2010.12.12
第14回 「米軍基地撤去」、できないはずがない!

アメリカ追随のままでは説得力はない

平岡 ・・・「核兵器廃絶」を実現するには、確かに保有国に様々な制約をつけ、そして廃絶へ向けて、国際的なリーダーシップをとっていかなきゃいけないのは確かなんだけども、やっぱり我々としては、日本の政府を廃絶に向けて動かす、そうさせるような努力を我々国民がしていかなきゃいけない。

それが、そうした努力が、同時にまた「平和」な社会を作るプロセスでもある。ただ核兵器廃絶だけして、平和が来るもんじゃないよというのが・・・。

それを言いたいんよねぇ。
哲野 これは間違いないけども、もうちょっと今日の話を踏まえて言えば、「核兵器廃絶」と「平和」、これは「人間の尊厳」が大切にされるって意味での平和ですけど、これが一体の問題だということの意味は、「世界恒久平和」って、世界ってこう、抽象的なことを考えるんじゃなくて、広島という地域社会の「平和と民主主義」を考えたらええやないか、ということですよね。
平岡 我々の足元のね。
哲野 平和で民主主義の世界であることが、逆にですよ、逆説的なるんだけども、「核兵器廃絶」の一つの前提条件になってくるとも言える。
平岡 そうですね。で、そういうヒロシマが発するメッセージは、世界に響くって言う。
哲野 説得力を持つんですね。
平岡 つまり日本が、民主主義を喪失したまま、アメリカに追随している日本が、いくら我々が、世界に向かって核廃絶を言っても、「何を言ってるの?日本は。アメリカの尻にくっついてやってる」、「アメリカの核の傘の下で生きてる」、そういう人間が核兵器廃絶を言ってても、意味ない。説得力を持たない。だから広島市が核兵器廃絶を言う以上は、日本政府に対して、今の政府を「核兵器廃絶の政府」に変えさせなきゃいけない。そういう運動をやっていかなきゃいけない。それは極めて政治的な運動なんです。
哲野 政治運動にならざるを得ない。

保守の金城湯池、広島

 平岡 それは大変難しいことですよ。つまり、保守的な思想の持ち主から何から全部ひっくるめてね、広島がそういうことを言っていくというのは、政治的反発や、圧力もあるだろうし、例えば市のトップだとね、議会の問題もあるだろうし、選挙のこと考えないといかんだろうし。しかし、それでもなおかつ、広島というのはやらなきゃいけない。その覚悟がなければ市長になるな、そんなとことですよ、結局。
哲野 なるほど。
平岡 だから、よその市と違うのはそこなんだ。よその市の市長は、行政で市民の幸せというのを考えたらいい。で、当然、広島市長も市民の幸せを考えるんだけど、一方で核廃絶を言ってるわけですね。核廃絶がないと市民の幸せ、本当の最終的な市民の幸せというのは生まれないんです。

で、今度逆に、そうした市民の幸せを作っていくためには日本の政治体制から変えて行かなきゃいけない。それもやらなきゃいけない。広島の市長は。
 
哲野 まぁ、これは、鋭い政治活動にならざるを得ないですね。
平岡 ええ。それを今まで、日本の平和運動はね、ある意味では政治主義を排してきたんですよ。それは(原水爆禁止運動の)分裂の歴史以後。政治的になるべくならないように。それは、つまり、時の政府と政治的にぶつからないようにしてきたわけ。

広島はねえ・・。ウーン。保守の牙城、金城湯池って言われていたんですよね。
哲野 今でもそうですね。
平岡 ねぇ!金城湯池でしょ?やっぱり、それはおかしいんじゃないか、っていうようなね。別に社民党が言っていること、共産党が言っていることがすべていいとは思わないけれども、少なくとも自民党は言ってきたこと、それ賛成するの?憲法改正してね、再軍備して。それは「核廃絶」と全く違う事よ・・・。

しかし、それをあまりそこを言うなよ、言ったらややこしいことになるから。そこは伏せておいて、とにかく「核兵器廃絶」、「恒久平和」だけ言ってきた。

これ・・・まぁ・・・実害がない。そのかわり、インパクトも無いんですよ。今の政治、政府にとって。広島が何言ったって。「核兵器廃絶?あ、そう。」それで終いなの。で、自分たちの好きなことやってる。

だけど、それじゃ済まない時代が来たなぁ、というのが、やっぱり米軍再編以後ですね。新たな日米同盟と言い出して・・・。

「安保」と向き合わなきゃどうにもならなくなってきた

哲野 いままで再三、「65年かけてここまで来た。」という表現がありましたね?それはどういう意味なんです?平岡さんの実感なんですか?
平岡 イヤ、そんなこと、本当言えば、最初から思ってないと、わかってないといけないんだ!
哲野 そのことに気がつくのに65年かかったという意味ですか?
平岡 ウン。そういう意味ですね。これは僕個人ですよ。もっと早く気付いた人が居るかもわからんけども。あの・・・つまりね、安保の問題と向き合わなきゃ、どうにもならんなという。でもそれは避けてきた、実は。だから「核兵器廃絶」を核の傘の下で言ってきた。で、ようやく私も気が付いて、10年・・10数年前に気が付いて、核の傘から出よう!と言い出したんですよね。それまで入っても言わなかったもん。気が付いてたのかな?みんな。でも問題意識としてはあまり持たなかった。
哲野 93年かな?94年だったかな?平和宣言の中に出てきますね。
平岡 ええ、ええ。そういう考えはそのころから持っていました。核の傘から出ようっていう言葉を使ったのは。(ちょっと考えて)97年でしょう。
哲野 そこで今のお話に関連してお尋ねをするんですが、今年の4月ですね、アメリカのオバマ政権が核態勢見直しを発表した。その中で・・・。  
平岡 あっ!あれはいかん!!あそこでね、ヒロシマが、絶対反応しなきゃいけないんですよ。僕はそう思う。名指しでやったでしょう?
哲野 そう!
 平岡 イランと北朝鮮を。
哲野 そうです。そうです。

