(2015.3.19)
No.060-2

放射線被曝に安全量はない
-There is no safe dose of radiation

その② 人類と放射能は共存できない


(この記事は、第124回広島2人デモチラシ<2015年3月6日>を下敷きにしている。チラシに引きずられて、口調も「だ、である調」から「です、ます調」に改める。また通常記事では、敬称は一切省いているが、この記事では敬称をつけることにした) 

放射能とは何か-放射能は人間の細胞やゲノム(遺伝情報)を破壊する

「放射能」(radioactivity)とは放射性物質(radioactive substances)から発する放射線(radiation)の働きです。

 しかし、この説明がこれで終わりなら、実は説明になっていません。「磁力」とは磁気が物質を引きつける力だ、という説明と同じです。いってしまえば同義反復です。ちなみに日本語ウィキペディア『放射能』の説明を聞いてみましょう。
放射能(ほうしゃのう、英: radioactivity、activity)とは、放射性同位元素が放射性崩壊を起こして別の元素に変化する性質(能力)を言う。なお、放射性崩壊に際しては放射線の放出を伴う。放射能は、単位時間に放射性崩壊する原子の個数(単位:ベクレル [Bq])で計量される。」

 日本語ウィキの説明もわかったようでわかりません。私たちは物理現象としての放射能を知りたいのではなく、私たちの生活や生存に対するリスクとしての放射能を知りたいのですから。電気事業連合会の説明を聞いてみましょう。

放射能、放射線、放射性物質:この3つの違いを電灯に例えると、『放射線』は懐中電灯の光、『放射能』は懐中電灯の光を出す能力のこと。そして懐中電灯は『放射性物質』ということになります」
(電事連のWebサイト<http://www.fepc.or.jp/nuclear/houshasen/houshanou/>)

 これは説明をたとえ話にしたため、放射能がどんなものか、わかりやすいようでいていっそうわかりにくくしています。放射能そのものについて何も説明していません。それどころか、放射能を生活にごく身近な「懐中電灯の光」にたとえているところなどは、一種の胡散臭さを感じます。
 放射能について説明するなら、その物理・化学的性質を説明するだけでなく、それが生物に、特にヒトに与える影響を説明しなければ、説明したことになりません。

放射能の働きを担う放射線は、この場合電離放射線(ionizing radiation =イオン化放射線)です。電離放射線という以上、非電離放射線もあります。たとえば、蛍光灯や太陽の光も放射線ですが、非電離放射線には放射能はありませんから今回は対象外です。(電離放射線と非電離放射線をわざと混同させる説明がよくあります。電離放射線には放射能があるが、非電離放射線には放射能はない、この違いがポイントです。混同させる目的は、私たちの生活が本来、放射能とは無縁なのに、放射能に取り囲まれて暮らしているような錯覚を持たせるのが目的です)

 放射能の働き(それはまだ何か説明していません)は放射線が担っています。その放射線には電離放射線と非電離放射線の2種類があるが、放射能をもつのは電離放射線であって、非電離放射線ではない、言い換えれば、放射能の働きをもつのは電離放射線であって、非電離放射線には放射能はない、という説明です。
面白いことに、「放射能」について、文部科学省が中学生・高校生向けに作成した『放射線副読本』の中にも同じ記述が出てきます。「放射性物質と放射能、放射線」と題する箇所で、

放射線を出す物質を「放射性物質」、放射線を出す能力を「放射能」といいます。電球に例えると、放射性物質が電球、放射能が光を出す能力、放射線が光といえます」(文部科学省編集発行の副読本『中学生・高校生のための放射線副読本―放射線について考えよう―』9頁 2013年12月末現在)
 
