【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ |
(2010.4.7) |
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前回見たように福島原発事故では、まだ有意味な量の不揮発性元素や超元素(ネプツニウムやプルトニウム)は出ていない、と考えることができる。つまり最後の一線で踏みとどまっていると考えることが出来る。
4月1日、原発推進派の学者たちが発表した「原子力専門家の緊急提言」を読んでも彼らも最終段階に至っていない、と見ていることが窺える。まず彼らは、次のように事態を認識している。
しかしながらこれ以上悪化すると、
『 |
特に懸念されることは、溶融炉心が時間とともに、圧力容器を溶かし、格納容器に移り、さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや、圧力容器内で生成された大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである。』 |
という状態になる。これはほぼチェルノブイリ事故で起こったことである。そして、後でも見るが、大気中に放出される放射能の量はチェルノブイリをはるかに上回ることになろう。
これを避ける手は冷やすこと、とにかく冷やすことである。 |
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翌3月16日(水)、アメリカのエネルギー省長官・スティーブン・チュー(Steven Chu)は議会で証言し、「明らかにスリー・マイル島事故を上回る」と述べた。(「ナショナル・ジャーナル」電子版<http://www.nationaljournal.com/daily/chu-says-japan-crisis
-may-top-three-mile-island-20110316>)
同紙の記事を引用すると、チューはアメリカ下院エネルギー・商業委員会で大要次のように述べた。
写真はエネルギー省長官
スティーブン・チュー
(英語Wikipediaからコピー・貼り付け) |
『 |
スリー・マイル島のメルトダウン(炉心溶融)では、工場の放射線封じ込めシステムは損なわれないままだった。従って工場の近くの住民ですら危険なレベルの放射線被曝はしなかった。1986年旧ソ連のチェルノブイリ事故との大きな違いである。チェルノブイリのメルトダウンおよび封じ込めシステム損傷は広範に人的損傷や環境に対する損傷を与えた。世界最大の惨劇だった。日本の発電工場(福島第一)で封じ込めシステムが持つかどうか、あるいはどのような影響があるかは、推測は控えたい。しかし我々は部分的メルトダウンの状況だと考えている。危険な状況の、いくつかの原子炉について錯綜した報告を受けている。次に何が起こるか推測は避けたいが、極めて注意深く監視している。』 |
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2011年3月23日、ドイツの環境保護団体グリーンピースの物理学者、ヘルムート・ハーシュは、フランスのシンク・タンク、放射線防護核安全研究所(Institut de Radioprotection et de Sûreté Nucléaire -IRSN)の公表した数字をもとにして、「もしあと数万テラベクレルのヨウ素-131等価の放射性物質が放出されるならばこの事象はレベル7と考えるべきだ。」と述べた。
(<http://www.greenpeace.org/international/PageFiles/285388/
greenpeace_hirsch_INES_report_25032011.pdf>)
フランスのシンク・タンク、放射線防護核安全研究所は先に福島原発事故は、事故発生以来2011年3月22日までに控えめな見積もりとして、9万テラベクレルのヨウ素-131と1万テラベクレルのセシウム-134を放出した、と発表し、ハーシュはこのデータをもとに先の報告を出した。報告によれば、放出セシウム-134は40倍するとヨウ素-131等価になる、従って1万テラベクレルのセシウム-134は、40万テラベクレルのヨウ素-131等価となる、従ってすでに約50万テラベクレルのヨウ素-131等価の放射能が放出された、と云う論旨だ。