 2010年4月、アメリカのオバマ政権は、米政権として3回目(前回は1994年と2001年)の核態勢見直し(Nuclear Posture Review−NPR)を行った。その中で、「アメリカの軍事戦略における核兵器の役割を縮小する」といいながら、核兵器の先制攻撃の権利は留保する、と述べた。またそれは、NPTのルールを遵守しない国に対して行う可能性がある、とも述べた。国務長官のヒラリー・クリントンは、それは、「イラン」と「北朝鮮」であると、国名を名指しして明確にした。「核兵器の役割を縮小する」と言いながら、ブッシュ時代顔負けのあからさまな「核の威嚇政策」である。
(「オバマ政権 2010年 核態勢見直し(Nuclear Posture Review−NPR)国防省(DoD)記者会見」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/obama/obama_25.htm>、
あるいは「“核の威嚇”政策に沈黙を守るヒロシマ・ナガサキ」
(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/zatsukan/008/008.htm>)などを参照の事。
平岡 それは使うってことでしょう?
哲野 使う、少なくとも明白な核兵器を使うという脅しですよ。
平岡 脅し。脅しだけど、「使う」と言う。これは広島はね、いかなる場合も使っちゃいかんと言ったんだから、少なし、抗議せにゃいかんですよ!?本当は。
哲野 これには、広島は黙ってた。
平岡 黙ってた。僕は怒っておるわけや。(憤慨している)あれ、名指しにしてね、脅しですよ、要するに。使うぞって言う。
哲野 威嚇です。で、国際法でも・・・。
平岡 威嚇はいかんとなっている。(笑う)
哲野 威嚇はいけないと言うことになっている。
平岡 これは国際法に違反すると。それは広島が言ってきたことだし、事実国際的な常識になっている。国際社会における。それをやっぱり黙って見逃す・・。やっぱりオバマの手先かなぁという・・。
哲野 私、朝日新聞も中国新聞も、あの時注意して見たんだけども、少なくともそのことに批判的な論調は一つもありませんでしたね。
平岡 ない。ないです。
哲野 これは何を意味しとるんですか?「ヒロシマ」のいう「核兵器廃絶」・・・。
平岡 いや、だから、わからんのですよ、みんな。勉強してない。真剣に考えてない。
哲野 (笑う)(情けなさそうに力なく)・・・ウーン・・。
平岡 と、思うんですよ?善意に解釈して。悪意に解釈すると色々ありますけどね。だけどまあ、おそらくね、(大手メディアの記者連中は)真剣に考えてないですよ。今の状況を・・・ずーっと追及してきてる人もいますけどね。だけどほとんどね、担当したら1年、2年で変わるんですよ。
哲野 被爆者団体から正式な抗議声明が出たとかそういうのは・・・
平岡 出なかったんですか?広島の平和団体・・・。
哲野 えーと・・・。
平岡 出てない?
網野 私の見た中ではなかったですけど・・・
哲野 浅井さんとかは個人的に怒っておられたけども。
平岡 そうですか。アメリカの「核態勢見直し」で一番問題はあそこなんですよ。

アメリカには「前科」がある

哲野 それはどこかで発言されましたですか?
平岡 僕はあちこちで喋ってはいるんだけどねえ。
網野 ほとんど新聞に載らないですね。そういう話は。
平岡 だけど、そういう話は講演会かなんかでやったような気がするな。やっぱり感度が鈍いという・・広島のね・・。つまりマンネリになっちゃってるから。何かあったら抗議するというのは、それはいいんですよ。それは。絶えずそうやってるけど、だんだんそういうのが・・・真剣に怒ってないわけですよ。行事として・・(笑う)なんか、例えば昔なら、核実験やったらすぐ抗議電報打ちますよね。でも、それは惰性というか・・・。
哲野 パブロフの条件反射というか・・・。
平岡 条件反射もある。だけど一番怒らなきゃいけないことを真剣に見てないわけでしょ?ああいうときに。前とどう違うかっていうようなね。ブッシュの時にはああいうこと書いてなかったですよ。
哲野 ブッシュの時には、公式にはですね、アメリカは核兵器使用の権利を留保する、だったですね。
平岡 おお、そうそう!!留保。
哲野 それでも、どこそこへ向かって使うかもしれないとは言ってない。僕もブッシュの時調べたけども、言ってなかったですよ。
 平岡 具体的に国の名前が出たからね?やっぱりそれは、言われた方もかなわんですよ?!ねぇ!!  
哲野 そりゃあ、フランスが言うのと違いますよ!前科あるんですもん!
平岡 もっと開発しよう、いう風になる!!これは!持ってる国からああ言われて・・・。
哲野 アメリカが、使ったことがあるわけだから。
平岡 そうそう!
哲野 使ったことがある国から、
平岡 やるぞ、というようなね・・・。
哲野 威嚇を受けるのと全然違いますよねぇ!使ってない国から脅しをかけられるのとは。
平岡 いやぁ・・・。そういう感度が鈍いんですよ。広島は。例えば、岩国の問題もそうでしょ?
哲野 そ、そう!そうそうそう・・・。
平岡 米軍再編問題に無反応でしょ?昔はいいけど、だんだん問題が先鋭化してきて、ここが問題だということが明らかになってきたときには、やっぱり過敏といっていいくらい、反応しなきゃいけないですよね。広島の場合は特に。核の問題に関してね。

NPT再検討会議に関する評価

哲野 今日、これが最後の質問なんですが、今回のNPT再検討会議の評価をどうされているか、ということでお尋ねしてみたい。
平岡 あんまり勉強していないのだけど、ま、ざっと新聞を見る限り、あんまり成果はなかったんじゃなかと思いますね。この前の前、2000年の再検討会議と。あれから前進していましたか?
哲野 ウーン。
平岡 ボクは不勉強だからよくわからない。どうも・・・。そういう意味では非同盟諸国の声が大きかったですね。前々回に比べて非常に大きな影響力を持ち始めたな、という感じがします。だけど具体的な成果ということになると・・・。
哲野 具体的な成果で言えば、中東非核兵器地帯が具体的に現実味を帯びてきた、たとえば、2012年には会議を開催する、その為のファシリテーターも決める、と、ぐらいが具体的な成果でしょうか?それよりもここでイラン代表が指摘しているように、「大事な成果は提案から抜き取られてしまった。でもイラン代表は、あえてこの最終文書に賛成した。それはみんながこれを纏めようという熱意に賛同するからだ。」なんとしてでも最終文書を纏めたいという気持ちが伝わってくる感じがする。これが一つあるかな、という感じがします。私なんかの評価としては、アメリカ主導ではなくて初めて非同盟諸国全体、いわば非核兵器保有国が主導した、再検討会議だったという感じがします。
平岡 私も、非同盟諸国の役割は大きかったという気がします。そしてアメリカの思うとおりにならなかったということですね。
哲野 そういうことですね。これが一番大きかった・・・。
平岡 ウン。そうだ、大体予想していたのは、アメリカは恐らくね、核燃料のところまで行ってね、一手に握ろうとしていたんじゃないか、こういうことをボクは予想していた。それが出来なかった。それはこっちがそう思っていただけで、アメリカがそう考えていたかどうかはボクはわからないけれど。ただ私の予想では多分、核兵器の拡散というより、とにかく核燃料をコントロールしたい・・・。
哲野 平和利用の部分ですね?
 平岡 ウン。これを一手に握って、みなさんいらっしゃい、と、これを考えていたんじゃないかと思うわけ。
哲野 核テロ対策を口実にですね?
平岡 ああ、そうそう、口実に。そこへ踏み込めなかったと言う点が大きいね。

