【参考資料】ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ |
2012.1.20 |
<参考資料> |
アップル・ペクチンによる“チェルノブイリ”チルドレンの生体内のセシウム137負荷の軽減 |
(Reducing the 137Cs-load in the organism of “Chernobyl” children with apple-pectin)
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注目されるセシウム137の長期的影響 |
スイスの医学雑誌スイス・メディカル・ウィークリー(Swiss Medical Weekly-SMW)の2004年の号(134:24-27)に掲載された論文である。SMWは1871年創刊の医学雑誌で掲載論文は全て査読済み(peer-reviewed)である。
「査読」(ピア・レビュー)というのは 、日本語ウィキペディア「査読」が『研究者仲間や同分野の専門家による評価や検証のことである。研究者が学術雑誌に投稿した論文が掲載される前に行われる。』というとおり、そのジャーナル(雑誌)の信頼性と権威を維持するため通常行われる手続きである。ただ、査読の仕組みを利用して自説以外の学術的研究を排除していると反ICRP(国際放射線防護委員会)の学者・研究者は、ICRPの学説体系に連なる学者・権威筋を批判している。
スイス・メディカル・ウィークリーは伝統的には、研究内容次第で査読を利用して特定の学術研究を締め出そうという傾向はないようだ。ちなみに私はこの論文をアメリカの国立衛生研究所(NIH)の傘下の国立生物工学情報センター( National Center for Biotechnology Information-NCBI)のサイトからダウンロードして使用している。
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14745664)
この論文は、ワシーリー・ネステレンコ(Vassili V. Nesterenko)とアレクセイ・ネステレンコ(Alexey V. Nesterenko)他3人の名前が上がっている。ワシーリーとアレクセイはベラルーシの核物理学者で、ユーリ・バンダシェフキーらと同様、チェルノブイリ事故後の放射線による健康損傷について調査研究した人物である。ワシーリーは2008年に亡くなったが、アレクセイは現在ベルラド研究所の所長だという。(日本語ウィキペディア「ワシリー・ネステレンコ」による)またアレクセイは欧州放射線リスク委員会(ECRR)2010年勧告作成にあたって貢献し、前年09年、ギリシャのレスボス島で開催されたレスボス会議に日本の沢田昭二とともに参加している。
(「ECRR2010年勧告」 日本語テキスト3p参照のこと)
核兵器爆発(原爆爆発)とは違って、原子力発電所の事故で放出される放射線核種のうち長期にわたって生物の健康損傷に大きな影響をもたらす核種は、事故初期のヨウ素131をのぞけば、セシウム137、セシウム134、ストロンチウム90、プルトニウム239だとされる。(「あらかじめ計算された放射線による死:EUと日本の食品放射能汚染制限値 2011年9月・ベルリン」、いわゆるフードウォッチ・レポートによる)
なかでもチェルノブイリ事故で国土の大半を汚染されたベラルーシ及び国境内にチェルノブイリ原発を抱えたウクライナはセシウム137の長期的健康損傷に苦しめられたし、今も苦しめられている。(下図参照のこと)
ネステレンコらの研究は、体内に摂取されたセシウム137(137Cs)を、生物学的半減期を待つのではなく、人為的に体外に排出し137Csの負荷を軽減することはできないか、というものだった。「チェルノブイリ惨事」を参照すれば、「フクシマ放射能危機」でも私たちは137Csに長期的に苦しめられ、乳児や幼児、老人の命を奪い、全国民が多かれすくなかれ内部被曝によって様々な疾病を発症することは火を見るより明らかである。
私とすればこの研究に大きな興味を持たざるを得ない。
早速この論文の要約(Summary)を見てみよう。
