線量と二つの考え方 | |||||||||||||||
ここで二つの考え方ができる。一つは、50Bqのセシウム137は、毎日摂取して、しかも全く体外に排出しないと仮定しても(生物学的半減期はゼロと仮定)、1年間に0.055mSvの実効線量にしかならない。だからセシウム137・50Bqはさほど心配するような摂取量ではなく、また内部被曝としても大きな損傷ではない、とする考え方だ。今現在日本の主流となっている考え方でもある。 もう一つの考え方は、「セシウム137・50Bqは、体外にあって被曝したらさして問題がないのかも知れないが、これが体の内部にあると相当な電離エネルギーを放出する、セシウム137はβ崩壊をするが、水分が約70%を占める体の中では精々飛程距離は数mmだろう、しかし例え1mm飛程したとしても周辺の細胞を傷つけるのに十分な距離だ、細胞の大きさは平均して5-6ナノメートル(10億分の5-6m)しかないのだから、1mm弱の飛程の中でその電離エネルギーを全て使い尽くし、細胞を傷つける。しかもセシウム137が体内にある限り、時間の経過と共に核崩壊を繰り返し、体の外に出るかあるいはエネルギーをすべて使い尽くすまで(セシウム137の物理的半減期は30.1年)、電離エネルギーを出し続ける、いわば慢性被曝の状態になる、さらにしかも、この摂取は毎日一年365日続く、2重にも3重にも慢性被曝状態は継続する、その場合でもICRPの実効線量概念ではわずか0.055mSvにしかならない。この実効線量概念は何かがおかしいのではないか?」とする考え方だ。 |
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実効線量に隠れる平均化概念 | |||||||||||||||
ややこしくなるがここで0.003μSvという数値と実効線量概念を放棄してみよう。というのは『μSv』の概念には常に『1kgあたり』という平均化概念が前提されておりこの概念とその概念を使って表示された数値を使う限り、囲い込まれてその枠組みから一歩も出ることができないからだ。 今『0.003μSv』という実効線量が体に与える影響の強さを『S』としよう。『S』は実際には臓器1kg全体に平均に負荷しているのではなく、セシウム137・50Bqに相当する放射性物質が付着している臓器のある一点にすべてかかっている。この一点(イラスト2参照のこと)にかかる電離放射線の影響の強さを『S』概念で表現してみよう。根拠があるわけではないが、今仮にセシウム137・50Bqの質量『6×10-10g(100億分の6g)』が『S』の影響を及ぼす範囲をセシウム137・50Bqの質量の1万倍だと仮定しよう。(10倍でも1000倍でも10万倍でもかまわない。要は『S』は臓器全体に均一に負荷しているのではなく、セシウム137・50Bqが付着している臓器の周辺=細胞にのみ負荷していることが確認できればいい)そうすると『S』が及ぼす臓器の細胞量は質量に換算すると『6×10-6g(100万分の6g)』ということになる。『S』は実は臓器1kg全体に負荷しているのではなく、100万分の6gに相当する細胞に負荷している。『S』が臓器1kgに対して均一に負荷したと仮定すると(そんなことはあり得ないのだが)、臓器1kgに負荷する『S量』は、1000g/(6×10-6)となり『1666万S』というとんでもない数字となる。ICRPの実効線量概念では『1666万S』を『0.003μSv』と表現していることになる。 どうしてこんなおかしなことが起こるのか?もうおわかりと思う。セシウム137・50Bqという極めて微少な物質の放射線影響、しかしとんでもなく大きなエネルギーを放出する微少な放射性物質の影響を「臓器1kg」に拡大しているからだ。臓器1kgに関していうと『セシウム137・50Bq』の影響『S』を受けない部分がほとんどなのに、影響を受けない部分も『S』の影響を受けている、と仮定しているところに実効線量概念のおかしさがある。いわば実効線量概念のいかがわしさは、その前提の平均化概念にある、ということになる。それに加えて繰り返しになるが、実効線量概念の元の概念『等価線量』ではすでに内部被曝においてα線およびβ線の極端な過小評価があることも思い起こしておいて欲しい。 こうしてみると、二つの考え方のうち、実効線量概念で『0.003μSv』は大したことはない、と考えるのではなく、実効線量概念そのものが細胞レベルを標的とする低線量内部被曝の影響を計る「ものさし」として極めて不適切、別ないい方をすると低レベル電離放射線の内部被曝影響を極端に過小評価する単位概念だということがおわかりだろう。 |
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内部被曝と外部被曝の影響差 | |||||||||||||||