 これは平岡の当て推量というわけではない。NPT開始のわずか1ヶ月前、アメリカ・オバマ政権は2010年NPT再検討会議に対して相当な自信を示していた。たとえば、2010年4月6日、核態勢見直しに関する国防省記者会見時には、国防省首席国防副次官(政策担当)ジム・ミラー(Jim Miller)は、『本日もっとも優先順位が高く、また強調したい最初の話題は、核テロリズムの防止であり、核拡散です。NPRはこの体制(核不拡散体制)を強化し、IAEAのセーフガードを強力にする国際的取り組みを主導するに当たっていくつかの追加的な段階を設置しています。そして条約遵守の強制を期待していますので、5月のNPT再検討会議は、このプロセスにおいては、決定的な次の段階となるでしょう。』と述べ、同じく4月に開催されたオバマ政権主導の「国際核テロ保安会議」の総仕上げが、5月のNPT再検討会議、という位置づけだったに違いない。この時点では、アメリカ・オバマ政権は、非同盟運動諸国の緊密な連携と多数派形成工作を相当甘く見ていたのだろうと思う。ところが、5月のNPTが近づくにつれ、非同盟運動諸国の結束をオバマ政権も認識し始め、危機感を強めていく。そしてNPT開始直前になると、「再検討会議では最終合意に至らなくも、イランを国際社会から孤立させることができれば、アメリカにとって成功」(NPT直前の国務省次官補クローリーの記者会見)というまでになっていく。ところが、イランはすでにトルコ、ブラジル、インドネシア、エジプトなど主要非同盟運動諸国と緊密な連絡をとっており、アメリカにとって「イランの孤立化」どころか「中東非核兵器地帯の実効化」と核兵器廃絶期限設定を迫る非同盟諸国に対して、これを骨抜きにすることで精一杯の再検討会議だった、ということが今振り返ってみて、指摘できる。
哲野 踏み込めないどころか防戦一方だった・・・。非同盟運動諸国がアメリカを中心とする核兵器保有国を包囲し始めたという気がするんですが。
平岡 ああ、なるほどね。
哲野 実際、非同盟諸国の提案は次から次へと反古にされていくわけですが、最後の最後妥協できない一点として登場してきたのが「中東非核兵器地帯」だった、と思うんですよ。で、アメリカはこれにノーといえなかった。ノーと言えなかったことを象徴するのが、そこ(国連広報部資料)にも出ていますが、5月の28日に合意しておいて、即日アメリカは、自分が(最終文書に)賛成した直後にですよ、「イスラエルの名前を書き込んだことを後悔している。」と声明するんですよ。私は素人ですから、こんなことがあるんかいな、と思って浅井先生に聞いてみた、メールで。国際的に合意した直後に、その合意の一部を「後悔している」なんていう声明を出すことがあるんかいな・・・。そういうことがあるんですか?と。浅井先生の返事は「あんまりそんな慣行をないと思うけれど、いかに今回アメリカが自分の意に反してこれに(中東非核兵器地帯に)賛成せざるを得なかったかということを象徴している」という分析でしたね。
平岡 うん、そうだったね、イスラエルの名前が入ったばかりに、アメリカはやりにくくなった、見たいな言い方だった。

非同盟諸国の発言力が強くなってアメリカの思うとおりにいかなくなった、という印象は強く持ったね。ただそれが成果といえるのかどうかはわからんね。

本当は日本政府が、そうしたイニシアティブをとるべきなんだけどね・・・。

「核テロリズム」の問題

哲野 それから私お尋ねしておきたいのは、「今ではテロリストが核兵器を持つ」という観点。しかし5月のNPT再検討会議での、みんなの議論を読んでみると、テロリストの危険というのはほとんど問題になってないんですよ。アメリカが大騒ぎするほど・・・。

5月のNPT再検討会議の後、参加各国が出した声明の中で核テロリズムの問題に触れた国が1カ国ある。それはカンボジアだ。カンボジアは『(最終文書の)カンボジアは行動36、44及び45は明確に、テロリズムの助けを借りる勢力に相対する諸国の責任を設定している。』と述べ、核テロリズム対策を最終文書が設定していることを評価した。その他の国は、アメリカを含め、最終文書が出た後、核テロに触れた国は一つもなかった。
(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/NPT/2010_06.htm>などを参照の事。)

テロリズム一般論になるが、個人やグループが、自分たちの思いや思想、政治目的を貫くために、それに関係しない一般市民、子供、女性を含む一般市民を無差別に殺傷することを「テロリズム」と定義すれば、歴史学者の荒井信一がいうように、第二次世界大戦中の戦略爆撃、その頂点を極める原爆攻撃は「テロ行為」そのものだし、今イラク、アフガニスタンで行われていることも、「テロ行為」そのものということになる。ブッシュは「テロに対する戦争」を呼号し、オバマも「核テロ」の危険を指摘し続けているが、「テロリズム」そのものを定義したことは一度もない。これを厳密に定義すると、「テロ行為」への非難がそのまま自分に跳ね返って来るからだと思う。従って、その行為が「テロリズム」であるかないかを決定するのは、我々アメリカだ、という反政治科学的な態度をとり続けている。この点を国連社会では問題にし、たとえば第63回国連総会議長のミゲル・デスコト・ブロックマンは、「どの国であれ、ある国がテロ支援国家であるかないかを判定する権限はない。」というアメリカへの批判となって表出している。
平岡 それはアメリカの・・・。核テロリズムの問題を持ち出す必要はないんですよ。核兵器が現に存在してるんですからね。核実験もやってるし、劣化ウラン弾も使ってるし、そういう被害が出てるわけだから、まだ出てない被害について触れる必要はないわけでね。
哲野 NPTの最終文書でも、前文的なところで、核兵器が今存在していること自体が、今人類に危険さらしている、と述べている。これが現実ですからね。
平岡 そうそう。テロリストが使おうが、誰が使おうがね。核兵器を持ってるのは保有国だから。
哲野 現在核兵器が何千発もあって、しかもそれが実戦配備されている、こういう現実が危険なわけで脅威なわけだから。
平岡 まだテロリストは持ってないんだから。(笑う)
哲野 まだ持ってない。
平岡 仮にその話があるとしてもね、やっぱり今持ってる国の使用を禁止する、あるいは廃棄させるということが非常に重要な事でね。核兵器がいかに人類にとって不必要なものか、「人間の尊厳」を阻害するものかということだね。
哲野 ・・・やっぱりそうですよね。いや、私、日本の大手マスコミがあまり核テロの危険をいうもんだから・・・。

原発ビジネスとNPT体制

平岡 いや、僕はもう一つ心配なのは、インドに対する「原子力技術供与」ですよ。前にも触れたけど。(米印原子力協定。)これ、日本も乗っていこうとしているでしょ?

