(2011.9.5) | |
No.029 |
「原発安全神話」と「放射能安全神話」 スターングラスが「赤ん坊をおそう放射能」で指摘したこと |
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騙される側の責任 | ||||||||||||||||||
英語のエクスプレッションに、 “Fool me once, shame on you; fool me twice, shame on me.” というのがある、 要するに一度目騙されるのは、騙した方が悪い、でも同じ相手に二度騙されるなら、それは騙された方が悪い、と云う意味だ。 ある会合に出ていて、誰かが福島県の飯舘村の村長さんが「政府が大丈夫だ、というから、私たちは残ったんだ」という訴えを引用して、騙した政府を非難していたので、私は、頭の中でこのエクスプレッションを思い出しながら、「申し訳ないが、それは飯舘村の村長が悪い。“原発安全神話”で騙されたと分かったんだから、今度は“放射能安全神話”に騙されたのは騙された方が悪い。飯舘村の村長さんの言い分は村長としてのいいわけにはなっても、危険なまでに放射能に汚染されているという指摘が国の内外からあったことを考えれば、泣き言にもならない。」と発言して、不謹慎だと、会合の参加者から袋だたきにあった。 今の問題は、いまや日本中に「飯舘村の村長」さんがあふれかえっているということだ。言い換えれば、騙した政府や東電の責任は追及するが、(当然追及しなければならない)、2度、3度、4度と騙される自分自身の責任は棚上げしたままだ。何回騙されれば気が済むのか・・・。 「政府が大丈夫、というから残ったんだ」というセリフを、飯舘村の村長さんは政府や東電にいうことはできても、自分の村に残っている妊婦や乳児、幼児や子どもに対してはいえないだろう。もしこうした幼いものが将来放射線障害に直面した時、(その確率は極めて高いと言わざるを得ないが)、彼らは、「どうして自分たちで調べ、自分の頭で考えて、判断し、行動してくれなかったんだ、どうして“原発安全神話”のウソが分かった時、同じ連中のいう“放射能安全神話”を信用したんだ。」と非難するだろう。 幼いものたちには正真正銘なんの責任もない。にも関わらず、放射線の被害をもっともうけやすいのは、胎児・乳児・幼児、子どもなのだ。不条理といってこれほどの不条理もあるまい。彼らを守るのはわれわれ大人しかいないのだ。それを考えれば、「政府が言ったから」と自己弁護する飯舘村の村長さんの発言が、いかに無責任かがわかろう。 |
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「放射能安全神話」 | ||||||||||||||||||
「放射能安全神話」とは、要するに「電離放射線はいちどきに外部から大量に浴びなければ健康にさして大きな害はない。低線量では健康に害があるという科学的な証拠はない。」というものだ。 核産業推進勢力は、核が生まれた時からこの「放射能安全神話」を世の中にばらまいてきた。常に放射能を出し続ける核設備や核装置はこの「放射能安全神話」で防禦するほかはない。「放射能安全神話」が破れれば、この地球上に核設備や核装置(その最たるものが核兵器であり原発だが)の居場所はなくなってしまう。 だから「原発安全神話」と「放射能安全神話」は常にセットである。原発推進勢力(核産業とそれを擁護する政府)はこの2つのドグマで理論武装してきた。 それでは、私たちは「放射能安全神話」のウソを今まで見破ることはできなかったのだろうか?いやそうではあるまい。 というのは「放射能安全神話」は、恥ずべきウソですよ、と指摘する声は1950年代からすでにあったのだから。私たちはその声に耳を塞ぎ、その事実から目をそらせていただけなのだ。 試しに今私のデスクの上に転がっている「赤ん坊をおそう放射能」という本(新泉社刊 1982年6月発行。アーネスト・スターングラス著。反原発科学者連合訳。英語原題“Secret Fallout”)のどこでもいいから開いてみよう。この本は「放射能安全神話」のウソを暴く話で満ち満ちている。 (なお、この本の英語原文は、全文インターネットで無料で公開されている。http://www.nucleardemolition.com/SF.pdf また私もそっくりPDFのままダウンロードして閲覧できるようにした。) この本を読むと、電離放射線の最大の被害者(ヒバクシャ)は、核発祥の地、他ならぬアメリカに一番多く存在するということがよくわかる。 |