もしこの理屈が正しいなら、なるほど福島原発事故はすでに「レベル7」に達していることになる。というのは、国際原子力事象評価尺度は極めて単純な構造で、ひたすらヨウ素-131等価の放射性物質放出量でレベルを刻んでいる。
それによれば「レベル6」の事象は「放射性物質のかなりの外部放出:ヨウ素131等価で数千から数万テラベクレル相当の放射性物質の外部放出」としている。それに対して「レベル7」の事象は「放射性物質の重大な外部放出:ヨウ素131等価で数万テラベクレル以上の放射性物質の外部放出」としている。
だから、約50万テラベクレルのヨウ素131等価の放出となれば、これは完全に「レベル7」と云うことになる。
3月25日、朝日新聞は、日本の原子力安全委員会の数字をもとにして、ヨウ素131で3万テラベクレルから11万テラベクレルの放出量と推定し、「レベル6」とした。
(<http://www.asahi.com/english/TKY201103250204.html>)
だから、現在(2011年4月7日時点)の状況は、「レベル6であり、レベル7に近づきつつある」というのが衆目の一致するところであろう。 |
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それでは、「チェルノブイリ事故」では一体どの程度の放射性物質が大気中に放出されたのであろうか?前回も引用した『「チェルノブイリ」を見つめ直す』(2006年初版第1刷 非営利法人 原子力資料情報室 今中哲二・原子力資料情報室編著)の中で今中は1986年のチェルノブイリ事故の放射能放出量を4億キュリーとしている。
ややこしい話で申し訳ないが、ここでは「キュリー」という単位が使われている。1キュリーは3.7X1010ベクレルである。370億ベクレルという事だ。あまりに数字が巨大過ぎてベクレル単位ではピンとこない。
4億キュリーをベクレル単位で換算すると、1480京ベクレルとなる。テラベクレル(TBq)の表示では1480万テラベクレルという事になる。だからこの数字に比べれば、これまで出されている推測、たとえば50万テラベクレルなどはまだ3%-4%に過ぎない。
(恐らく管政府は専門家のデータに基づいて独自の推測数値を持っていることだろう。)
ちなみにスリー・マイル島事故での放射能放出量は、放射性希ガス約250万キュリー、ヨウ素-131が約15キュリーと推定されている。
(<http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=02-07-04-03>)
今ヨウ素-131の放出量だけを換算してみると、フランスの放射線防護核安全研究所は、事故発生以来2011年3月22日までの放出量を9万テラベクレルと推定した。15キュリーは0.555テラベクレルに過ぎないから、福島原発事故は3月22日の時点で、ヨウ素-131だけを見れば、すでにスリー・マイル島事故の16万倍から17万倍の規模に達していることになる。
要するに、福島原発事故は、スリー・マイル島事故と比べること自体が無意味な段階に達しているのだ。今比較すべきはチェルノブイリ事故である。
前述のごとくドイツ・グリーンピースのヘルムート・ハーシュが行った推測値50万テラベクレルは、まだチェルノブイリ事故の3%-4%に過ぎない。 |
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ただし、このまま核燃料(放射能)を封じ込めることが出来ればの話である。現在の状況は3月22日以降も放射能を出し続けている。止めることが出来ていない。
現在の状況とチェルノブイリ事故との決定的な違いは、圧力容器が完全に破壊されていないということだ。圧力容器完全に破壊されたチェルノブイリ第4号炉が保有していた約10トン(日本語ウィキペディアを信ずればの話だが)。その放射性物質は完全に大気中に、ガスとしてあるいはこまかなチリや埃としてまき散らされた。それが放射能放出量として前述の4億キュリーとして表現されているわけだ。
( |
なお、チェルノブイリ4号炉は旧ソ連が独自に開発した黒鉛減速炉で格納容器は設計上装備していなかった。しかし格納容器があろうがあるまいが、圧力容器が破壊されてしまえば、結果は同じだろう。というのは頑丈な圧力容器が破壊された段階で、薄っぺらな格納容器-厚さ約3cm-が無事だとは思えないからだ。) |
一体、福島第一原発には、いったいどれぐらいの核燃料があるのだろうか?