今度は中国とパキスタンよね、同じ事やりだすのは。(中パ原子力協定)

そうすると、NPT体制、崩壊したな、と思いますね、あの体制は。

NPT体制とは、要するに米・ロ・仏・英・中の5カ国だけを核兵器保有国と認め、その他の諸国は核兵器を持たないと取り決めた一種の不平等、核兵器独占体制。そのかわり、加盟非核兵器保有国は、原子力の平和利用の権利を平等に有し、核兵器保有国を始めとする核先進国はこれを、積極的に技術供与を含め支援して行こうという合意が前提になっている。当然、NPTに非加盟の諸国は、この権利−「平等な原子力平和利用の権利」を持たない。ところが、どんな理屈を立てようが、インドもパキスタンもNPTの枠外の核兵器保有国だ。そのインドもパキスタンも、技術供与・原子力協力を得られるとなれば、現在のNPT体制の中の非核兵器保有国の不満は大きくなる。わかりやすく言えば、アメリカを始めとする核兵器保有国の「やらずぶったくり」という事になる。

自ら、アメリカは破って、2007年に米印原子力協定を結んだでしょ。要するに経済の論理が先行しちゃったんですよ。「原発ビジネス」だよね。

そうするとNPTを目指していた完全核軍縮なり、その中で芽生えてきた核兵器禁止条約、こういうものを全部押しつぶしてしまう可能性があるなと思っている。

アメリカは、いわゆる軍産複合体、あるいは産業界の要請、これに全部流されてる。そうでしょ?それに日本も追随していく。中国もパキスタンに技術供与する。(ロシアもフランスもイギリスも)全部これやったら、NPT体制はパァだな。

やっぱり、それに(NPT体制に)代わるべき、本当の、不平等でない、平等なそういう組織をね、日本も提示しなきゃいけないね、本当は。

だけど日本もついにアメリカの驥尾に追随して、原発を売り込もうということになってるからね、もう大方。
哲野 国際エネルギー機関(IEA)が、2004年に出した予測では、世界の人口はこう伸びるよ、と。人口は伸びるし、生活水準も上げて行かないといけないので、それに対するエネルギーを賄うためには、2050年までにあと1500基の原子力発電所が必要になるという報告を出したですね。

で、去年ですが、韓国の受注グループが、UAE(アラブ首長国連邦)から、新たな原発の受注をした。あの時は4基で初期コストが2兆ドル。それから20年間に亘ってこれからいろいろ面倒を見て行かないといけないから、これが2兆ドル。すると4基で合計4兆ドル。1基あたりちょうど1兆ドル、ってことですよね。

これがIEAの予測通りだと、1500基、単純にかけ算すると1500兆ドルの新規市場ということになる・・・。
平岡 なるほど。
哲野 つまり1500兆ドルのマーケット。(苦笑)これは・・・。IEAの予測は、狸の皮算用としても凄い。なにしろ09年のアメリカのGDPはオバマ政権ホワイトハウス運営予算局の出した数字で14.2兆ドルですから。

国際エネルギー機関(International Energy Agency)というと、何か国際原子力機関(IAEA)のような国連の関連機関のような錯覚を起こしそうだが、これは一種の先進国クラブ。加盟資格はOECD加盟国に限定されている。現在27カ国が加盟。日本語Wikipedia<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9
A%9B%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE
%E3%83%BC%E6%A9%9F%E9%96%A2>
によると、『1973-74年の第1次石油危機を契機にアメリカのキッシンジャー米国務長官の提唱のもと、加盟国の石油供給危機回避―安定したエネルギー需給構造を確立すること―を目的に設立された。』という。加盟国の多くはまた原子力供給国グループとダブっており、従って先ほどの「2050年までに1500基の原子力発電所が必要」という予測も、原子力先進国の「営業努力目標」みたいなものと考えておけば、大筋外れていない。

 またアメリカのGDPについては、「アメリカ連邦政府総負債の推移とGDP比率 2010年2月」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/07.htm>を参照の事。
平岡 うん。それへね、皆、乗っていくということは、核兵器禁止なんて吹っ飛んじゃうね、これは。その恐れが非常にある・・。それは非常に危ない動きだなって気がしてね。日本もそれに乗ろうとしてますからね。これは日本の産業界の要請で。
哲野 乗ろうとしているどころか、1Pの広告が朝日新聞に出てましたよ。「脱炭素社会」の広告で、よくよく読んでみると、それは原発を推進せんにゃいかんという話になってます。
平岡 なるほど。そりゃ非常に悩ましいけど。エネルギーの問題でね、僕は、実はその、原発反対なんですね。原発が今いかんと言うのは、プルトニウムを出すからだ。プルトニウムを出さない、そういう方式があるんだ。なぜそれを採用しないかというのをね、今一生懸命、実はあちこちで書いたの。僕は。全然反響はないし、バカにされて。
哲野 バカにされた?
 平岡 (笑いながら)馬鹿にされた。専門家から。しかし専門家で言っている人も居るんですよ。明らかに。つまり今のウラン、プルトニウム方式、これは今全部、世界がずーっとそうなってますが、これ、駄目なんだ。そうかといってエネルギーが要るんだったら別な新しい原発方式っていうのが、これが「ナトリウム溶融塩炉」というんですがね。
哲野 あの京都大学の・・・。
平岡 そう、京都大学でやってる。それから東京電力の副社長の人もね、これはやるべきだと。それはやっぱり、路線の転換ですからね、今までの投資が全部パァになる。だけど僕は核戦争をやるよりはいいと思う。これに金をかける方が。エネルギーが要るとすればですよ。エネルギーを使うんなら、安全なエネルギーをね。例えば太陽光だとか風力とかいうこともあるけれども、これで充分まかなえないとすれば、原発もしょうがないな・・・ただ今の方式はいかん。
哲野 アメリカが言う事も一理あるのであって、大昔マンハッタン計画までさかのぼってみると、マンハッタン計画を含めたエネルギー政策をルーズベルト政権が採用したもともとの考え方は、原子力エネルギー政策をこれから推進していこうということだった。そういう原子力エネルギー政策の中で軍事的応用としてマンハッタン計画があった、という位置付け。じゃあ、なんでマンハッタン計画の軍事理由を始めたかというと、理由は二つある。ひとつは戦争中だった。だけどそれだけが理由じゃなくて、原子力エネルギーの平和利用よりも、軍事利用のほうが技術的には易しいんですね。
平岡 易しい、そうでしょうね。
哲野 平和利用は、今度は核の連鎖反応を制御していかなきゃいけない。(笑う)
平岡 そう!そうそう・・・
哲野 いわゆる制御技術がその上に加わるから。ということはですよ。原子力発電の技術が、世界中に拡がっていくということはですね、やろうと思えば、軍事転用が技術的に可能な国が増えて行く、これは確かに言えるわけですね。
平岡 悩ましいのは、科学技術の発展をね、進歩っていうか、そういうものを全部否定、全否定するかどうかよね。僕はどうも全否定しきれないんですよ。人類は、そういった科学技術を使ってこれまでずっと発展してきた。それは人間の幸せのために、まだまだね、科学技術というものは使われる可能性があると。それをたまたま、今は、原爆というような核兵器だの、ああいう形で、悪いけれども。しかし、それを全部否定してしまうとね、進歩がないんじゃないかと、いうような思いをね、ちょっと持っている。

