No.29-3(抜き書き2) 2010.6.24
岩国への連帯:「聖地ヒロシマ」は問題を深めているか?
第3回 日本の核兵器廃絶運動の道筋と広島市長の役割

<抜き書き2>
秋葉と谷口の共通性

 さて、この秋葉の演説と被爆体験一本槍の日本被団協代表谷口稜曄の演説に共通性があることにもうお気づきだろう。

 それは「核兵器廃絶問題」をそれぞれの立場から、真剣に調査研究したり、思索したり、そこから具体的な政治的提言を全くおこなっていないということだ。「核兵器廃絶」の「スローガン化」といっても構わないし、「無内容化」といってもいい。

 そしてこのこと(すなわち核兵器廃絶の「スローガン化」あるいは「無内容化」)は、現実の政治的課題に対して全く無力である。その無力であることの証拠が、冒頭に引用した広島市長・廿日市市長連名の「要請書」であろう。

 もし秋葉や谷口が、「ヒロシマ・ナガサキ」以後の世界の核兵器問題を丁寧に研究し、核兵器が今も、世界市民威嚇の道具として使われ、そのためにこそアメリカが日本に前線基地を置いていることを理解したとしたら、NPT再検討会議でとてもあのような、無意味で無内容なことは語らなかったろう。

 もし、秋葉や谷口が(ついでに長崎市長の田上富久も加えておこう。田上の演説は次。<http://www.un.org/en/conf/npt/2010/pdf/mayortaue.pdf>。なお田上の演説は日本語で書かれており、英語の演説はその英語翻訳である。日本語の演説は次。<http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/mayor/teirei/nptsiryou.pdf>。この日NGO全体の演説は次。<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/NPT/2010_speaker_list_NGO.htm>。NGO全体の演説と合わせよめば、この3人がいかに無内容なことを語ったかがさらに際だつであろう。)、世界の多くの市民と共に、現在の「核兵器」あるいは「核兵器体系」について理解をし、「非核兵器地帯」を実現した世界の多くの市民と共に、「自分たちの暮らしている空間」に一切核兵器などといったものの存在を許さない、と固く決意し、それへの具体的な政治的取り組みが、実は「スローガン」でなく、また「無内容化」されない、「核兵器廃絶運動」なのだ、と理解し、そして真に「和解」の精神を理解していたとすれば、例えば秋葉は、NPT再検討会議のNGOセッションで次のように述べたかも知れない。

その職責にふさわしい手腕と見識を持った市長

 『日本政府とアメリカ政府は、日本の議会に諮ることもなく、また選挙で我々日本市民の意志を問うこともなく、2006年日本に駐留してアメリカ軍の再編計画を承認、決定しました。(<http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/g_aso/ubl_06/2plus2_map.html>)

 この再編計画に従えば、広島からわずか20マイルしか離れていない地、岩国という所にあるアメリカ軍海兵隊基地に、アメリカ海軍第5空母航空団が2014年までに移駐して来ることになります。

 第5空母航空団の主力は3つの飛行大隊からなる、37機のスーパーホーネットであります。

 スーパーホーネットはここにいらっしゃる皆さんが良くご存じのようにB61という核爆弾を搭載できる核兵器搭載戦闘爆撃機であります。いいかえれば、私たち広島市民は、スーパーホーネット自体が核兵器体系の重要な実戦配備軍事力だと断ぜざるを得ません。

 またこの核兵器が、アメリカ・オバマ政権が云うところの核の3本柱(Triad)の重要な一つであることは明白であります。

 また、再編計画に従えば、岩国から半径100海里以内で、このスーパーホーネットの恒常的航空母艦離発着訓練場を設定することになっております。そこがどこに決まろうが、「聖地ヒロシマ」がスーパーホーネットの日常的行動範囲内に入ることは明白であります。

 議長、そしてここにお集まりの皆さん。

 皆さんがよくご承知のように今から65年前広島は長崎と共に、核兵器の辱めを受けました。その時、一瞬にして多くの市民が殺されました。その後もそれが原因で多くの市民が亡くなり、また生きていても、バーチェットが「原子の伝染病」と呼んだ「病気」で苦しんでいます。

 またこの問題に関し、広島市民はアメリカ政府と歴史的和解を遂げていません。

 歴史的和解を遂げないまま、またそれはある意味当然のことだと云わなければなりませんが、今また、広島は、スーパーホーネットという核兵器に辱めを受けようとしております。

 私たち日本の市民は、こうした状況を回避しようと2009年日本の下院(衆議院)選挙で、アメリカと約束した旧自民党政権からその権力を奪い、民主党に政権を委ねました。

 ところが、アメリカのオバマ政権は、この民主党政権に露骨な圧力を加え、アメリカ大統領オバマは日本の首相鳩山に対して「晩餐会の屈辱」とも云うべき叱責を加え、彼をクビにしました。

 跡を継いだ管内閣はオバマ政権に対して、すでに全面的に白旗を掲げ、従順を誓いました。

 日本の国内政治の上では万事休すであります。

 しかし、私は広島市長として、65年前の屈辱をもう一度広島市民に味合わせるわけにはいきません。

 幸いにして私は、今日広島市長として、このNGOセッションで特別な資格を与えられて発言を許されています。

 ですから、私は皆さんに訴えたい。広島市長としての特権を行使して皆さんにお願いしたい。

 もし皆さんが、今でもヒロシマを「聖地」だと見なしていてくださるなら、最終合意文書に一行だけ書き加えていただきたい。

 「いつ、いかなる条件においても“聖地ヒロシマ”が核兵器体系の辱めを受けることは許されない。それが辱めに相当するかどうかは広島市長と広島市議会の判断に全面的に委ねる。」と。

 もちろん、この辱めを受けないように広島市民は全力を挙げることをここに誓います。それが今広島市民が取り組むべき「核兵器廃絶」への道筋なのだと信じます。』

  しかし、秋葉は以上のようには述べなかった。無内容な同義反復をした上で、オバマ賛美を行って、非同盟運動諸国の失笑を買った。

 ならば、我々は、その職責にふさわしい見識と手腕を持って広島市民を守る新たな市長を選び直すまでだ・・・。  

(了)