別表1は福島第一発電所の原子炉ないしは使用済み核燃料プールにある核燃料の数量である。
【別表1】 東京電力福島第一発電所の核燃料 |
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1号機 |
2号機 |
3号機 |
4号機 |
5号機 |
6号機 |
合計 |
出 力(kw) |
46万 |
78.4万 |
78.4万 |
78.4万 |
78.4万 |
110万 |
469.6万 |
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炉心燃料装荷体数 |
400体 |
548体 |
548体 |
0体 |
548体 |
764体 |
2808体 |
プール貯蔵体数 |
292体 |
587体 |
514体 |
1331体 |
946体 |
876体 |
4546体 |
出典: |
日本語ウィキペディア「福島原子力発電所事故」(2011年3月24日閲覧)なおこの記述は社団法人日本原子力産業協会の資料をもとにしている。 |
註: |
燃料装荷体とは一定の数量にまとめた核燃料棒の集合体のこと。「プール」は使用済み燃料プールのこと。4号機は定期点検中で原子炉内には核燃料はなかった。 |
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ここで炉心燃料装荷体といって云っているのは核燃料棒の集合体のことである。原子炉内に1号機から6号機まで合計2808体ある。また使用済み核燃料プールには合計4556体ある。これが合計でどれくらいの重量の核燃料になるのか私にはわからない。
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【写真1は加圧水型原子炉の炉心燃料装荷体。福島原発の場合は沸騰水型なので全く同じではない。手で持ち上げているのが制御棒だそうである。
写真2は沸騰水型炉心燃料装荷体の水平断面図モデル図。中央の十字が制御棒。4つの正方形状の物体が装荷体。丸く黒い穴が一本一本の核燃料棒。
(日本語ウィキペディア「燃料集合体」からコピー・貼り付け)】 |
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【写真1】 |
【写真2】 |
京都大学・原子炉実験所の小出裕章(助教)にインタビューしている時、話は当然チェルノブイリ事故との比較に及んだ。小出は事故を起こしたチェルノブイリ4号炉と福島第一原発との電気出力の比較をした。その時大ざっぱに原子炉の電気出力と保有核燃料の総量が比例関係にあり、この比較を行うのにそれなりの根拠があることを知った。
事故を起こしたチェルノブイリ4号炉の電気出力は100万キロワットであった。福島第一原発の1号機の電気出力は46万キロワット、2号機から5号機までが78万4000キロワット、6号機が110万キロワットで合計469万6000キロワットになる。
大ざっぱに言って、出力100万キロワットのチェルノブイリ4号炉から放出された放射能が4億キュリーなら、仮に福島第一1号機から保有放射能が全て放出されたならば、1億8400万キュリーとなる。仮に3号機ならば、約3億キュリーとなる。
しかしこれはシロウトのバカバカしい計算だ。小出によれば、もし1-4号機までのどれかが、放射能全放出という事態になれば、この4つの原子炉は近接しているからどの原子炉にも人が近づけない状態になる。つまり冷やし続けることが出来ない。冷やし続けることができなければ、核燃料は「自ら出す熱」によってやがて溶融し、最後の砦である圧力容器を破壊することになる。そうすると、中の燃料棒の持つ放射能が全放出するのは時間の問題と云うことになる。つまり今回の「福島原発危機」においては、少なくとも1号機から4号機までは一体のものとして考えなければならない、ということだ。また、それは原子炉そのものだけではなく、1号機から4号機の使用済み核燃料プールも危機の発生源として一体のものとして考えなければならない、ということでもある。核燃料を持っていないのは別表1を見ておわかりのように、第4号機原子炉だけである。
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それでは、どの発生源でも構わないが、「放射能全放出」のケースとはどんな状態だろうか?
それはいうまでもなく、圧力容器が破壊されて大気中に全露出した時であろう。あるいは使用済み核燃料プールの水が干上がって、核燃料棒の燃料が全露出した時であろう。それは、どの1箇所であっても事態は同じことになる。というのは、どの1箇所でも「放射能全放出」状態になれば、近接した1号機から4号機の間には人が近づけない状態になる。どんなに決死隊を募って現場作業を行おうとしても作業自体が行えない状態になるからだ。
4月6日午前11時頃、私はテレビで産業経済省・原子力安全・保安院の記者会見をみていた。内容は現状報告である。前日東電はたまった汚染水を海に放出したばかりである。東電、安全・保安院は「高レベル汚染水を確保するため、低レベル汚染水を海に放出した」と説明した。高レベル・低レベルとはどの程度の汚染なのか数字を出してくれれば、すぐわかるのだが集まったマスコミ記者諸君もそんな質問はしないし、東電、安全・保安院側も決して云わない。
(今回の福島原発事故でもう一つ誰の目に明らかになったことは、既成大手マスコミ-大手日刊新聞・テレビ局など-が完全にジャーナリズムの機能を喪失していることだろう。)
するといつもスポークスマンとして登場する原子力安全・保安院の官房審議官の役人が、「高レベル汚染水は核燃料に直接触れていますから、1000ミリシーベルトの濃度を持っています。」と口を滑らせた。問わずに落ちずに語るに落ちるというやつだ。
1000ミリシーベルトとは1シーベルトである。「ただちに」急性放射線障害を引き起こすレベルである。原子力科学に疎い私は、彼らが「高レベル汚染」といっているのは生体放射線吸収量で1シーベルト程度のことを云っているのかとはじめて知った。1シーベルトの汚染水はもう汚染水ではない。それ自体が「放射性物質」だ。
すると核燃料が本格的溶融を起こして、チェルノブイリ事故の時のように、ジルコニウム95、ニオビウム95、ランタン140、セリウム144などの不揮発性同位元素やプツニウム、プルトニウムなどの超ウラン元素を放出しはじめたらどうなるのか?
