(2015.4.1) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
No.060-4 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
放射線被曝に安全量はない -There is no safe dose of radiation その④ 内部被曝と外部被曝はなにが違うか |
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(この記事は、第124回広島2人デモチラシ<2015年3月6日>を下敷きにしている。チラシに引きずられて、口調も「だ、である調」から「です、ます調」に改める。また通常記事では、敬称は一切省いているが、この記事では敬称をつけることにした) |
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放射線被曝とは細胞一般に対する電離放射線の、細胞一般に対するイオン化攻撃であり、細胞を原子・分子レベルで傷つけることによって、ヒトの生きる力を急激にあるいはゆっくりと奪っていくことであることは以上で確認できたかと思います。 それでは内部被曝と外部被曝ではいったい何が違うのか? 例によって、まずICRP学説信奉者の見解をみましょう。 電力会社が金を出し合って設立し、日本社会への「原子力文化」の浸透と定着をはかることを目的とする日本原子力文化財団のWebサイトは、次のように説明します。
日本語ウィキペディア『被曝』は、“内部被曝と外部被曝は何が違うか”という質問に対しては、一見長々説明してあるように見えて、実は、
以上の説明はしていません。外部は放射線源が体の外部にある、内部は放射線源が体の内部にある、以上の説明はしていないのです。あとは延々といかに防護するかに関する説明が続きます。私も、以下のように説明することにします。
このタイプの被曝で典型的なケースは広島・長崎原爆での放射線被曝でしょう。図1を見ると、広島原爆では核分裂爆発が地上約600mで起こり、そこから発生するきわめて強力なγ線と中性子線にさらされた典型的な外部被曝ケースです。また強力な放射線は、地上の物質をイオン化し、物質がフリーラジカルとなって残留放射線を出したことがわかります。
典型的には図2のブタの肺臓に付着した不溶性酸化プルトニウムによる電離放射線攻撃です。また外部被曝と内部被曝の違いを概念化したのが図3です。 しかし、説明がこれで終わりなら、実は外部被曝と内部被曝について何も説明したことにはなりません。実際ICRP学説は、内部被曝と外部被曝について本質的には、これ以上の違いを認めていないのです。後は日本語ウィキペディアの説明のように、いかに被曝から防護するかの話やあるいは、内部被曝特有の現象について説明するだけです。たとえば、セシウム137は全身に蓄積するとか、ストロンチウム90は骨に溜まりやすいとか、ヨウ素131は甲状腺に蓄積するとかいった類いです。 しかし“内部被曝と外部被曝は何が違うか”と問題を立ててみたとき、その本質的な違いは、放射線源が体の中にあるかないか以外に、さらに重要な違いが見いだせます。
もう一度図2を見てください。2ミクロンの酸化プルトニウムが付着した箇所がホットスポットです。その周辺の細胞だけが攻撃を受け、そのほか大部分の細胞は攻撃を受けていません。全身一様な被曝ではないわけです。特に福島原発事故の放射能によって危機を迎えている日本社会(少なくとも私はそうとらえています)が直面する危機が、低線量内部被曝による健康損傷の危機であることを考えると、この認識はきわめて重要になります。低線量内部被曝で、全身一様な被曝をするなどということはあり得ません。その全てが、多かれ少なかれ図2のようなホットスポット的被曝です。 ところが、外部被曝ではそうではありません。図3の内部・外部被曝概念イラストをもう一度見てください。外部被曝は被曝源が体の外にあるため、被爆源から体全体が一様(平均的に)被曝することになります。(まれに、被曝源が体に直接密着して、局所的外部被曝をすることもあります。核実験時代の初期、実験台に使った艦船を水兵たちが、清掃をする際、β線を発する降下物に直接触れて皮膚の一部が外部被曝したという証言=たとえば、カール・ジーグラー・モーガン=もあります)
内部被曝と外部被曝では次の違いがさらに重要となります。
これは、γ線、中性子線、α線、β線といった放射線の性質の違いに関係した特徴です。次の日本語ウィキペディア『放射線』の記述を見てください。
放射線は、電磁放射線(光の流れ)と粒子放射線(粒子の流れ)の2種類に分けることができる、というのです。
ここでは、「公衆被曝で問題となる」のが、「高い透過性をもった電磁放射線である」と断定しています。この書き方でいうと、公衆被曝で問題となるのは、γ線、X線などであるということになります。また、こうした電磁放射線が、透過性が高いのは、波長が短いからだと説明しています。この説明が全く科学的でないことは後でもみますが、ここではとりあえず、日本語ウィキペディア『放射線』が、「公衆被曝で問題になるのはγ線やX線など高い透過性をもっている電磁放射線だ」と述べている点を記憶しておいてください。 さて、もう一方の粒子放射線についてはどう説明しているのか?