(なお、論文本文の引用は『 』でくくる。もし文中、青字の小さなフォントがあれば、それは私の補足である。青字の小見出しは私が後で検索するための目印である。またなお、私は当然のことながら専門の医科学者ではない。一介の広島市民にすぎない。専門用語はできるだけ参照して正確に日本語に移すつもりだが、不備がなかろう筈がない。できるだけ論文の原語を残して参考にしてもらうつもりだが、不備があればご容赦いただきたい。また、「りんご野」<http://ringono.com/>というサイトにこの論文の日本語訳が掲載されている。<http://ringono.com/wp-content/uploads/SMW2004_jp_new.pdf> こちらはスイス・メディカル・ウィークリー掲載論文を英語テキストとしているようだ。この記事を作成するにあたって同日本語訳を参照させていただいた。)
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アップル・ペクチンは腸で吸収後も有効か? |
『 |
論文の要約(Summary)
標準的な放射線防護措置の補助手段として、子どもたちの生体内へ吸収した137CS(137Cs uptake)を軽減するため、アップル・ペクチン製剤(apple-pectin preparations)が、特にウクライナにおいて与えられている。』 |
アップル・ペクチンは文字通り「リンゴ」のペクチンである。ウクライナやベラルーシではこれを製剤(preparations)にして、Cs137の体内負荷軽減の手段として用いているらしい。
『 |
問題が提起されている。:子どもたちが放射線に汚染されていない食品を摂取した時にペクチンの経口摂取は有効なのか。あるいは、この多糖類(すなわちアップル・ペクチン)は消化管(gut)の中の137Csと結合し、腸内吸収を妨げる時のみに有効に働くのか?この場合、ペクチンは、もし放射線汚染のない食品が与えられた場合でも、役に立たないであろう。(would
be useless)』 |
この疑問の意味は、放射線に汚染されていない食品を摂取した時に、すでに生体内に存在しているCs137を体外に排出することができるのか、すなわちアップル・ペクチンはいかなる時でもCs137に対して有効なのか、それともCs137に汚染されている食品を摂取した時、まだその食品が消化管内にとどまっており、腸で吸収する前でしか有効でないのか、すなわち消化管内で多糖質であるアップル・ペクチンがCs137と結合することによって、腸内吸収を妨げるので、この時だけが有効なのか、ということである。
|
左の写真はアップル・ペクチン製剤の例。120カプセル入り、700mg。
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二重盲検法による偽薬対照試験 |
『 |
研究は無作為に、二重盲検法で偽薬対照試験を行った。リンゴから抽出したペクチンを15-16%含んだ乾燥粉末と類似偽薬を64人の子供たちで比較した。子どもたちはゴメリ州の汚染した農村の同じ集団からの出身である。』 |
二重盲検法(double blind trial)は、日本語ウィキペディア「二重盲検法」によれば、「特に医学の試験・研究で、実施している薬や治療法などの性質を、医師(観察者)からも患者からも不明にして行う方法である。プラセボ効果や観察者バイアスの影響を防ぐ意味がある。この考え方は一般的な科学的方法としても重要であり、人間を対象とする心理学、社会科学や法医学などにも応用されている。」ということらしい。この研究が偽薬対照試験(プラセボ比較試験、ともいう。placebo-controlled trial)で行われたことを考え合わせると、どれが実際のアップル・ペクチン乾燥粉末剤か偽薬かを被験者の子どもたちにも、観察研究する医師たちにもわからないようにして行われたということだ。
ところでここに登場するゴメリ州は、国土全体が汚染されたベラルーシの中でも特に汚染が激しかった地域だ。(下図参照の事)
|
ベラルーシは首都ミンスクが特別区の他、6つの州がある。ゴメリ州は、国境を挟んでウクライナ側にあるチェルノブイリ原発にもっとも近い州であり、もっとも放射性降下物に汚染された州である。
次の図は、1986年のチェルノブイリ原発事故から10年経過した1996年時点のセシウム137(Cs137)の汚染状況を死示した図である。
ゴメリ州が事故後10年経過してもCs137にいかに深刻に汚染していたかがおわかりだろう。話は変わるかも知れないが、「フクシマ放射能危機」で汚染された地域を選んで除染し、もう一度人が住もうという計画が進んでいる。こうした日本政府の欺瞞政策に絶対乗ってはいけない。Cs137を完全に除去することはできないし、もしそうであるなら、慢性被曝に自らを曝すことになる。それは確実に健康損傷につながる。