<クリックでPDFが開きます>

 ただしこちらは、懐中電灯の光ではなく電球にたとえてあります。
 電事連の説明にしても、文科省の説明にしても、致命的な科学的誤りがあります。日本語ウィキの説明は「放射性同位元素が放射性崩壊を起こして別の元素に変化する性質(能力)を言う。なお、放射性崩壊に際しては放射線の放出を伴う」でした。この時の放射線は「電離放射線」です。つまり放射能は電離放射線に特有の現象なのです。
 しかし、懐中電灯の光にしても、電球の光にしても、発する放射線は電離放射線ではなく、非電離放射線です。電離放射線には放射能があるが、非電離放射線には放射能がない、この単純な事実からすれば、「放射能」を、懐中電灯の光や電球の光にたとえること自体、科学的誤りということになります。電事連や文科省がなぜ、こうした科学的には誤りのたとえ話を持ち出して、放射能への正しい理解を妨げようとするのか?ここが考えてみる一つのポイントだと思います。

放射線には光子の流れ(γ線やX線など)と粒子の流れ(α線やβ線など)の大きく2種類があります。
 図1はブタの肺臓に付着した2ミクロン(100万分の2m)の酸化プルトニウムから発せられた放射線の傷跡(飛跡)です。
プルトニウムはα線を出して崩壊しますから、飛跡はすべてα線粒子によってつけられたものです。
セシウム137はほとんどβ崩壊でβ線を出しますが、一部γ崩壊でγ線も出します(図2参照のこと)

 図1に見られる電離放射線の飛跡、傷跡、これこそが電離放射線がもつエネルギーの爪痕に他なりません。またこれこそが放射能の傷跡です。

従って放射能のエネルギーとは、要するに電離放射線が発するエネルギー(電離エネルギー)のことです。

 後でも詳しく見ますが、電離エネルギーとは人間の細胞を破壊するエネルギーのことです。そればかりではありません。最近の細胞に関する研究の結果、電離エネルギーは細胞や染色体(DNAはこの中に格納されています)などといったハードウエアに悪影響を与えるばかりでなく、DNAが持つゲノム(遺伝情報)といったソフトウエアにも悪影響を与えることがわかってきています。(例えばバイスタンダー効果)

 これは、コンピュータのウィルスソフトやワームが、コンピュータのオペレーティング・システム(OS)や、OSの上で走らせ具体的仕事をするアプリケーションソフトを狂わせるのによく似ています。コンピュータは外見上どこも異常がないのに、コンピュータが異常を起こし、時には暴走するという現象です。
 話がやや先走ります。要するに、放射能とは、人間の細胞やゲノム(遺伝情報というソフトウエア)に対する全般的な「攻撃能」「破壊能」だと理解しておいてまず間違いはありません。


人間はなぜ放射能に弱い(脆弱)なのか

 「放射能に強くなろう」とか、「放射能に対抗する生活習慣」とか様々な言説が行われています。この項のタイトルにもなっている「人間はなぜ放射能に弱いのか」も含め、問題の立て方を間違っています。「人間はなぜ放射能に弱いのか」ではなく、そもそも人間は、放射能がなきに等しいほど微弱な環境の中で生まれ、進化してきたのです。放射能がなきに等しい環境が人間にとって最適環境、生存条件なのです。広い宇宙には、必ずどこかに知的生命体が存在し、中には電離放射線に適応して生成・進化してきた生命体が存在するかもしれません。しかし人間はそうではありません。電離放射線の影響(放射能の影響)がないところではじめて生存できる知的生命体なのです。

地球にある自然の放射性物質(放射性物質に限りませんが)は、すべて宇宙からやってきました。

 岩石の塊である地球にはもともと重い元素を自ら作り出す力はありません。ウラン、プルトニウムなどといった放射性物質は、すべて原始地球時代に繰り返された他の惑星との衝突やそのごも続く隕石や落下、小惑星の衝突で、地球にもたらされたものでした。それでは、こうした放射性物質はいったいどうして宇宙に存在するのでしょうか?