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70万キュリー(2万6000テラベクレル)を放出する原発 | ||||||||||||||||||
1970年の春頃まで、スターングラスは原子力発電所が正常運転する限り、外部に出す放射能は低くて公衆の健康に影響は及ぼさないと信じていた。この考え方はアメリカ最初の商業用原子力発電所であるペンシルバニア州のシッピングポート原発から放出される古い測定結果に基づいていた。この最初の原発は、アメリカ海軍の原子力潜水艦でつかわれた原子炉と同型の加圧水型原子炉で、放射能については極めて厳格な管理がなされていた。原子力潜水艦は数ヶ月以上も潜水したままなのでわずかな放射能が排出されても、乗組員の健康に影響が出るので、放出放射能については厳重に管理されていた。このウエスティングハウス社製の原子炉はそのため非常に高価なものについた。コストを下げるためウエスティングハウス社の加圧水型原子炉から毎年約6万キュリー(約2040テラベクレル)という大量の放射性物質が排出されるように設計されるのは後の事である。(この原子炉の流れを汲んだ加圧水型原子炉を日本の関西電力は採用している。) スターングラスが衝撃を受けるのは、1969年11月に開催されたアメリカ議会両院合同委員会の公聴会の公刊記録を読んだ時だ。そこにはアメリカ原子力委員会が作成したアメリカの商業用原子炉が大気中や水中に放出した放射能量の一覧表があった。 それによると、1967年には通常運転で70万キュリーを放出していた原発原子炉が2基もあったのである。70万キュリーは厖大な量である。ベクレルに換算して見ると、2万5900テラベクレルという数字になる。福島原発事故でも有名になった国際原子力事象評価尺度(INES)に当てはめてみると、「放射性物質のかなりの外部放出:ヨウ素131等価で数千から数万テラベクレル相当の放射性物質の外部放出」で「レベル6:大事故」に相当する。唯一の違いはこれは事故でなく、通常運転で放出された放射能という点だ。 スターングラスはその時の驚きを次のように書いている。
アメリカの原子力発電所は小さな戦術核兵器に相当する死の灰を毎年まき散らしていたわけだ。 |
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放出許容量を上げて解決 | ||||||||||||||||||
さらにこの公聴会で明らかになったことは、原発に許されている「放出許容量」そのものが極めて大きな値になっていることだった。報告によれば、商業用原子炉1基に許されている年間放出許容量は2200万キュリーだった。 もし私の計算間違いでなければ、2200万キュリーは、81万4000テラベクレルである。先ほどのINESに当てはめれば、完全にチェルノブイリ事故や福島原発事故並の「レベル7」に相当する。これは公聴会が行われた1969年当時の話である。 ここでスターングラスはドレスデン原子力発電所に注目する。というのは、ドレスデン原子力発電所の1号炉は、沸騰水型原子炉であり、沸騰水型は加圧型原子炉に比べて大量の放射能能を放出していたからだ。(コストダウンした加圧水型原子炉も大量の放射能を放出していたが、それは後に明らかになる。)
ちなみにこの経済性を追求し、通常運転中でも大量の放射能を放出する沸騰水型原子炉を採用しているのが東電であり、福島原発事故を起こしたのもこのGE系の原子炉である。 以上のような理由でドレスデン原子力発電所の第1号炉は、大量の放射能を放出しても規制値内とされたのであった。(下表参照の事) 表 ドレスデン原発の放射性物質の年間放出量
それとともに必須だったのは、「放射線は大量に外部から浴びない限りは、人体にさほど害はない」とする「放射能安全神話」だったことはいうまでもない。 |
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乳児死亡が2.4倍に | ||||||||||||||||||
