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これはまた随分意地悪な質問です。
「通常兵器と核兵器」と何気なく使っていますが、よく考えてみると、核兵器とそれ以外の兵器との違いはなにか、と尋ねていることになります。
この質問でいう通常兵器には、従って、生物兵器、化学兵器などの大量破壊兵器も含まれていることになります。
劣化ウラン弾(depleted uranium ammunition)はどうでしょうか?
ナパーム弾はどうでしょうか?
クラスター爆弾はどうでしょうか?
どれもこれも犯罪的な兵器ばかりで、核兵器だけの特徴を一つだけ取り出すのはむつかしいかもしれません。
この質問には一つの正解はないのかも知れません。
核兵器が誕生した時、トルーマン政権中枢・マンハッタン計画の中枢の人たちが、絶対に一般アメリカ市民に知られたくない事実がありました。
それは原爆から放射能が発生し、生物の遺伝子を傷つけるという事実でした。
このため、マンハッタン計画の軍部側の責任者、レスリー・グローヴズは1945年9月9日、最初に原爆実験をしたアラモゴードの砂漠の核実験場に、アメリカの一流ジャーナリスト30人を集めて、「残留放射能はない。」という趣旨のデマ記事を書かせました。
そしてグローヴズは、マンハッタン計画における自分の片腕、トーマス・ファレル准将(Thomas Francis Farrell Deputy Commanding General and Chief of Field
Operations of the Manhattan Engineer District)を日本に行かせ、「爆発当時は危険性があったであろうが、その翌日あるいは二、三日後からは、放射能はないはずである。」(中国新聞 1945年9月10日付け)というデマ記事を書かせました。
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左の写真は、マンハッタン計画の軍部側総責任者レスリー・グローヴズ【左】とトーマス・ファレル【右】1945年に撮影したものだそうです。 |
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英語Wiki【Thomas Farrell】からコピー |
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彼らがいかに「放射能」の影響を一般アメリカ市民から遮断しておきたかったかを示す好例です。
自らも原爆の取り扱いに関する政権最高レベルの意志決定に携わったカール・テーラー・コンプトンは(当時マサチューセッツ工科大学学長)、1946年「もしも原爆を使用しなかったら」という論文を発表し、その中で、「東京大空襲では10万人が殺された。広島の原爆では7万人だった。」と述べ、東京大空襲より原爆が非人道的だったとはいえない、という意味合いのことを仄めかしました。
1発の爆弾の被害と焼夷弾が雨あられと降り注いだ空襲による被害とを、死亡者数という「数」でのみ抽出したコンプトンの比較もおかしなものですが、それより自らも物理学者であるコンプトンが、この論文の中で絶対に触れようとしなかった原爆の特徴があります。それは核分裂から発生する放射線の影響です。
1946年には、「米国戦略爆撃調査団報告―広島と長崎への原爆攻撃の効果」という現地調査報告書がまとめられ、大統領トルーマンに報告されています。その中に次のような一節があります。
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放射線病で死にかけているケースでは精子形成(spematogenesis)に明白な影響が見られる。放射線による被害者の検死で、卵巣に関する研究はまだまとまっていない。しかし、妊婦に関する原子爆弾の影響については注目している。爆心地から3000フィート(約900m)以内にいた妊娠の様々な段階にいた婦人は、知られているすべてのケースで流産(miscarriages)した。6500フィート(約1590m)までですら流産するかまたは未熟児だった。未熟児は生まれるとまもなく死亡した。6500フィートから1万フィート(約1590mから3000m)までのグループでは1/3が明白に普通児だった。(原爆の)爆発後2ヶ月目、広島市の流産、堕胎、未熟児の発生率は27%だった。通常では6%である。」 |
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「 |
もし原爆投下による爆風と火災の影響が全くなかったと仮定しても、爆心地から半径1/2マイル(約800m)における死者の数は実際の死者の数と同じくらい大きかっただろうし、また1マイル(約1600m)以内の死者は実際の死者の数より若干少なかったに過ぎないと信ずべき理由がある。主要な違いはいつ死亡したかと言う問題だけだろう。これらの犠牲者(victims!)は、無条件に死亡する替わりに、2−3日あるいは3−4週間生きながらえることが出来たに過ぎない。事実上は、放射線病によって死ぬだけだったのだから。」
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今この文章を読んでみると、原爆で発生した放射線が人体に対して直接与えた影響、すなわち急性放射線症(Acute Radiation Disease)による影響のことだとわかります。
特にこの調査団が注目したのが、生殖機能に与える影響でした。
たとえ死ななくても、確実に「人間の再生産」にダメージを与える点です。
広島大学原爆放射線医科学研究所の宮川清教授(=05年当時。)は、「45年の原爆によるガン発生のピークはまだ来ていないのです。2010年あたりに来るとわれわれは考えています。」(当時私のインタビューに答えて)ガンとは遺伝子の暴走状態だといっていいでしょう。
これらのことが意味するところは明らかでしょう。
核兵器は例え生存したと見えても、実はすべての生きとし生けるものの「生きる機能」を破壊するばかりでなく、確実に遺伝子を傷つけ、正常に次世代に受け継いでいく「再生産機能」までも奪ってしまう兵器だ、ということです。
私は、もし核兵器に他の兵器とは際だって異なる特徴があって、ただ一点だけを指摘しなさい、といわれたら、躊躇なく「核兵器の遺伝子に対する直接攻撃能」と答えることにしています。
そして人類最初の核兵器を世の中に送り出した人たちは、このことを良く理解していたばかりではなく、そのことが一般に知られることを極端に恐れていたのです。
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