非核兵器地帯と「核兵器廃絶」の道筋

哲野 話が元に戻りますが、核兵器廃絶の道筋はどんな風になっていくだろうか?どういう風にお考えか?という質問。つまり、核兵器廃絶ってのは一つの政治的アクションだとすればですね、そこには政策というものがあり、政策に対する賛成・反対の意思表示があって、そういう政治的な手続きの中で、核兵器廃絶というのは行われていくと思うんです。その核兵器廃絶の道筋というものは、どういう風にお考えなのか?
平岡 日本の場合でしょ?
哲野 世界全体。いや正確に質問すると、日本を含めた世界の道筋です。日本の場合っていうのは、結局そういう問題を考えてみた時に、世界的にはこうなんだ、その時に日本の位置づけはこうなんだ、だから日本はこんなことができるんだ、あるいは「ヒロシマ・ナガサキ」は何が出来るだろうか?という話になっていくんじゃないかと思ってお尋ねをしてるんですけれども・・・。
平岡 核の脅威から、我々が逃れるためには、核兵器をなくさなきゃいけない、ゼロにする。すぐにっていうことが出来ない以上、例えば「東アジア非核兵器地帯」を作っていこう、という考え方は、私は一つの道筋だと思う。

・・・これは決して非現実的なことじゃなくて、南半球はだいたい全部出来てます。南極があって・・。北半球では中央アジアと東南アジアがちょっとあるね。東南アジアの非核兵器地帯。

   南半球は、南極条約(発効1961年。以下同じ)、「ラテンアメリカ及びカリブ海における核兵器禁止に関する条約」(1968年)、「南太平洋非核地帯条約」(1986年)、「東南アジア非核兵器地帯条約」(1997年)、「アフリカ非核兵器地帯条約」(2009年)が成立しており、ほとんど全部の南半球の主権国家が参加しているといって過言ではない。

北半球だったら、中央アジア(非核兵器地帯)ね、カザフスタンを中心とした・・・。それと、「モンゴル非核兵器地位」というね、これは1国だけど、国際社会、国連が認めた存在。

   「中央アジア非核兵器地帯」は2009年発効、「モンゴル非核兵器地位」は1998年発効。以上たとえば「非核兵器地帯成立の流れ」(<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/
Nuclear_Weapon_Free_Zone/nagare.htm
>)などを参照の事。

今度は、東アジアに作ろうということですが、やっぱりこれを作るための条件が色々あると思うんですよね。中でも最大の条件は、朝鮮半島と日本に絶対に核兵器が存在しないという条件ですね。だから、世界的な核兵器廃絶の道筋の一つとして、まず朝鮮半島と日本を「非核地帯」にして、その条件を作りだそうということになる。

次に、朝鮮半島と日本とどちらが先かということになると、やはり日本でしょう。そうしないと北朝鮮の核兵器の問題は解決しない。

日本から核兵器をなくすためには、まずアメリカの軛(くびき)から脱しなきゃいけない。そのためには、まず日本から米軍基地を撤去させる。ま、「日米安保」否定ということになりますね。

そして朝鮮半島と日本に対して消極的安全保証を宣言させる。

  消極的安全保証(negative security assurance)。一般論でいえば核兵器保有国が非核兵器保有国に対して核攻撃しないと約束すること。核兵器不拡散条約に即して言えば、1995年の再検討会議で核兵器不拡散条約(NPT)の無期限延長を決めた際、米・ロ・英・仏の4カ国は、一定の条件付きでNPT加盟の非核兵器保有国に対して、一方的に消極的安全保障を与えた。また中国は同様に、無条件で消極的安全保障を与えた。だから原則、NPT加盟の核兵器保有国は、NPT加盟の非核兵器保有国を核攻撃することができない。しかし、考えても見て欲しい。NPTは、もともと、ひとつの条約体系の中に核兵器保有国と非核兵器保有国が同居する、いってしまえば不平等条約だ。その体系の中で、核兵器保有国が、非核兵器保有国を核攻撃することがあります、では全然スジが通らない。ならば、「わが国はNPTから出て自前で核武装します」、という話になる。現実にインドやパキスタンはこの理屈で最初からNPTに加盟していないし、北朝鮮が脱退したのもこの理屈だ。だから、核兵器保有国がNPT加盟の非核兵器保有国に無条件で消極的安全保証を与えるのは当然すぎるほど当然なことなのだ。一般市民社会の常識から言えばそうなる。ところが、アメリカをはじめとする核兵器保有国の理屈はそうならない。すなわち、1995年に行った消極的安全保証宣言にいろんな理屈をつけて、核攻撃の権利を留保します、と再三明言している(アメリカやフランス)し、甚だしきはオバマ政権の2010年「核態勢見直し」で、NPTから脱退している北朝鮮はともかく、現に加盟国のイランに対して、名指しで「核攻撃する可能性がある」と言明するに至っては、もう無茶苦茶である。平岡が怒るのも無理はない。(中国だけは一貫して、中国から非核兵器保有国に対して核攻撃することはない、と言い続けている。)

  だから、ここで平岡がいっていることは、朝鮮半島と日本を非核化するに際して、もう一度、あるいは何度でも「消極的安全保障」を約束させようということだ。

なんだけども、中国とロシア、カナダまで入れるかどうか別として、アメリカ、この3つの国に認めさせる。それによって北朝鮮の核がなくなる。

日本も核をなくさないといけないから、米軍基地を撤去する。大変難しいけど・・・。

それと核兵器禁止条約、あるいは、その前に先制攻撃禁止条約のイニシアティブを日本が取る・・・そういうステップの積み重ねでしか、実際には、(核兵器廃絶は)具体的にはいかんだろうと言う気がするね。だから当面の目標はやっぱり「東アジア非核兵器地帯創設」だろうという気がするんですよ。