|
|
|
放射能影響の全くない被験環境 |
さて次を続けよう。
『 |
(64人の子どもたちの)平均137Cs被曝量は体重1kgあたり(BW)30ベクレルだった。試験はシルバー・スプリングのサナトリウムで同時に1ヶ月滞在して行われた。放射線の環境としてはクリーンな状況の中で、子どもたちには放射線に汚染されていない(radiologically “clean”)な食品だけが与えられた。
子どもでは、経口ペクチン粉末を摂取した場合、137Csの平均減少率は62.6%である。放射線に汚染されていない食品を偽薬対照で摂取した時の減少率は13.9%であり、その違いに有意性がある。(P<0.01)』 |
「P<0.01」というのは、「この実験結果で誤りが現れる確率は100回に1回以下」という意味である。この実験結果に誤りがある確率は1%以下である、ということでもある。普通疫学的手法(統計学的手法)を使った研究で「有意」(偶然の結果ではなく、統計学的に意味がある)とみなされるのは「P<0.05」、あるいは100回に5回以下の確率で同じ結果が得られる、であるから、この研究結果は十分科学的ということになる。
『 |
137Cs負荷の減少は医学的にみて価値がある。というのは偽薬グループではBW(体重1kgあたり)20ベクレルを下回った値(Values)に達した子どもは一人もいなかったのに対して、平均の値は25.8±0.8ベクレルだったからである。』 |
体重1kgあたり20ベクレルという数字は、ベラルーシでCs137の人体に対する影響を病理学的に研究したバンダシェフスキーが、病理学的に人体組織が損傷を受ける可能性があるとみなした数字である。
『 |
アップル・ペクチン・グループでの最も高い値は15.4ベクレル/kg BW(体重1kgあたり)だった。その平均値は11.3±0.6ベクレル/Kg BWだった。
キーワード:“チェルノブイリ”チルドレン;生体内における137Cs負荷の軽減;比較対照試験:アップル・ペクチンの経口摂取対偽薬摂取 』 |
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200万人がセシウム137に被曝 |
それでは順序に従ってこの論文の「導入部」を見てみよう。
『 |
1 導入部(Introduction)
ウクライナのチェルノブイリ発電所の爆発後(1986年4月28日)の放射性降下物は、その隣国であるベラルーシの領土の23%を1平方kmあたり1キュリー以上(370億ベクレル以上)(1平方メールあたり3万7000ベクレル以上)のCs137汚染というレベルで被曝させた。農業生産は26万4000ヘクタールにわたって停止した。
この地域には、子ども50万人を含む約200万人の人々が住んでおり、主として137Csとストロンチウム90(90Sr)に汚染した。』 |
このベラルーシの汚染の状況について、この論文はIAEAの報告でなしに、「チェルノブイリ事故後のベラルーシ人口集団のための放射能防護措置」(“Radioprotective measures for the Belarussian population after the Chernobyl accident.”)という論文を引用している。この論文は2001年にワシーリー・ネステレンコが、「放射線医療国際ジャーナル」(“International Journal of Radiation Medicine”)という学術誌に発表したものだ。
(類似の報告は次に収められている。<http://www.ec-sage.net/D04_03.pdf>)
『 |
ベルラド放射線防護研究所の移動チームは、子どもたちの生体内における137Cs負荷を測定した。現在までに16万人を確認した。これら地域の子どもたちの70%から90%までの(子どもたちの)137Csレベルは体重1kgあたり15-20ベクレルを越えていた。
(ゴメリ州の)多くの村では、137Csレベルは、200-400ベクレル/ kg BWに達していた。最も高い値はナロビリャ(Narovlya)地区で6700-7300ベクレル/kg BWだった。
ユーリ・バンダシェフスキー教授の指揮のもとに行われたゴメリ国立医科大学の9年間にわたる研究では異なる臓器に長期間にわたって蓄積された137Cは健康の悪化を進展させることが示されている。』 |