この時までに、イギリスのアリス・スチュアートは、イギリスのイングランドとウエールズで1943年から1965年までに生まれた赤ん坊1900万人の赤ん坊の間に、白血病とガンが増加しているという報告を発表していた。医療用X線照射による被害である。妊娠3ヶ月以内に80ミリラド(8ミリシーベルトに相当する)のX線を妊婦に照射すれば、胎児が生まれ10才になるまでに白血病やガンで死亡する確率は、照射されない子どもの2倍になることも明らかにしていた。 この80ミリラドという線量はドレスデン原発の放射能放出が最大に達した年の、ドレスデン原発周辺住民が、外部被曝のみで受けた被曝線量に相当する。だからスターングラスはドレスデン原発周辺で放射線障害が出ているはずだ、という仮説を立てた。そしてその被害は放射線にもっとも弱い乳児に出ているはずだ、と考えた。 現実には、原発のあるグランディ郡とそれに隣接したリビングストン郡では、1965年61万キュリー放出量のあった翌1966年とその前年の1964年では大幅に乳児死亡が増えていた。その比較表が以下である。
またドレスデン原発から、半径100km圏内には、大都市シカゴを含め当時600万人の人が住んでいた。当時のイリノイ州の人口が1000万人だったことを考えれば、イリノイ州全体でも有意味な変化があるはずだ、と考えたスターングラスはデータを取った。 その結果が以下の表である。 イリノイ州全体の乳児死亡率(1000人当たり) 1963年 23.9 1966年 25.6 第二次世界大戦後の経済成長、生活水準の向上、医療体制の充実で、乳児死亡率は全米的に毎年下がった。だからイリノイ州でも下がって当たり前である。にも関わらず、イリノイ州は上がっていた。しかもレスデン原発の風下にあたる、シカゴを含めたクック郡や前出のグランディ郡や隣接したリビングストン郡などで乳児死亡率が上がり、原発から北にある郡や風上にあたる西側の郡合計6郡のデータでは1966年、乳児死亡率はマイナス2%とほぼ正常な値を示していたのである。
「クリブ死」(crib death)は今日、「乳幼児突然死症候群」(sudden infant death syndrome-SIDS)として知られている。原因については今でも分かっていない。生後12ヶ月未満の乳児が突然なんの前触れもなく、呼吸停止に陥って死に至る。 硝子膜症というのは「新生児肺硝子膜症」(neonatal hyaline membrane disease)のことだと思う。山口大学の「知識の泉」によれば、「新生児死亡の大きな原因で,未熟児に多い。出生後数時間の新生児に急にチアノ-ゼ、呼吸困難などが現れ、数日で死亡。組織学的に,肺胞部に淡い好酸性均質な硝子膜hyaline membrane がおおっている。これを硝子膜症hyaline membrane disease という。原因としては、Ⅱ型肺胞上皮が産生する表面活性物質の欠如、線溶機構の機能低下、血管透過性の亢進などが考えられている。」と言うことらしい。(<http://www.hoken.med.yamaguchi-u.ac.jp/Wiki/?%BF%B7%C0%B8%BB%F9%C7%D9%BE%CB%BB%D2%CB%EC%BE%C9>) 要するに症状については分かっているが、原因は特定できていない、ということだ。 |
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呼吸器系に障害を起こす放射性ガス | ||||||||||||||||||
しかしスターングラスは次のように指摘している。
非常に重要な記述なので続けて引用する。
それでは、原発から出てくる放射性ガス(ヨウ素131など)はどのような影響を人体に与えるのであろうか?スターングラスはいう。
もし1982年のスターングラスが正しいとするなら、2011年のICRPは大嘘つきである。というのはICRPの学説を信奉する日本政府、厚生労働省、ICRP系の学者は、ヨウ素131の危険は甲状腺ガンを発症することであり、その他の危険はない、と説明しているからだ。もしスターングラスが正しいとするなら、真の危険は、甲状腺の細胞に集まったヨウ素131などの放射性ガスや希ガスが、その分泌するホルモンとともに、脳下垂体に損傷を与えることであり、それは呼吸器系に障害を起こす、その症状はもっとも抵抗力のない胎児や乳児に典型的にあらわれる、ところにある。 また2010年に発表されたECRR(欧州放射線リスク委員会)の勧告、第13章「被曝のリスク:ガン以外のリスク」の第2節「胎児の発育と乳児の死亡率」では次のようにいう。
もし私たちが、聞く耳と事実を直視する目さえもっていたなら、「原発安全神話」とともに「放射能安全神話」はとっくの昔に粉々に粉砕されていたであろう。 しかし「放射能安全神話」はいまだに健在だ。これを打ち破らなければ、フクシマの、日本の子どもたちは護れない・・・。 |
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