自然の放射性物質(放射性物質に限りません)は、ビッグバン以来、宇宙の中で繰り返し行われた、そして今も継続中の核融合反応の結果生まれたものです。

 たとえば太陽は水素を原料として、核融合反応を繰り返し、水素より次に重いヘリウムを生成しています。しかし太陽のような小さな恒星では、ヘリウムを核融合させて次に重い元素リチウムを生成することはできません。熱と圧力が足りないからです。太陽よりも数百倍も大きい恒星で核融合し、段階を追って重い元素が次々と生成されました。しかしどんなに大きな恒星でも、その核融合では、マンガン(Mn:元素番号25)までしか作れません。マンガンより重い鉄(Fe:元素番号26)以上に重い元素は、すべて超新星爆発で生まれました。(図4参照のこと)今宇宙にあるすべての自然の元素はこうして生まれました。  

 日本語ウィキペディア『超新星』の記述を見てみましょう。
 「超新星(ちょうしんせい、英: supernova)は、大質量の恒星が、その一生を終えるときに起こす大規模な爆発現象である」

 太陽のような質量の小さい恒星は超新星爆発を起こすことができません。エネルギーを使い果たすとともに温度が下がり、赤色巨星化しやがて白色矮星になって星雲を構成するチリやガスとなってその一生を終えます。しかし太陽より重い(質量でいえば10倍以上)恒星は、赤色超巨星となり、やがて圧力に耐えかねて爆発を起こします。日本語ウィキの記述を続けます。

 「初期の宇宙では、元素はほとんどが水素とヘリウムの同位体で、わずかにリチウムとベリリウムの同位体が存在する程度だった。それよりも重いホウ素、炭素、窒素、酸素、珪素や鉄などの元素は恒星内部での核融合反応で生成し(s過程)、超新星爆発により恒星間空間にばらまかれた。そして、鉄よりも重い元素は、超新星爆発時に生成したと考えられている(r過程)」

 そして超新星爆発は、「我々が住んでいる銀河系の中で、100年から200年に一度の割合で発生していると言われている。また、平均すると1つの銀河で40年に1回程度の割合で発生すると考えられている」そうですから、大宇宙からすれば日常茶飯時の出来事ということになります。

宇宙から地球にやってきた放射性物質は、原始地球から現在の地球に変化していく過程の中で、地中深く隠れ地表面にはほとんど放射能の影響がなくなりました。また地表近く残っていた放射性物質は、地球46億年の過程で核崩壊を繰り返し無害化されました。
(ただし比較的軽い元素カリウム40=半減期約13億年=だけは例外的に地表近くに残りました。ただしカリウム40で内部被爆損傷をしたという報告はありません。ヒトは進化の過程の中でカリウム40を無害化してきたようなのです。ヒトの細胞にはカリウム40を透過する機構を持っているという研究もありますが、詳細はわかりません)

 原始の地球とはどんなものだったのか?
 JAXA(宇宙航空研究開発機構)の運営するサイト「宇宙情報センター」の「地球の誕生」という項目から、放射性物質の存在を理解するのに重要な知識となるので、少々長くなりますが、引用します。

微惑星の衝突・合体を繰り返してできた地球:
 地球は約46億年前、他の太陽系の惑星と同様、太陽の誕生とともにその周囲にできた原始惑星系円盤の中で生まれました。原始惑星系円盤のほとんどは水素やヘリウムなどのガスからできていましたが、わずかながら塵(ちり)を含んでいました。それらの塵が集まり、無数の「微惑星」と呼ばれる小天体がつくられます。その微惑星が衝突・合体を繰り返し、惑星のもととなる原始惑星となっていきました。成長した原始惑星はお互いにぶつかったりまわりの微惑星を重力で集めたりして、そのうちの1つが原始地球になったと考えられています。
マグマ・オーシャン:
 地球の大きさが現在の半分くらいのころ、微惑星の衝突が続く地球では、衝突のときのエネルギーで地表が高温になり、表面がどろどろに溶けたマグマ・オーシャン(マグマの海)と呼ばれる状態になりました。このとき、鉄やニッケルなどの重い物質は地球の中心へと沈んで核となり、軽い物質がマントルや地殻になったと考えられています。
最古の岩石:
 地球の表面はプレート・テクトニクスによって絶えず新しくなっているため、古い岩石は地球内部へと取り込まれてしまい、なかなか地表には残りません。それでも楯状地(たてじょうち)と呼ばれる地域には、地球誕生初期の岩石が残されています。現在発見されている最も古い岩石は、カナダ北部で見つかった約39億6,000万年前の片麻岩(へんまがん)という種類の変成岩です。また、グリーンランド南西部、イスア地域からは約38億年前の礫岩(れきがん)と呼ばれる堆積岩や枕状溶岩が発見されています。堆積岩は海や川で砂礫が堆積してできる岩石で、枕状溶岩は海底から噴き出したマグマが海水に触れ急冷されてできた溶岩です。このことから、なくとも約38億年前には地球に海ができていたと考えられています」
(<http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/birth_of_earth.html>)

