(2009.6.19)


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<参考資料> NPT加盟呼びかけに対してイスラエルが激しく反発

そのA イスラエル:NPTにおけるコメントはイランに対する新政策の一部ではない
Israel: NPT comment not part of new US policy on Iran
* イエルサレム・ポスト(Jerusalem Post)紙の記事である。
<http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1239710874687&
pagename=JPost/JPArticle/ShowFull>

同紙は1932年「パレスティナ・ポスト」紙として創刊された英語紙。
<http://en.wikipedia.org/wiki/Jerusalem_Post>
発行部数はヘブライ語紙には及ばないものの、政治記事を中心に一定の影響力をもつ。論調、NPTへの評価、常にイランを目の敵にするところ、イラン、シリア、リビアは核兵器開発に成功しつつあると信じているところなど、ハーレツ紙とうり二つである。イスラエル人の強迫観念、自分のみが正しいとの思いこみ、すぐ武力に訴えて解決を図ろうとするところなどは、戦前の日本軍国主義政権とよく似たところがある。




ヒラリー・ライラ・クリーガーとハーブ・ケイノン、イエルサレム・ポスト。


 アメリカとイスラエルの高官は水曜日(*09年5月6日)、その1日前にアメリカの外交官が、イスラエルにNPTへの署名を求めたコメントを軽視するとした。

 「NPT自身への世界的な遵法性という意味では、インド、イスラエル、パキスタン、そして北朝鮮も含めて、その問題はまたアメリカの基本的目標として依然として残っています。」とアメリカ国務長官補佐官、ローズ・ゴットモーラーは述べたのである。

 彼女は、NPTを強化する国連の会議の中で語ったわけだが、後にワシントンがイスラエルに対してその核計画を放棄したり、あるいはNPTに署名させるための圧力をかける計画があるかどうかについては消極的な反応だった。

 このコメントはイスラエルのある部分には、警告だとして受け止められた。イスラエルは公式には一度も核兵器の貯蔵を認めたことはないし、アメリカとの曖昧な合意に達していることを認めたこともない。しかし国務省は、水曜日(*09年5月6日)、政策の変更はない、と指摘した。

 「アメリカは長い間、NPTへの普遍的遵法性を支持してきた。われわれは(*核兵器不拡散)条約にまだ加盟していない諸国にそうするように主張してきた。」と国務省高官は云う。

 この高官は、アメリカは中東に非大量破壊兵器地帯の出現を支持して来た、と言明する一方で、次のようにも続ける。「そのようなゴールは中東が包括的平和へ向けて進展するという文脈でのみ、またイランが自身もメンバーである、既存の国際的合意を完全に尊重し、遵法しているという証拠がある時のみ、達成できるものである。」

 イスラエルの高官はまた、イスラエル外務省の高官の次のコメント、「アメリカの政策は、誰にでもNPTへの署名を促すというものであり、これ自体よく知られている。」「ゴッドモーラーのコメントは極めて一般的なものだ。」という発言を踏まえて、以前からの発言と一貫したものだ、とゴッドモーラーのコメントを特徴付けた。

 彼らはまた、イスラエルに条約署名を促すことは、アメリカの対イラン新政策の一部だ、という見方を否定した。

 イスラエルの核専門家、アブナー・コーエン(Avner Cohen)は、ワシントンがイランの核の脅威をとり除いてくれること、恐らくはテヘランとの交渉の一部だろうが、そのこととイスラエルが自身の(*核兵器)能力を放棄することはリンクしているだろうと、云う。

 コーエンによれば、ベンヤミン・ネタニエフ首相は、5月18日のホワイトハウスにおけるバラク・オバマ大統領との会談で、イスラエルの核計画について沈黙を守る政策を継続してくれる保証を模索しそうだ、という。

(*  イスラエルが、イランの核兵器保有をいかに恐れているか、「核兵器開発の疑惑あり。」として、国際世論がイランを包囲してくれることをいかに切望しているか、われわれの想像をはるかに超えている。しかし、立場を変えて云えば、まだ姿形すら見えない、また核兵器を保有するつもりはない、というイランをイスラエルが警戒する強さと、すでに存在し、実戦配備までされている核兵器を保有するイスラエル、昨年暮れから今年初めにかけての“ガザ虐殺”で示したイスラエルの非人道性にたいする警戒心とどちらが強く、どちらが、道理が通っているかという事でもある。単純に云って、イスラエルには核兵器がある、イランにはない、という決定的違いがある。)


 しかし、メリーランド州に住み、「イスラエルと原爆」の著者でもあるコーエンは、国務省高官の、「非核兵器地域」とすることが緊急とする前に変化しなければならないとする中東における状況をどう評価しているかというと、短期的にはアメリカの政策は変化なしと見ている証だ、とも指摘する。

  「あるものは、(*ゴットモーラー発言を)完全に無視すべきだというし、別なものは中に分け入って深読みしている。具体的には何もないが、かすかなニュアンスの違いがある。」とコーエンはいい、イスラエルの反応は発言しすぎであり、過度に表現しすぎだ。」と表現した。

(*  しかし、ゴットモーラー発言では、明確に「インド、イスラエル、パキスタン、北朝鮮」と4カ国を並べた。この文脈は、4カ国が核兵器保有国として存在していることを、明示する文脈でもある。イスラエルもまたそう解釈している。今までアメリカは国際舞台の前で、イスラエルを核兵器保有国として認めた例はない。それだけでも、従来との大きな違いだと思うが・・・。)


 コーエンは、このわずかなニュアンスの違いを民主党政権の優先順位の付け方の違いであり、共和党政権よりNPTに重きを置くためであるとし、ゴットモーラー発言のようなコメントですらブッシュ政権の時には普通ではなかったという。しかし、ビル・クリントン政権の時には、似たような発言があった、と指摘する。

 事実、水曜日にはオバマは、NPTを擁護する発言を繰り返し、前に核兵器のない世界を呼びかけた発言をフォローアップしている。多分、NPTに対する支持を新たにするアメリカに対する反応として、そしてあらゆるプレッシャーをはねのけようとする反応として、イスラエルの高官たちはまた、NPTそのものを攻撃している。NPTはそのゴールに達することに失敗しているではないか、(*イスラエルが)NPTを採用するなど、ほとんど議論にもならない、と。

 イエルサレムの高官たちは、イラン、リビア、レバノンはみんな、NPTに署名しながら核開発を進めているではないか、(*核兵器不拡散)条約は万能の特効薬ではないことの証明だ、という。

(*  アメリカの心変わりはない、と思いたいイスラエル人の気持ちをよく表した記事だ。この記事のいうように、アメリカが、インド、イスラエル、パキスタン、北朝鮮にNPT加盟を促さないようなら、ゴットモーラー発言は本気ではないなら、これはこれで問題だろう。この問題に関するオバマ政権の指導力は大いに低下するだろう。各国代表団はこの5月、ゴットモーラー発言をしっかり聞いて、ちゃんと記憶しているだろうからだ・・・。)


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