ここでのバンダシェフスキーらの研究は、“Pathophysiology of incorporated radioactive emission.”(Gomel State Medical Institute, 1998)や”Medical and biological effects of radiocaesium incorporated into the organism.”(2000)などが引用されている。
『 |
ベルラド研究所は、農村人口集団のために情報センターを設置し、食品・食糧、ミルクやまぐさについて137Cs汚染を無料で計測するためスペクトロメータを装備した。』 |
ガイガーカウンター系の放射線計測器とは違って、スペクトロメータは放射線の出すエネルギーを分光して計測する放射線測定器である。スペクトロメータのメーカー、セイコー・イージーアンドジーは次のように説明している。
「放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子)のエネルギースペクトルを測定して核種を同定し、さらに定量することを目的とするスペクトロメトリに用いる測定装置を言います。一般に、放射線検出器、プリアンプ、アンプ、波高分析器などで構成されています。
放射線は種類によって性質が大きく異なります。さらに、放射線と物質との相互作用も加味する必要があるため、測定の目的に適った検出器を選択し、適切なデータ処理を行うことが重要です。」(<http://speed.sii.co.jp/pub/segg/hp/prod_detail.jsp?mcatID=326&sbIcatID=454>)
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生体内137Csはなかなか減少しない |
この論文を続ける。
『 |
(こうして計測した)サンプルは32万点分析した。教育・広報したり、あるいは幼稚園から学校までの子どもたちに政府支給で1日に2回、これまた無料の食事を提供したのだが、子どもたちの生体内での137Cs負荷は、満足なレベルでの減少につながらなかった。』 |
日本の文科省関係者、福島県の関係者、すべての教育関係者はこの論文をよく読んで欲しい。また「放射性セシウム」などといった誤魔化しは即刻やめて、セシウム137、セシウム134とはっきり区別して、それぞれの放射線の強さを表示し、対策を講ずるべきである。
『 |
従って、われわれはペクチンの研究を開始した。ペクチンとは、果物類に多く含まれ、ヨーロッパでは広く菓子やジャムに使われている多糖類である。精製ペクチンもまた重金属(鉛や水銀)中毒症の経口吸着剤として処方されている。これら薬物処理は本来は鉛毒症の治療のためにサノフィ社(フランス)(Sanofi-Aventis=サノフィ・アベンティス)によって開発されたものだった。
10年来、圧搾後の残りものの粉末リンゴを基とした異なる種類の製剤が、生体内の放射性セシウム負荷を軽減する目的でウクライナの放射線汚染地域で暮らす子供たちに経口で与えられている。
コルザム(V. N Korsum)は、アップル・ペクチンを放射能汚染された餌と共にネズミに与えると、Cs137とストロンチウム(Sr90)の吸収が大幅に減少することを明らかにしている。
ベラルーシでは、体内の重金属の除去効果とあわせて、アップル・ペクチン製剤の安
全性と効果がグレス(N.A. Gres)によって研究された。』 |
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研究の目的と方法 |
『 |
研究の目的(Aim of the study)
この研究の目的は、ペクチンが、子供たちに対して放射能に汚染されていない食物を与えられた場合でもなお、効果をもつかどうか検証することであった。なぜなら、この吸着剤(すなわちアップル・ペクチン)が機能する形式は、腸内の内腔で重金属(Cs137を含む)と結合することによって、複合体として排泄物とともに対外に排出する、というものだからである。』 |
つまりは、アップル・ペクチンは重金属と腸内で結合し、体外に排泄するのでCS137の場合も有効かどうかを検証することがこの研究の目的であった。
『 |
方法(Method)
われわれは、体内から排出された合同したCs137の割合を、ゴメリ州の同じ農村地区
出身の子どもたちの2つのグループで比較することを計画した。子どもたちは1ヶ月間、シルバー・スプリング・サナトリウムに滞在した。この放射能に汚染されていない環境において、子どもたちは全員、汚染されていない食べ物のみが与えられた。