朝鮮半島に緊張状態を作っておきたい

哲野 核兵器廃絶のひとつの道筋として、非核兵器地帯というのは一つの有効なツールであり、一つのステップになり得るとお考えですか?
平岡 ウン。そのためには、日本にとって邪魔になってくるのは日米安保だ。日米安保がなくなれば、北朝鮮は核を持っている理由があまりなくなってくる。もう一つは北朝鮮とアメリカが平和条約を結ばなきゃいけないんです。今は(朝鮮戦争の)休戦協定ですね。ところがアメリカは結びたくない。あそこへ緊張状態を作っておきたい。
哲野 その通りですね。

   このことに関連して私たちは、今なお「国連軍地位協定」が存在していることを知っておく必要がある。『「国連軍」地位協定とは、一言で云えば、第二次世界大戦以後の大きな戦争である朝鮮戦争に参戦した国連加盟国の軍隊の日本における地位を規定した協定である。つまり実際の戦争に参戦している軍隊が、日本に駐留できることを日本政府が認めた協定である。このような内容の協定は他に存在しない。しかも、現在朝鮮戦争は休戦状態にあり、戦争が再開されるようなことがあれば、「国連軍」という軍隊は、この協定に基づき日本に駐留して、その地位を保障され、日本から朝鮮に出動できるのである。』(笹本征男論文「朝鮮戦争と“国連軍”地位協定」 大沼久男編「朝鮮戦争と日本」−新幹社 2006年10月 第1刷−所収。123-124p)

国連軍地位協定(日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定)そのものは、東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室のサイト(今やネットの定番サイト)で全文読むことができる。(<http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/
documents/texts/JPUS/19540219.T1J.html
>)内容は日米地位協定とほぼ同じだ。

また日本語Wikipedia「国連軍」(<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%
BD%E9%80%A3%E8%BB%8D
>)は、『在日米軍基地のうち、次の7カ所が協定に基づく国連軍施設に指定されている。「キャンプ座間」「横田飛行場」「横須賀海軍施設」「佐世保海軍施設」「嘉手納飛行場」「普天間飛行場」「ホワイト・ビーチ地区」。

現在も、必要に応じて国連軍参加各国が国連軍基地を使用している。国会答弁等から分かる使用実績は次の通り。(1997-1999年)艦船7隻、航空機23機が寄港・飛来、(2000-2002年)艦船寄港21回、航空機着陸10回を記録、(2006年,2009年)北朝鮮の核実験に際して、大気観測を行う英軍機VC10が国連軍地位協定を活用して嘉手納空港を補給等のために使用、(2007年)嘉手納で米豪共同訓練を実施』としている。朝鮮半島の人たち同様、私たち日本の市民にとっても朝鮮戦争は決して終わっているわけではない。
平岡 緊張を作っておけば(米軍)基地を保有する理由があるわけですよ。
哲野 大義名分が出来るわけですね。実際にはイラク、アフガニスタン、ペルシャ湾、インド洋へ行っていても。
 平岡 実際になんかあったらね・・・。韓国の哨戒艇が沈没したとかね、嘘かホントかわかりませんよ、これは。沈没したのは事実だけども。ヤラセかもわからんし。僕らもトンキン湾事件だとか。イラクも・・・騙されたの知ってるからね!(笑う)

   トンキン湾事件(Gulf of Tonkin Incident)。1964年8月、北ベトナムのトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとされる事件。これをきっかけにアメリカは本格的にベトナム戦争に介入、北爆を開始した。アメリカ議会は上院で88対2、下院で416対0、大統領(当時リンデン・ジョンソン)支持を決議をした。しかし、1971年6月ニューヨーク・タイムズのニール・シーハン記者が、報告書『ベトナムにおける政策決定の歴史、1945年-1968年』こと“ペンタゴン・ペーパーズ”を入手、トンキン湾事件はアメリカが仕組んだものだったことを暴露した。
(以上日本語Wikipedia<http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%
83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E6%B9%B
E%E4%BA%8B%E4%BB%B6>
)ニール・シーハンの『輝ける嘘』上・下(集英社 1992年)を読むと、トンキン湾事件だけでなく、アメリカのベトナム戦争そのものが一つの大きな虚構に沿って展開されたことがわかる。そのやり方は、ブッシュ政権のアフガニスタン侵攻、イラク侵攻と全く同じパターンだったこともわかる。
哲野 (笑いながら)ええもう! 何回も騙されている。
平岡 従って、(北朝鮮による韓国哨戒艇撃沈説も)あんまり信用できんなぁ。しかも、あの調査団が、あれは「国連軍」なんですよ。「国際的調査団」とか称しているが、要するに「国連軍」の、つまり朝鮮戦争に参加していたイギリスとカナダとアメリカか。それが「調査団」の主要メンバーでしょ?北朝鮮がそれに入ろうとしたら断ったでしょ?で、やっぱりちょっとおかしいなって気がするんですね。ヤラセがあるかもわからん。しかし、あれは実際北朝鮮の仕業だと、こないだの国連でもはっきり言ってないわけですよ。あれは。
哲野 イヤ、言ってないどころか。結局国連安全保障理事会制裁決議になるのかなと思ったら、理事会議長声明でしょ?しかも、その議長声明で北朝鮮を名指ししてるのかというと。
平岡 してない、してない。
哲野 してないわけでしょ?
平岡 責任は曖昧になってるわけ。国際的にあれが認知されたわけじゃあない。あの事件が北朝鮮の仕業であるということを。
哲野 逆に、流れから言えば、国連社会は、北朝鮮の仕業じゃないと、どうも皆、見ているようだという感じの方が強いですね。

 当時の日本政府外務大臣岡田克也の「外務大臣声明」。

『平成22年7月9日:
9日(金曜日)午前(ニューヨーク時間,日本時間9日深夜)、国連安全保障理事会が、韓国哨戒艇沈没事件に関する議長声明を発出したことを歓迎します。

今回発出された議長声明は,天安号の沈没は北朝鮮に責任があるとの結論を出した合同調査団の調査結果に鑑み、安保理として深い懸念を表明し,この沈没をもたらした攻撃を非難するとともに,更なるそのような攻撃又は敵対行為防止の重要性を強調しています。このように、議長声明は北朝鮮の攻撃に対する国際社会としての明確なメッセージとなっています。

我が国としては、韓国哨戒艦に対する北朝鮮による攻撃は地域・国際の平和と安定の観点から許されない行為であり、韓国を強く支持するとの立場から、安保理として明確なメッセージを発出すべく,あらゆるレベルで外交努力を重ねてきました。

我が国としては、北朝鮮がこの国際社会の一致したメッセージを真剣に受け止め、更に情勢を悪化させるような行為を取らないよう強く求め、引き続き韓国及び米国をはじめとする関係各国と緊密に連携していく考えです。』
(<http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/22/dok_100709.html>)