 衝突や隕石落下とともに地球へやってきた放射性物質は、地球が冷え固まるとともに、また、地殻が形成されるとともに、こうして他の重い元素とともに地中深く隠れることになりました。ただしカリウム40だけは例外です。元素番号19のカリウムは、他の珪素など比較的軽い元素とともに地表地殻に残りました。カリウムの同位体であり、放射性物質のカリウム40も地表近くに残りました。カリウム40は、天然カリウム中に0.0117 %の割合で含まれ、カリウム自体がヒトや生物の必須元素であるため、従って人体の中にも一定量のカリウム40が存在します。
(カリウム40はその89%までが、β崩壊してβ線を出します。その崩壊エネルギーも150万eVと、同じβ崩壊をするトリチウムなどと比べてそのエネルー量は大きいのです。このことから、“カリウム40は大量に人体に含まれている。これで内部被爆被害を起こさないのだから、少々のβ核種を人体に取り込んでもどうということはない”という議論が行われます。しかし、これは電離放射線の内部被曝影響を、単純に「エネルギー量」という、物理量だけに還元して評価する19世紀的な考え方です。実際に電離放射線による内部被曝影響は、きわめて複雑かつダイナミックなものです。カリウム40は、生物や人類の進化の歴史の中で、無害化に成功してきた例外的存在、と考えることの方がより適切な解釈だと思います)



宇宙の放射線から地表を防護する「磁気圏」と「大気圏」―2重のシールド(楯)

 こうして宇宙からやってきた重い放射性物質が地中深く隠れ、また地表近く残っていた放射性物質も徐々に減衰し、地表面にはほぼ放射性物質が姿を消しました。(ただし例外的にカリウム40は残ります。しかしそのカリウム40も原始地球時代に比べると1/12に減衰している、といわれています)
 これで人類が地表面で生存する条件の一つが整いました。しかしこれだけでは全然不十分です。宇宙は超新星爆発をはじめとする核融合反応を繰り返しており、いってみれば強力な電離放射線だらけです。第一太陽自体が巨大な核融合反応を繰り返しており、様々な電離放射線を地球に向けて吹きかけています。
 宇宙からやってきた元素の中で、鉄やニッケルなどは中心核を形成しました。そして地球は自転を開始しました。原始地球では早かった自転速度も現在では1回転24時間となりました。

こうして地球は巨大な磁石となり、その周辺には磁場が発生しました。この磁場が地球をすっぽり覆う磁気圏となり、これが太陽を含む宇宙からやってくる強力な電離放射線を遮る第1のシールド(楯)となりました。

 磁気圏は太陽からやってくる強力な電離放射線の嵐(太陽風)にさらされて、太陽の反対側にクラゲ上に歪んでいます。(図5参照のこと)また磁気圏が放射線を捕捉し大量の放射線が滞留している層もあります。それがヴァン・アレン帯(放射線帯)です。(図6参照のこと)


 実際に磁気圏なしでは、地表面を強力な宇宙の放射線から守ることはできません。地表面にヒトがすむことはできないのです。たとえば、月は地核に鉄やニッケルをもちません。自転速度も24時間の地球とは違って27日です。これでは、仮に地核が鉄でできていても、強力な磁気圏は形成できません。月は磁気圏をもたないのです。ですから強力な宇宙線にさらされ放しです。これでは、いかに宇宙服に守られていようが、長時間月の地表面で作業することはできません。