汚染されていない食べ物の他に、一つのグループには、茶さじ1杯の粉末アップル・ペクチン(5g)を水に溶かしたものを1日に2回、3週間にわたって、食事の際に与えた。
もう一方のグループには、同じ食事と、見た目には類似した粉末だがペクチンを含まない粉末を、すなわち偽薬を、同様の回数と期間与えた。
子どもたちの家族には、3週間の治験について告知を受けた。3週間の治験には、治験の前と後の放射線測定を含んでいる。
子どもたちは、口頭によるインフォームト・コンセントを受け、正当な理由があろうがなかろうか、いつでも辞めるできることを知り得た。
子どもたちの母親全員は、書面でのインフォームト・コンセントを得て、偽薬を与えられたグループの子どもたちにも全員、サナトリウムを去る際、ペクチン粉末一箱を配布すると告げられた。
研究には64人の子供たちが参加を受け入れた。
無作為抽出表に基づいて、32人の子どもたちが、15-16%のアップル・ペクチンを含んだ一箱を受け取り、32人は偽薬の粉末の箱だった。
ペクチン製剤の鍵は倫理委員会のメンバーが保管し、137cSの計測値を全て登録した後、また本人の訴えや臨床的観察を個々人の医療アンケートに記録した後に、解錠されることにした。』 |
「鍵」というのは二重盲検法の用語で誰がペクチンや偽薬を受け取ったか、被験者の子どもたちはもちろん、治験者側の医師たちにもわからないにしたことを保証する、という意味合いで使われているようだ。
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ペクチン・グループの結果 |
表1 |
137Csの二重盲検法による比較。サナトリウム1ヶ月滞在期間中の3週間の治療で放射能の全くない環境で放射能に汚染されていない食品をあたえられた時、体重1kgあたりの学童の137Csの3週間前の値と3週間後の値。計測はホールボディ・カウンターによる。(アップル・ペクチンを摂取したグループ) |
名前 |
生年 |
性別 |
ペクチン摂取前 ベクレル/kg WB |
ペクチン摂取後 ベクレル/kg WB |
A.A.N. |
1993 |
女 |
40.2 |
15.3 |
B.I.S. |
1992 |
女 |
36.0 |
12.6 |
B.Ju.E. |
1990 |
女 |
34.9 |
13.9 |
G.A.N. |
1993 |
女 |
34.5 |
15.4 |
G.E.V. |
1993 |
男 |
34.0 |
14.1 |
G.E.V. |
1990 |
女 |
33.9 |
15.3 |
G.N.O. |
1992 |
男 |
32.5 |
11.7 |
G.V.V. |
1991 |
女 |
32.5 |
12.7 |
G.M.N. |
1992 |
女 |
31.8 |
12.2 |
G.V.N. |
1990 |
女 |
31.3 |
13.9 |
Z.K.V. |
1991 |
女 |
31.1 |
14.7 |
I.Ya.A. |
1990 |
男 |
30.9 |
12.6 |
K.A.S. |
1994 |
男 |
30.1 |
11.9 |
K.A.S. |
1991 |
男 |
29.5 |
5.0 |
K.I.L. |
1990 |
男 |
29.2 |
12.4 |
K.V.A. |
1990 |
男 |
29.0 |
5.0 |
K.V.E. |
1993 |
男 |
28.9 |
13.2 |
L.A.S. |
1993 |
女 |
28.2 |
5.0 |
M.YA.N. |
1992 |
女 |
28.1 |
5.0 |
M.R.S. |
1992 |
男 |
27.9 |
11.6 |
P.E.M. |
1993 |
男 |
27.8 |
11.9 |
S.E.F. |
1993 |
女 |
26.2 |
12.3 |
T.A.V. |
1993 |
女 |
25.8 |
10.2 |
T.V.S. |
1991 |
男 |
25.8 |
11.0 |
F.D.A. |
1992 |
男 |
25.6 |
9.2 |
Ch.D.V. |
1993 |
男 |
25.4 |
10.0 |
Sh.R.A. |
1990 |
男 |
25.3 |
11.9 |
Yu.A.L. |
1993 |
女 |
25.3 |
5.0 |
平均値 |
30.1 ± 0.7 |
11.3 ± 0.6 |
|