恐らく近辺にすら近づけなくなるほどの強烈な放射線を出すことだろう。
そうすると、他の原子炉や使用済み核燃料プールが次々と陥落していくのを指を加えて見ているしかない。
(アメリカやフランスが「ロボット」を提供してくれるという報道があるが、このロボットがどの程度の精度をもって働いてくれるか、私は是非知りたいところだ。)
今まで1号機から4号機のことばかり考えてきた。別表1を見ると、1号機から4号機までの電気出力は281.2万キロワットになる。単純にチェルノブイリ4号炉電気出力100万キロワットとの比較で言えば、放射能放出規模は約2.6倍となる。チェルノブイリ事故で放出された全放射能を4億キュリーと見れば、その2.6倍、すなわち10.4億キュリーの放出となる。ただこれが1号機から4号機で済めばの話である。
災害対策本部発表の事故報告書(<http://www.inaco.co.jp/isaac/kanren/11.htm>)のうち、どの報告書でもいいが、別添資料の最後の方に「参考」と題された福島第一の見取り図がついている。たまたま私は「4月1日(13:00)」と題された資料を見ているが、港湾に面して1号機から4号機がずらりと並んでいる。その北側に5号機と6号機が設置されている。写真はグーグルマップを航空写真モードにしてプリント・スクリーンしたものだが、先ほどの「参考資料」とこのグーグルマップの写真を照合してみると、1号機と5号・6号機は、精々直線で500mから600m位しか離れていない。
日本語ウェキペディア「福島第一原子力発電所事故」より
【Copyright © 国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省】
※番号は上書き加工している(色が青でわかりにくかったため) |
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もし仮に1号機から4号機までが「放射能全放出」となった時、5号機、6号機に人が踏みとどまって冷却し続けることができるだろうか?あるいは遠隔操作で5号機から6号機をまもることができるだろうか?専門家はどんな予測をするだろうか?500mから600mの直線距離は、5号機、6号機を守るのに十分な距離なのだろうか?
いまここで守ることが出来ない、と仮定してみよう。5号機78.4万キロワット、6号機は110万キロワットで合計188.4キロワットとなり、1号機から6号機までの合計は469.6万キロワットとなる。単純にチェルノブイリ事故との比較で言えば、約4.7倍、これも単純に放出放射能量でいえば、18.8億キュリーとなる。
これが考えられる「最悪のシナリオ」の第一ストーリーである。
第二ストーリーもある。というのは管政府原子力災害対策本部発表の報告書の表題が『福島第一・第二原子力発電所事故について』となっているように、当然福島第二原発まで視野にいれなければならないということだ。福島第二原子力発電所は第一から南へ直線で約10km程度しか離れていない。もちろん今回の避難地域圏内にすでにすっぽり入っている。福島第二には1号機から4号機までそれぞれ出力110キロワットの原子炉がある。合計440万キロワットになる。第一原発と合わせると909.6キロワットになる。単純にチェルノブイリ事故と比較すると約9倍、約36億キュリーの放出量という計算になる。これが最悪のシナリオの「第二ストーリー」である。
電気出力から保有放射能量を類推するという方法がまず科学的根拠を持つものなのかどうか?(私は小出裕章がそう考えたので真似をしただけだ。私自身なんら科学的根拠をもたない。)
それから、500mから600mという距離、あるいは第一原発から第二原発までの距離約10kmという距離が放射能に耐えて人間が作業できる距離なのかどうか、専門家はどういう見解なのだろうか?チェルノブイリ事故を研究した専門家ならある程度科学的根拠を持って予測できるだろう。
ともかく最悪中の最悪を考えれば以上のようなストーリーとなる。
今の問題は、管政府なり、東京電力なりこの事故の対策に当たっている連中が、幅広い専門家の意見を聞きながら、最悪中の最悪を想定しながら対策を立てているかどうかということだ。
今までの「安全神話」の時のように、「考えたくないことは考えない」という態勢を採り続けてはいないか?私はこの点が非常に不安である。この問題はこの事故対策をいつまでも管政府なり、東京電力に任せておいていいのかと云う問題に発展する。
そのかぎりでは、2011年4月1日発表された、これでまで原発推進派と目されてきた学者・専門家の緊急提言が、
という通りである。
私たちは今「最後の一線」で踏みとどまっている。これが今唯一の希望である。 |
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(以下次回) |