これは、ずいぶん読むものを混乱させる記述です。α線やβ線は、どんな種類の線種なのかに着目した分類。電子線、陽子線、中性子線、重粒子線は、流れる粒子の性質に着目した分類。つまり分類の仕方が異なる記述を、「粒子放射線」の種類としてあげているからです。中性子線、つまり中性子という素粒子の流れを「中性子線」と呼んでいるのであり、これは線種名でもあり、また放射線の性質に着目した呼び方でもあります。これでは、「電子線、陽子線、重粒子線」などは、α線やβ線とは異なる別種の放射線種なのかと誤解を与えます。ここでは素粒子線とは、α線やβ線、そして中性子の流れである中性子線だと理解をしておきましょう。
ここで、γ線やX線は光の流れ(光子の流れ)、α線は陽子などの素粒子の流れ、β線は電子という素粒子の流れ、中性子線は中性子という素粒子の流れのことだ、いうことがわかります。(ここで素粒子という言葉は、原子を構成する粒子、という意味で使用しています) そして、このウィキペディアの記述では、
一方α線やβ線、中性子線は、波長が長いとも短いとも、公衆被曝で問題になるかどうかも触れていません。まるで公衆被曝にはあまり関係のない線種だとでもいっているようです。透過度に関しては、次の図を引用しています。 α線は空気中では、空気中の原子や分子と衝突して電離エネルギーを失い、精々数mmしか飛びません。数mm飛ぶ間にその持てる電離エネルギーを全部使い果たしてしまうのです。同様にβ線は空気中では2-3cm飛べば、電離エネルギーを失い、γ線では空気中の分子や原子では、さほどエネルギーを消費しませんから、遠くにまで飛ぶことができます。 中性子は、もともと、すでにご説明したようにそれ自体電離エネルギーをもちません。しかし、原子に衝突すると、原子は中性子の粒子を吸収してしまい、代わりに原子の原子核の中にある陽子を原子の外に押し出してしまう性質を持っている、すなわち原子をイオン化するために、電離放射線に分類されているのでした。ですからここでは、中性子線を度外視し、α線、β線、γ線だけを考えてみましょう。 それでは、もともともっている電離エネルギーが、α線、β線、γ線の順で弱いから、このような現象になるのかというとそうではなく、仮にもっているエネルギー( E )が同じだとすると、空気中ではα線は数mmの間に、β線は2-3cmの間にもともともっていたエネルギー( E )を使い果たしてしまう、ということを意味します。それに対してγ線は空気中では、大してエネルギーを消費せずにどこまでも飛んでいくということを意味します。鉛のような高密度の物体に出会ってはじめて、(衝突する相手が高密度であるが故に)エネルギーを消費し、鉛では精々10cmも飛べばそのエネルギーを使い尽くすということです。
ところで、放射線が物質(人体でも、細胞でも、水でも、空気でも、鉛でも、紙でも、アルミニウム板でも)と衝突して、消費する電離エネルギーのことを「線エネルギー付与=LET:Linear Energy Transfer)といいます。この「線エネルギー付与:LET」の考え方を使えば、α線は、もっともLETが大きく、β線はその次で、γ線はもっとも小さい、ことになります。 以下は『原子力防災基礎用語集』の説明です。
これでいうと、LETの大きさは、放射線の荷電状態やスピードにも関係するようです。が、ともかくγ線はLETが小さいから遠くまで飛び(透過度が強く)、α線やβ線はLETが大きいから、電離エネルギーを早々と使い果たしてしまい、遠くまで飛ばない(透過度が弱い)ということになります。 つまり日本語ウィキペディア『放射線』は、ものごとの半面は説明しているが、残りの、しかももっとも重要な半面は説明していない、ということになります。また、γ線の透過性が高いのは、なにも周波数が短いからではなく、γ線が低LET放射線だから、という説明の方が科学的ということでもあります。 ところで、α線やβ線が、物質と衝突すると、大きなエネルギーを失う、という事実は、内部被曝、特に低線量内部被曝を考える際、きわめて重要な事実となります。 α線やβ線は、物質と衝突したとき莫大な電離エネルギーを放出するということです。それでは、α線やβ線を放出する放射線核種、たとえばプルトニウム(α崩壊します)、あるいはセシウム137やストロンチウム90(β崩壊します)のほんの微量を体の中に取り込んだとします。体の中では、わずかな、たとえば、セシウム137でも、セシウム137が付着した近辺の細胞を破壊するには十分なエネルギー量です。その様子は図4に示されたような心臓の心筋に付着したセシウム137のホット・パーティクルの状態で表現されるでしょう。
ほんの微量のセシウム137でも、体の中に入ってしまえば、大変なことが起こりうるということがおわかりでしょう。