被験者となった子どもたちはいずれも1990年から1994年に生まれている。ベラルーシの人口統計を見てみると(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/genpatsu/ukraine2.html>)、チェルノブイリ事故のあった1986年に17万1611人だった生児出生は、早くも翌年から徐々に下がりはじめ、被験者の中で最も早い誕生年の1990年には14万2167人、91年には13万2045人、92年には12万7971人、93年には11万7384人、94年には11万599人と最もドラスティックに下がった時期に生まれた子どもたちであることがわかる。
『 |
この結果で、2つのグループにおける耐性と受容性、ならびに体内の137Csの減少率の違いを、それぞれのグループの統計学的な分析とともに比較した。
137Csの全身測定(Measurement of the whole body count of 137Cs)
放射線測定はベルラド研究所のチームによって実施された。ウクライナ製の携帯用ホールボディカウンター、「スクリーナー3M」(”Screener-3M”)を使い、計測値は電子登録さ れた。(ベルラド研究所の7台の携帯スペクトロメータには、ドイツのユーリッヒ研究所<the Research Centre Juelich>の所有するドイツ製「キャンベラ・ファーストスキャン・ホールBC<Canbera-Fastscan-wholeBC>2台の携帯スペクトロメータを使って性能のクロスチェックが施された。両機種の違いは11%を越えなかった。
2度目の比較検査では、何度も測定した場合、大多数の子どもにおいて、違いは7%を越えなかった。また、計測の科学的精度は年次の国家義務点検によっても保証された。』 |
|
ペクチン・グループと偽薬グループの明確な違い |
『 |
結果(Results)
鍵は倫理委員会のメンバーによって、すべての情報が記録された後に解錠された。
64人すべての治験が完了した。2種類の製剤(すなわち偽薬とペクチン剤)は同等に子どもたちに受容されまた(薬物として)耐用性(tolerated)があった。3家族が放射線測定前に療養所を去らなければならなかったため、4人の子どもは最後まで治験を受けなかった。2人の子ども(各グループ1人づつ)が理由不明のまま2度目の3分間放射線測定を拒否した。』 |
従って58人の子どもが治験を最後まで完了したことになる。
表2 |
ペクチンを処方されたグループでは平均62.6%の減少が見られた。一方偽薬を摂取したグループでの3週間の前と後での全身測定値(ベクレル/kg BW)である。 |
名前 |
生年 |
性別 |
偽薬摂取前 ベクレル/kg WB |
偽薬摂取後 ベクレル/kg WB |
A.R.V. |
1992 |
男 |
48.4 |
41.8 |
A.D.E. |
1990 |
男 |
37.0 |
31.2 |
A.N.O. |
1990 |
男 |
36.2 |
31.3 |
B.V.G. |
1992 |
男 |
35.2 |
27.5 |
V.A.V. |
1994 |
男 |
34.7 |
29.0 |
G.D.A. |
1993 |
男 |
34.4 |
30.5 |
G.A.S. |
1993 |
男 |
33.9 |
28.0 |
G.V.V. |
1993 |
男 |
33.5 |
29.2 |
G.V.S. |
1993 |
男 |
32.5 |
27.5 |
Z.M.N. |
1994 |
女 |
31.2 |
27.5 |
I.K.A. |
1991 |
女 |
30.5 |
28.5 |
K.V.S. |
1993 |
女 |
30.3 |
25.4 |
K.E.M. |
1990 |
女 |
29.5 |
25.2 |
K.N.V. |
1990 |
女 |
28.6 |
24.9 |
K.Ya.A. |
1992 |
女 |
28.4 |
23.6 |
L.K.A. |
1991 |
女 |
28.1 |
24.2 |
M.Yu.A. |
1994 |
女 |
28.1 |
23.2 |
M.E.A. |
1992 |
男 |
28.0 |
26.3 |
P.E.A. |
1991 |
男 |
27.5 |
25.6 |
P.Ya.V. |
1990 |
男 |
27.2 |
20.1 |
R.S.P. |
1991 |
男 |
26.5 |
22.5 |
S.I.A. |
1992 |
男 |
26.3 |
24.1 |
S.E.M. |
1994 |
女 |
26.1 |
23.7 |