 これらの知見はあまり一般的には知られていないのかもしれません。(あるいは何かの理由で一般大衆の常識的知見を妨げる大きな力が働いているのかもしれません)しかし専門家の間ではよく知られた、常識となっている知見です。次に引用するのは、同じくJAXA宇宙教育センターのサイトで『JAXA第1回宇宙種子実験』の中の『「JAXA宇宙種子実験」教材のご紹介』で登場する『宇宙放射線』と題する論文です。(<https://edu.jaxa.jp/seeds/influence/influence.html>)

私たちが地球を飛び出し、地球周回軌道や太陽周回軌道に乗ると、船外は超高真空、私たちの身の回りすべてが無重力のまさに宇宙の世界となる。さらにそこは、浴びる量や期間によって人体に重篤な影響も及ぼす高エネルギーの粒子や電磁波が絶え間なく飛び交う環境という現実もある。実際、私たちの頭上、地球の大気圏の最外層を越えた先には、高いエネルギーを与える放射線が今も絶え間なく降り続いている(図1)。それらは地球外の宇宙からもたらされる放射線で、実際、宇宙放射線(もしくは、宇宙線)と呼ばれる。その中には地上では通常存在しない種類の放射線も多く含まれる」「その量は、地上から高度が上がり、各種大気層(対流圏、成層圏、中間圏、熱圏)を過ぎるにつれ急激に増加する。なぜなら、地上から離れ高度を上げてゆけば、宇宙線と衝突することにより、エネルギーを拡散、吸収していた大気分子の密度が減少し、また高速で地球進入コースをとって飛来してきた宇宙からの荷電粒子を地球に到達する前にそのコースを曲げてそらす役目の地球磁場の強度が下がっていくからである。この2つの地球の持つ特性、物質のおかげで、地球上の生物は宇宙に普遍的に存在する宇宙放射線からあたかもシェルターに護られるようにして、過去数十億年、生存、進化の道を歩むことができたと言える

 実はこの項『宇宙の放射線から地表を防護する「磁気圏」と「大気圏」』のタネ本はこの論文だったのです。
   同論文1頁からの引用画像。「宇宙放射線が地球大気に飛来する模式図: 一次宇宙線は大気分子の原子核と衝突しては核反応を起こし、その度にエネルギーを与え、それに反比例して持っていたエネルギーを徐々に減弱する。最終的には地上に到達する前に二次粒子を発生させながら消滅する。結果、地上の生物はそれらを直接浴びることなく日々生活を営める。(出典:NASA)」と画像説明がついている。

 そして次のようなエピソードも紹介しています。
トピックス1: アポロ計画の行われた時代、NASA が密かに最も恐れていたのは、すでにすぐには地球へ戻れない位置に宇宙船が到達している段階で、この巨大SPE(Solar Particle Event=太陽粒子現象。いわゆる太陽嵐、太陽風のこと)などが突如として起こることだったと言われる。もし、それが現実に起きていたら、ほとんどそのレベルの放射線に対しては遮蔽がないに等しい宇宙船の中にいる宇宙飛行士は致死的な放射線を被曝せざるをえないと考えられたからである」(同3頁)

 しかし、磁気圏だけでは地表面を強力な宇宙放射線から守ることはできません。磁気圏をかいくぐってやってくる放射線があるからです。

 これを遮断する第2のシールドが必要でした。それには、酸素を大量に含む現在の大気圏の生成が必要でした。地球の大気は、地球が生まれたての頃、地球の大気は太陽起源のガス類(水素やヘリウムなど)が主体だったようです。しかしこれらガス類は太陽風で吹き飛ばされてしましました。やがて、地球起源の大気が原始の地球を覆うようになりました。これを「二次原始大気」と呼ぶそうです。二次原始大気の組成は、およそ次のような感じだったと考えられています。

・・・地表の温度が低下したことで地殻ができ、地殻上で多くの火山が盛んに噴火を繰り返していた。この噴火にともなって、二酸化炭素とアンモニアが大量に放出された。水蒸気と多少の窒素も含まれていたが、酸素は存在しなかった。この原始大気は二酸化炭素が大半を占め、微量成分として一酸化炭素、窒素、水蒸気などを含む、現在の金星の大気に近いものであったと考えられている。100気圧程度と、高濃度の二酸化炭素が温室効果により、地球が冷えるのを防いでいたと考えられている」(日本語ウィキペディア『地球の大気』の中の『地球大気の進化』)