この文章のトリックは、第2パラグラフにある。安保理の議長声明は、「犯人は北朝鮮である」と名指ししていない。一般論としてこうした「攻撃」を非難しただけだ。別な言い方をすると、「合同調査団」の結論を受け入れなかったことになる。そこをこの文章は『このように、議長声明は北朝鮮の攻撃に対する国際社会としての明確なメッセージとなっています。』と強引に「議長が北朝鮮を非難した」と受け取れるように結びつけ、そのまま第3パラグラフへなだれ込んでいく。どうせ外務省の木っ端役人が書いた文章だろうが、こんな稚拙な論点すり替え文章ばかり書いていると、外務省の信用を落とすだけだ。岡田も自らへの信頼と権威を傷つけるばかりでなく、日本の外務省の国際的権威を落とすだけだ、ということに気がついていない。たとえば、私は、この声明以来、岡田という政治家を全く信用しなくなった。
平岡 うーん、良くわからんけれども。今まで騙された経験から言えばね、なんかあると感じるね。例えば、あの時大きな問題として、「普天間」の問題がある。国務長官のヒラリー・クリントンが東京へ飛んできましたね。翌日、鳩山が沖縄に行ってるんですよ。(県内移設に)方針転換しているという・・・。
哲野 あの時クリントンは・・・。
平岡 3時間くらいおったんかな?
哲野 主たる目的は北京に行く。そして財務長官のガイトナーと落ち合って、中国側と大規模な経済会議を行う、というその途中で東京に寄ったんですね。給油時間が4時間だから4時間滞在した。
平岡 で、普天間のことで何か脅したんだろうと思うんよね。脅したに違いない。あのクリントンてのは悪い、よく脅す人だから。

だけどまぁ、結局、日米安保の問題へ行き着く・・・日本では、ですよ。

これがある限り、アジアの緊張は解けないな。それがあるから中国だっておそらく重武装というか、一時代古いんだけどね、彼らの考え方も。やっぱり武装を重視するというか、そういう状況になってくると思う。その原因は日本が仮に世界平和を目指すんだったら、まず日本からそういう緊張関係を解いていくという、努力をしていく、そういう外交努力を全然やってないから、今まで。だから外交力が無いわけですよね。外交力は北朝鮮の方がよっぽどあるわけで。
哲野 外交努力がある、ないと言っても、北朝鮮が言うように第52番目の州でしたっけ?北朝鮮の悪口は。日本への。
平岡 51番目だな。
哲野 51番目。これは外交問題については事実ですから。

非核兵器地帯の機能と働き

哲野 あの、話をちょっと元に戻しますけれども、戻すと言うか、逆行しますけれども。先ほどの非核兵器地帯の話。これは核兵器廃絶の一つのステップになり得るんだというお話があったと思います。ただ、外務省の一部の関係者の見方は、ちょっと異なった見方をする人も・・色んな論文を読むといるようで、非核兵器地帯はNPTで定める核兵器不拡散体制の補完的な役割をしているんだ、それ以上を期待すべきではない、これは日本の外務省関係の研究者や学者の論文はそういう論調でどうも統一されてる、この論理に従えば、「非核兵器地帯」というのは、「核兵器廃絶へのステップ」ではなくて、核兵器保有国の核独占体制を補完する役割を担っているだけだ、という議論ですね、この議論についてはどうお考えですか?
平岡 うん。一理あるね。だから、その議論は「核兵器の存在」を前提としているわけよ。それを前提としたら、そういう効力(核兵器廃絶に向けての効果)は持ち得ないかもわからんけど、実は、「非核地帯」を作ることによって、逆に核兵器の不要というか、存在自体を否定してくという論理だって組み立てられるわけだからね。
哲野 今のお話は、フィリピンの学者の議論を思い出させますね。マニラ大学のロジャー・ポサダスという人が70年代に出してる議論ですね、今おっしゃった話。

ロジャー・ポサダスによれば、ロジャー・ポサダスは東南アジア非核兵器地帯を作るときのブレーンの一人だったんですが、彼はこんなことを言っている。非核兵器地帯を作って、核兵器国と非核兵器国との間に緩衝地帯、分断地帯を作って彼らを分断させてゆき、その分断をだんだん、だんだん大きくしていけば、核兵器の実戦配備の意味はだんだん小さくなる。東南アジア市民が狙っているのはそこなんだ。

   『太平洋の非核化構想』(岩波新書 1990年12月)所収「沿岸国の責任と役割」の中のポサダス論文「フィリピンの役割」(40p−50p)を参照の事

現実問題、東南アジア非核兵器地帯の特徴的なところは、いわゆる非核兵器地帯の領域を定義するときに、なんと彼らは200海里ゾーンまで含めちゃった、200海里ゾーンで足りなければ大陸棚、大陸棚・200海里ゾーンで広い方を全部領域に含めちゃった。

そうすると南沙列島なんて全部入っちゃうわけですよね。つまり、フィリピン、インドネシア、ベトナム沖なんかの間の公海は、全部「東南アジア非核兵器地帯」になってしまう。そういうことでバンコク条約を発足させたので、いまだにNPTが認める核兵器国5か国はどこも、いわゆるネガティブ・アシュアランス、消極的安全保証を与えていない。
平岡 そりゃ、私に言わせれば、すべて核兵器保有国のエゴだから。そりゃやっぱり打ち破っていかないといけないんで。(核兵器保有国に)認められないからと言って、これに価値がないと言うわけにはいかない。私は、この「非核兵器地帯」を作るということは価値があると思うね。それは、そういうものがずっと出来て行くと、核を持っている国がそれを無視して、じゃあ何かできるかというと、出来ないよ。そういう国際環境が今ありますからね。
哲野 ねえ!!承認してないからと言って堂々と200海里ゾーンに核兵器を積んだ艦船を、そんな挑発的な事を・・・。
平岡 やっぱり、これはなかなか出来ないでしょ、おおっぴらには。だからそういう国際環境を前提として、本当に日本は核を持たないと、普通非核三原則の法則化と言ってるけれども、もうちょっと、一歩進んだ法律を作っていいんじゃないかな。
哲野 例えばフィリピンのように憲法の中に書き込んでしまうとか。
平岡 そうそうそう。まぁ、だいたい日本はもうあるんですよ。憲法9条で。武装しないってことになってますから。武力で解決しない。その中に配備も含まれているわけです。威嚇。武力による威嚇も憲法には書いてある。という事は、これは憲法を変えなくたって、本当にそれを忠実に守れば、当然基地だって持てないし、軍事力も持てない。

ただ、今の状況の中では、自衛隊は置いてもいいじゃないかという人がいますよね。その代り専守防衛の、アメリカの下請けでない、日本の国土を守る自衛隊、或いは国連に参加するような警察、むしろ警察隊か。そういうものなら置いてもよろしい、という議論ね。