T.A.A. |
1992 |
男 |
25.9 |
21.6 |
T.E.S. |
1992 |
女 |
25.7 |
21.9 |
Kh.S.I. |
1993 |
女 |
25.5 |
22.3 |
Kh.T.F. |
1993 |
女 |
25.5 |
23.9 |
Sh.Ya.N. |
1992 |
女 |
25.4 |
21.1 |
Yu.A.V. |
1992 |
男 |
25.3 |
22.8 |
Z.I.S. |
1993 |
男 |
24.8 |
20.0 |
平均値 |
30.0 ± 0.9 |
25.8 ± 0.8 |
『 |
偽薬グループの平均減少率は13.9%であった。この数値差は統計的に有意である(p<0,01)。治験前の両グループの137Cs負荷値は同等である。ペクチン-グループの137Cs負荷の平均減少率は62.6%%だった。偽薬グループの137負荷の平均減少率は13.9%。この数値差は統計的に有意である。p<0.01。』 |
|
|
放射能のない環境と食品が基本 |
|
この研究の本来の目的とは違うかも知れない。しかし私はこの表を見て考え込んでしまう。確かに偽薬グループは、アップル・ペクチン・グループに比べて137Csの減少率は小さいのかも知れない。しかし減少しているのだ。この減少はいうまでもなく放射能汚染のない環境と放射能汚染のない食品摂取のたまものである。放射能のない環境で暮らせば、慢性被曝の環境を断ち切れば、わずか3週間でも確実に体の中の137Csは体外に排出される。
私はこのことが重要なのだと思う。「フクシマ放射能危機」の責任は、第一義的には日本政府と東電にある。彼らがその責任を取るとは、全く今回の事件に責任のない子どもたちに「放射能の危険のない環境」を保証することなのだ。私はこの表を見てそのことを思う。
論文に戻る。
『 |
従ってこの結果は58人分の測定に基づいている。表1は、ペクチン治療グループの子ども一人一人の137Cs負荷値をその治験前後で、また治験前後の平均値をを示している。
治験前では、両グループにおいて、平均値30.0ベクレル/kg BWと30.1Bq/kg BW、いずれも体重1kgあたり30Bq以上の137Csが測定された。
治験後、すべての子どもたちにセシウム137の体内蓄積量の減少が見られた。しかしながら、偽薬グループでは、体重1kgあたり20Bqより低い値まで減少した子どもは存在せず、また平均値は体重1kgあたり25.8±0.8Bq、つまり、体内のセシウム137の減少率は13.9%であった。
一方、アップル・ペクチンのグループでは、3週間のペクチン摂取後、137Cs体重1kgあたりの値は、最高値で15.4Bqであった。 5.0Bq/kg
Bw未満の値は、正確な測定可能範囲外であったため、5.0Bq/kg Bwとした。
このグループの摂取後の平均値は11.3±0.6Bq/kgであり、137Cs負荷の減少率で言うと62.6%である。この2つのグループの間に生じた数値差は、統計的に有意である(p<0.01)。』 |
またここでは明示的に記述されてはいないが、この研究のスタート時点の疑問、『子どもたちが放射線に汚染されていない食品を摂取した時にペクチンの経口摂取は有効なのか。
あるいは、アップル・ペクチンは消化管の中の137Csと結合し、腸内吸収を妨げる時のみに有効に働くのか?この場合、ペクチンは、もし放射線汚染のない食品が与えられた場合でも、役に立たないであろう。』にも答えが出たように思われる。
子どもたちは全く放射能のない環境で暮らし、放射能汚染のない食品のみを摂取した。それでも62.6%の減少率を見せた。つまりアップル・ペクチンは腸内で吸収された137Csにも有効に働き、それと結合して体外に排出したと強く、示唆している。
「フクシマ放射能危機」において、長期的にはセシウム137の影響がもっとも深刻だと考えられる。この意味では、日本の政府や大手マスコミは意図的に「セシウム」と表示してセシウム137と134の区別を曖昧にし、セシウム137の長期的影響を過小評価しようという企てがすでに開始されている、といっても差し支えなかろう。
私たちは、これに誤魔化されずにしっかり区別して考える必要がある。Cs137にアップル・ペクチンは有効だった。しかしそれにもまして子どもたちに必要なのは、放射線に汚染されていない環境と飲料水・食品だ、ということを再度確認しておきたい。
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