 地球に原始の海が誕生し、大気中に大量に存在した二酸化炭素CO2を使って光合成しエネルギーに変化する植物プランクトンが発生しました。これら海洋植物はCO2を吸収し、彼らにとって有害なガスを大量に放出しました。すなわち酸素です。こうして大気中には大量の酸素を含むようになりました。(これら生物にとって有害なガス、すなわち酸素が大気中に増加したため、この有毒ガスのために絶滅した種も多かった、といわれています)
 それとともにCO2が中心の原始地球の大気組成は、現在の組成、すなわち窒素約78%、酸素約21%、アルゴン0.9%、CO2が0.03%(ただし地表面)へと変わりました。(表2参照のこと)(こうしてみると今国際的な常識となっている「CO2地球温暖化説」も相当怪しくなってきます。また、余計なことを・・・)
地球に、窒素や酸素を主体とする大気圏が生成されそれが宇宙からの電離放射線を守る第2のシールドとなりました。

こうして、地表面は、
(1) 放射性物質が地表面深く隠れ、
(2) 磁気圏が生成され、
(3) 大気圏が生成され、
すなわち2重のシールドが構築され、現在の陸上脊椎動物が生存、進化できる環境が整いました。

 ICRP系の説明資料に、高度1万メートル程度の上空を頻繁に飛ぶ航空機のパイロットや客室乗務員の宇宙放射線被曝のことが話題にされていますが、これは1万メートル上空では大気の組成が大きく変わり(特に酸素組成が極端に低下)、宇宙放射線の「大気圏シールド効果」が小さくなっているためです。

 またオーロラは、磁気圏やヴァン・アレン帯をかいくぐって地球近くに到達した宇宙の放射線が、地球大気(第2の放射線シールド)の分子と衝突して発生する現象です。オーロラの正体は宇宙放射線なのです。極地方は磁気圏(第1のシールド)が薄くなり、宇宙の放射線が大気と衝突する現象が地表から目撃できる、というに過ぎません。太陽風が強く吹くと、地球の磁気圏が太陽風(といってもその正体は太陽粒子、つまり強い電離放射線です)の風下に大きく吹き流され、磁気のシールドはさらに薄くなっていきます。それで、普段はオーロラが目撃されない地域、たとえばロンドンでもオーロラが目撃されることになります。  

 「大自然のパノラマ、オーロラがロンドンでも見ることができ、ロンドン観光に花を添えます」などといっている場合ではないのです。それは、地球の生物にとっては、第1のシールドの防御が弱くなっているということであり、一種の危機なのです。

 オゾンは太陽光のうち紫外線が酸素と反応して生成したガスです。このオゾン層破壊も問題となっています。「オゾン層破壊」は紫外線(きわめて弱い電離放射線)とのみ関連づけられて考えられていますが、オゾン層が破壊されれば、やってくる電離放射線はもちろん紫外線だけではありません。こうした意味でもオゾン層破壊は、第2のシールドが破れる地球の危機だといえます。

こうして、地球は、地表面に放射性物質がほとんど存在しない、二重のシールドに守られた、宇宙の中ではきわめて珍しい条件が重なり合った、私たち生物にとって貴重な惑星となりました。こうした環境条件が整ってはじめて、私たち人類が生存できるのです。

 これは、前に引用したJAXAの論文『宇宙放射線』が、
この2つの地球の持つ特性、物質のおかげで、地球上の生物は宇宙に普遍的に存在する宇宙放射線からあたかもシェルターに護られるようにして、過去数十億年、生存、進化の道を歩むことができたと言える」
 と述べているとおりです。

 「人類は核と共存できない」といいます。が、いまやこれでは不十分です。ここまで認識が深まれば「人類は放射能と共存できない」と言い直さなくてはなりません。そして、この考え方は、人類と放射能を、特に原発や核施設、核兵器など核の軍事利用などから不断に放排出される人工放射能と「人類を共存させよう」とすることを目的にしたICRP学説ときわめて鋭い、全く妥協の余地のない対立を見せています。
(その③へ)