今の自衛隊というのは、アメリカの下請けになってるから、米軍再編以前からね。日本政府の総理大臣の指揮下にあるといっても、総理大臣の命令で動かない。アメリカの命令で動くというような状況になってますから、そこのところをキチッと、本当に、日本が独立国家になって、憲法だってきちっと守っていくということになれば、あえて法制化しなくてもいいような気がするんですけどね。

ただ、今は憲法よりも日米安保条約が上に、上位概念としてあるから、憲法は無視されてますけどね。憲法に忠実にいくなら全ての交戦権の放棄を謳うわけですから、当然その中に核兵器が含まれている。

しかも、国際間の紛争の解決は武力に依らないと、言ってるわけでしょ?宣言してるわけです。日本はね。戦争しないと。そうするとやっぱり外交でしかない。その外交が今アメリカの掌の上でしか出来ないから。日本独自の発想で展開できない・・また、そういう人材も居ない。残念ながらね。そりゃあしょうがないですね。65年間、ああいう体制の中にいたら、みんなその通りに(対米従属体質、という意味か)育っちゃって。

   日本国憲法 第九条 

『【戦争の放棄】 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。』(<http://kenpo-9.net/constitution/>あるいは<http://www.jicl.jp/kenpou_all/kenpou.html>)
哲野 そういう、独自外交の出来るような人材・・・まぁ人材こそ、流れの積み上げの中で育っていくものですからねぇ。
 平岡 そうそう!積み上げですからねぇ!だからそういう専門家がなかなか出来ないという・・・。そりゃ残念なことですがね。それがアメリカの占領政策の狙いだった。

憲法第九条より日米安保が上位にある日本の病巣

哲野 今、スラッと意外と重要な事を言われたんですが、日本国憲法よりも、日米安保条約が上位にあるとおっしゃった。これは何を根拠にそう言うのかという話ではなくて、その認識が日本人の中に共有されてないということも事実ですよね。
平岡 だから具体的に考えればいいわけですよ。例の「日米地位協定」の問題。日米合同委員会っていうのがあるんですよ。

日米合同委員会。1960年新日米安全保障条約が発効した時、その第6条が『日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。』という一文。(<http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html>)結局の一文の『アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。』に基づいて、アメリカ軍が日本に軍事基地展開をする法的根拠が与えられているわけだが、これでは具体的でない。そこでこの第6条に基づいて「日米地位協定」ができあがる。日米地位協定は一瞥するとわかるように(<http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/index.html>)、前文と末文を含めると30本の約束事からなる一種の不平等協定だ。この協定の解釈や実施を具体的に決定するために1960年に日米合同委員会が設けられた。日本側の代表は外務省北米局長。アメリカ側の代表は「在日米軍司令部副司令官」(日米合同委員会の組織図は次のサイト。<http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/pdfs/soshikizu.pdf>)「日米地位協定各条に関する日米合同委員会合意」は、次のサイトで読める。<http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/kyoutei/index_02.html

この合意を見ても、アメリカ軍は日米合同委員会を通じて、外務省を支配・指示し、その外務省は日本政府を支配・指示するという二重・三重の権力構造になっていることがわかる。しかも、日米地位協定そのものは、単なる行政協定にすぎないから、その内容について日本の国会やアメリカの議会の審議を必要としない。また日米合同委員会の合意には必ず「秘密合意」がある筈だから(ないと考える方がおかしい)、私たち日本の市民は、二重に(明示的及び秘密的に)アメリカ軍の支配を受けていることになる。このパターンはある意味、戦後GHQ時代の間接統治のパターンと酷似している。右翼の諸君が、「売国的だ」と抗議しないほう方がむしろ不思議だ。

平岡 これはね、米軍基地の対応なんかを決めるわけよね。で、国会の承認が要らないんですよ。これは民主主義の国としておかしいと思いませんか?つまり国会、国民監視の目の外で、日米の事務方というか、外務大臣まで含めて話が出来て、様々な協定が結ばれて行く。或いは基地の提供までがそこで決まってしまう。
哲野 それが、1本1本約束は、1本1本の地位協定の条文になってるわけですね、今。
平岡 それが日本の国会の承認が要らないっていうことは、これはやっぱりおかしいんじゃないかな。それは日本人が気が付いてないですよね。国会で・・・(笑いながら)まぁ国会もそんなに機能していないけれども。少なくとも国民の関心の対象、或いは議論の対象になってないということが問題だ。
哲野 そういう議論が国会で行われれば、少なくとも知られる、そういう事が良く知られることにはなりますよね。
平岡 ウン、だから日米安保の方が、憲法よりは上位にあると言う証拠だと、僕はいうんだ。それを仕切っているのが日米合同委員会。日米地位協定は全部国会にかからないね。
哲野 かからない。行政協定ですからね。時の政府と政府のトップがOKと言えば済んじゃう。
 平岡 そこには基地の提供まで入ってるんですよ。これはやっぱりおかしいんじゃないかなっていうねぇ・・。
哲野 ご記憶ですか?フィリピンが東南アジア最大の基地だったスービック海軍基地とクラーク空軍基地を追い出したいきさつがあるけれども。その追い出したいきさつのなかで、新しく成立した憲法の中に、基地存続は2つの条件がある、といった。まず上院で決議され、国民投票にかけて、基地存続に賛成することがひとつ。それから、その条約文が出来たら・・フィリピンも行政協定で基地が置かれていたから、今までの様に、行政協定ではなくて2国間の条約として、フィリピンの国会、アメリカの議会で議論して、その批准をとってこいと・・・。
平岡 そうそう。議論されなきゃいけないですよね。
哲野 で、しかも、アメリカでも議会で批准されること、というのが非常にハードルの高い条件を設けたら・・
平岡 まぁ、普通の独立国だったらそうでしょう。
哲野 そうですね。
平岡 そうなる。
哲野 で、それで、どうもアメリカは撤退を決めたようです。で、私が調べた限り、アメリカが恐れたのはフィリピンの国会での議論ではなくて、(笑いながら)アメリカ議会の議論が怖かったらしい。
平岡 そうだね・・。
哲野 何をやってるかわからない。今の段階では。アメリカ議会でもそれは、フィリピンに2つの基地を存続させることになれば、事細かに予算から、人材配置から、目的から全部明らかにしていかなきゃいけない。それを明らかにされるのが一番困るという論評を読んだことがあるし、私もそう思う。
平岡 ウーン、なるほどね・・・。
哲野 それはフィリピンでやったことなんだから、日本で出来ないことはないはずですよね。
平岡 出来ないはずはない。その気になればできる。でも、やっぱり広範な国民の声というのがバックにないと、外交だって出来ないしね。役人だけの交渉じゃ駄目です。テーブルの上のね。やっぱりそれを支える国民の声が必要だ。 
(以下次回)