答えは「健康への影響は同じです。放射線が私たちの健康への影響を与えるしくみは、自然放射性物質か人工放射性物質かで異なるものではありません。同じ線量なら、健康への影響は同じです。(その影響は、すべてシーベルトで表します)」だった。 そして「その影響は、すべてシーベルトで表します」は実は極めて不誠実な回答で、「シーベルト」という単位呼称は、『等価線量』と『実効線量』という2つの異なる線量概念に等しく与えられている呼称であり、単に『シーベルト』だけではどちらを指しているのか判別できないことも見てきた。 さらに『実効線量概念』は低線量被曝、特に内部被曝については、その健康影響を表現する概念としては全く不適切な概念であり、低線量内部被曝の健康影響を極端に過小評価する概念であることも見た。 内部被曝と外部被曝が全く違う種類の被曝、異なるタイプの被曝だということは何となく直観的にわかる。それを理論的に、メカニズムとモデルを取り上げて説明しているのが欧州放射線委員会(ECRR)2010年勧告第7章『低線量時における健康影響の確立:リスク』、第8章『低線量時における健康影響の確立:疫学』、第9章『低線量時における健康影響の確立:メカニズム』の三章である。私が自分自身の理解のために書いた解説記事がある。興味のある方はそちらを参照して欲しい。長いので第9章だけでも構わない。 (第7章:http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_10.html 第8章:http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_11.html 第9章:http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_12.html http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_13.html http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_14.html) ECRRは非ICRPどころか、反ICRPの急先鋒である。 それではICRPの実効線量概念を使うと、内部被曝と外部被曝とはどれくらいの誤差が出てくるのだろうか?繰り返すようだがICRPのリスクモデルでは、内部被曝のリスクと外部被曝のリスクは全く同じ、たとえば1ミリシーベルト(内部被曝)=1ミリシーベルト(外部被曝)、としている。このリスクモデルを使って福島県に住んでいる人たちの放射線による健康損傷リスクが考えられ、今のところ(福島県の人々は内心大きな疑問符をつけながらも)このリスクモデルに従って放射線防護が構築されている。 ECRR勧告第10章は次のように述べている。大気圏核実験で降下した放射性物質による健康影響(ただしがんの発症のみ)に関する疫学的データが比較的正確に取りやすいイギリスのイングランド地方とウェールズ地方を比較したクリス・バスビーの研究を引用しながら、
と書いている。さらに、チェルノブイリ事故による放射性降下物による健康影響を北スエーデン地方に関して調査した(ただしがん発症のみ)スエーデンのマーチン・トンデルの研究を引用しながら、
まとめていうとECRRはICRPの実効線量概念で表現すると内部被曝と外部被曝では100倍から1000倍の影響の違いとなる、といっていることになる。誤解を恐れずにわかりやすく記述すると、ICRPが1ミリシーベルトの内部被曝の影響といっているのは、実は100ミリシーベルトから1000ミリシーベルトに相当する、といっていることになる。 |
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健康影響は「がん」だけではない | |||||||||||||||
しかも話はこれに止まらない。ICRPは低線量放射線の影響、言いかえれば健康影響を「がん」、しかも「致死性がん」(白血病もがんの一種である)にしか認めていない。他の健康影響はない、としている。(低線量放射線というのは100ミリシーベルト以下の被曝線量を指しているようである) この考え方には激しい批判がある。「電離放射線は細胞を攻撃する、そして細胞を死滅させるかあるいは異常を起こさせ本来の生機能を破壊していく、従って現れる健康損傷(エンド・ポイント)は『がん』だけではない。ありとあらゆる病気、免疫低下、ストレス耐性低下が現れる。それは一言でいって、経年によらない老化(自然の老化)ではない老化(不特異老化)だといっていい。『がん』はそうした不特異老化のもっとも典型的な例であって、エンド・ポイントはがんだけではない」とする主張である。ICRP派の学者はこれを否定している。しかしアメリカで原発から漏れ出す放射能の影響を詳しく調べたアーネスト・スターングラスは乳児・幼児には呼吸器系疾患で死亡するケースが多いと指摘したし、チェルノブイリ事故の影響をセシウム137に限定して病理学的に詳しく調べたベラルーシのユーリ・バンダジェフスキーは、心臓病(突然死)や呼吸器系疾患、循環器系疾患が多く見られると指摘し、また再生生殖器系疾患(死産・流産など)も多い、と指摘している。
ICRPの「致死性がん」のみが低線量放射線被曝の健康影響のエンド・ポイントあるという主張は全く理屈にあわないし、科学的でもなければ現実に生起している諸事実とも一致しない。お伽噺といわざるをえない。問題はこうした「非がん性」の疾患(発症はがんなどよりはるかに多いと思われる)まで、リスクに数えていけば先ほどの100倍から1000倍の誤差はさらに一桁以上上昇することは確実、と私には思える。 しかしICRP実効線量『シーベルト』が表現しているリスクは「非がん性」疾患を含めた一般健康リスクなのではなく、単に『発がんリスク』だけなのである。
このことは、現在の日本の政府とその官僚組織が、私たち国民にさらなる『放射線被曝』を迫っており、被曝を受忍せよ、といっていることを意味している。国民一般の健康を犠牲にしてまで彼らが守りたい利益は一体なんなのか・・・。結局、私たちが自らの健康を本当に守りたいのであれば、ICRP学説に凝り固まり、国際核利益共同体の利益擁護にのみ熱心な日本官僚政府を倒して、あらたに「国民の健康と安全を第一」に考える私たち自身の政府を組織する以外にはないのである。 |