ところがここで非常に奇妙なことが起こります。 ICRP学説は、それぞれ放射線核種の濃度(ベクレル表示)と人体に与える影響度(実効線量。Sv=シーベルト表示)の換算係数を事細かに決めています。ICRPの勧告に従って作成している文部科学省の『放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(平成十二年科学技術庁告示第五号)最終改正 2012年3月28日 文部科学省告示第五十九号』は別表2にその換算表を掲げています。 それによると、セシウム137(全ての化合物)を口から体内に取り入れた場合(経口摂取)、1ベクレル(Bq)あたり『1.3×10-5mSv』と定めてあります。(電離放射線の人体に与える影響度、すなわちICRPの実効線量、みたいな曖昧な非科学的概念を使って、ここまできっちり換算できるものが、大いに疑問のあるところですが、ここはおとなしくこの換算表に従っておきます) この換算係数に従えば、1Bqのセシウム137は、10万分の1.3mSvに相当する、すなわち、0.013μSvに相当することになります。すると、50Bqのセシウム137は、0.65μSvでしかありません。「100mSv以下の低線量被曝では、人体に害があるという科学的証拠はない」とするICRP学説からみれば、0.65μSvなどはとるに足らない被曝線量です。また現在の放射能汚染食品基準、「放射性セシウム(137と134の合算)で1kgあたり100Bq」は、すべてセシウム137だと仮定しても、1.3μSvにしかなりません。この換算式に従えば、セシウム137入りの食品を毎日食べて、全く体外に排出しないと仮定しても、1mSvの被曝線量に達するには、約770日、2年以上かかる、という計算になります。 しかし、現実には、わずか50Bqのセシウム137が体内でホット・パーティクルになってしまえば、半減期約30年のセシウム137は完全に体外に排出されるまで、その周辺の細胞を破壊し続け、重大な健康損傷が予想されるのです。毎日摂取し続けるということになれば、これはほぼ自傷行為です。 奇妙なことというのは、実際には大きな健康損傷が予想されるセシウム137・50Bqによる内部被曝は、ICRP学説に従えば、まるで取りに足りない、問題とするに足りないレベルの内部被曝になぜ化けてしまうのか、という点です。
これは『平均化概念のトリック』とでも呼ぶべき現象です。話を少しさかのぼらせます。
これが、物質の放射線吸収量の定義であり、出発点です。Jは、エネルギー・仕事・熱量・電力量に適用する一般普遍単位です。エネルギーの抽象普遍化概念の単位で、熱カロリーのエネルギーに換算すると、約 0.2390 カロリー(cal)というわずかな熱量に過ぎません。Gy(グレイ)は物質一般が吸収する電離放射線の単位、吸収線量の単位です。なにやら小難しそうですが、決めごとですので仕方ありません。あとは慣れてしまうしかありません。 ICRP学説は、ここから出発して、生体(以下“ヒト”のことだとして話を進めます)が電離放射線から受ける“影響度”という概念を想定します。電離放射線から受ける影響は、ヒトによって、あるいは男女によって、あるいは年齢層によって、異なります。いってみればバラバラです。それを電離放射線から“ヒト”が受ける影響度を一般化、抽象化した尺度を想定しようというのですから、厳密にいって科学的概念とはいえません。(このことはICRP学説も十分認識しており、たとえば厳密な科学性が要求される学術研究やその学術論文では、科学的概念であるGyしか使えないことになっています。しかし実際には濫用されています)どうしても現実には存在しえない、一般化・抽象化した“ヒト”を想定せざるをえません。こうして、一般化・抽象化した“ヒト”を想定して固定しておいて、今度は放射線種を考えます。ここでは、X線、γ線、α線、β線、中性子線の5種類に限定して話を進めますが、ヒトが電離放射線から受ける影響は、線種によって異なる、とします。もともと電離放射線がもつエネルギー、この場合は特に前出の「線エネルギー付与:LET」の違いを重く見ます。それは当然でしょう。体の中で電離放射線の放出する電離エネルギーこそ、私たちの細胞を、体を傷つける源泉なのですから。 こうしてICRPは、放射線によるヒトへの影響度を数値化しています。そしてその係数を「放射線荷重係数」と呼んでいます。下表が放射線荷重係数の例です。 (資料出典:ATOMICAより「放射線荷重係数」) 上記の表は、高度情報科学技術機構が運営する原子力辞典「ATOMICA」から引用しました。比較的単純です。X線を「1」とすると、γ線もβ線も「1」、α線は「20」、中性子線はそのエネルギー量によって「5から20」ということになります。 (低LET放射線であるX線やγ線を「1」として、それよりはるかにLETの大きな核種をもつβ線も「1」、というのは納得いきませんが、これはICRPがそう定めている、ということなので仕方がありません) そして、物質の吸収線量Gyをベースにして、今度はヒトが電離放射線を吸収した時の影響度の単位:シーベルト(Sv)へと発展します。 ここで注意して欲しいことは、Gyは科学的概念ですが、Svはヒトへの影響度を表す概念なので、前述のように厳密には非科学的概念、精々いって一つの目安にすぎないという点です。 またさらに記憶して置くに値する重要な点なのですが、1Gyは「物質1kgあたり吸収する1ジュールに相当する電離放射線のエネルギー量」ですので、それに基礎を置くSvも常に「ヒト1kgあたり影響を受ける電離放射線のエネルギー量」ということになる点です。つまりSvには、「ヒト1kgあたり」という「但し書き」が常に隠れているということです。
Gyは吸収線量でした。それに対してSvは放射線から受ける影響度の概念でした。そしてその影響は、吸収する放射線の種類によって異なるというものでした。 いま、1Gyに相当するX線をヒトが吸収したとします。別な言い方をするとX線を1Gyほど被曝したとします。X線の放射線荷重係数は「1」ですので、その被曝による影響度は、1Svとなります。式に書くと次のようになります。
こうしてICRP学説に従えば、「1Gy=1Sv」の等式が成り立つことになります。ただしこの等式の左項は、吸収線量という科学的概念、右項は「ヒトが受ける影響度」という非科学的概念です。 同様に、もしそれがα線であれば、α線の放射線荷重係数は「20」なので、
という等式になります。 なお、ICRP学説では、この影響度のことを「等価線量」と呼んでいます。英語では“equivalent dose”です。この日本語訳はずいぶん誤解を与える訳です。「等価線量」は厳密に言って「線量概念」ではありません。「ある放射線からヒトが受ける影響度」の概念です。ですから正しく訳すなら「線量等価影響度」とでもすべきだったのでしょう。この概念になると、もはや「影響度」を表す概念が忘れ去られ、「線量」という科学的外観を装うことになっていきます。たとえば、次の日本語ウィキペディアの記述が好例でしょう。
上記の説明では、確率的影響にSvが使われ、確定的影響にGyが使われる、などといったおよそICRP学説に照らしても理屈に合わない説明があって私たちを惑わしますが、SvとGyの関係は、すでに説明したとおりです。ここで確認して置くべきことは、すでに等価線量が、科学的な「線量概念」として扱われていることです。 これにとどまりません。ICRP学説に従えば、人体を構成する臓器・器官・組織は、それぞれ放射線感受性が違うとします。従って全身が一様に被曝した場合、たとえば全身に1SvのX線を被曝した場合、それぞれの臓器・器官・組織が受ける感受性は違う、つまり影響度はちがうとします。そして臓器・器官・組織ごとに、その影響度の係数を決めています。 それが「組織荷重係数」です。下表になります。 そして等価線量に組織荷重係数をかけて全身の被曝による影響度を決めます。それが「実効線量」と呼ばれています。英語は“effective dose”です。これもずいぶん誤解を与える訳語です。正しくは「線量実効影響度」とでもすべきでしょう。しかも、この実効線量の単位名称も等価線量と同じく「Sv」ですから、話がさらにややこしくなっていきます。等式風に書くと以下のようになります。 1.ヒトの電離放射線吸収量(単位はGy) 2.電離放射線吸収量×放射線荷重係数=等価線量(単位はSv) 3.等価線量×組織荷重係数=実効線量(単位は同じくSv) こうして福島原発事故後、私たちにすっかりおなじみになった「実効線量」(シーベルト)の概念ができあがります。 ここで注意しておかねばならないことは、吸収線量のGyも、等価線量のシーベルトも、実効線量のシーベルトも、その数値表現はすべて「1kgあたり」という但し書きが常に隠れているということです。
<ヒトの心臓の重さは平均して300gですから、この場合300gの心臓に平均・一様の被曝があると考えても構いません。この場合は50Bqのセシウム137の実効線量0.65μSvは変化しませんから、心臓300gに平均に50Bq×(300g/1000g)=15Bqしか付着しなかったことになってしまいます。実効線量概念では、常に1kgあたりの話をするわけですから、心臓300gに対して何μSvなどという考え方はどこから押しても出てきません。> つまり、心筋1点に付着したセシウム137のホット・パーティクルは、いつの間にか、体重1kgに(あるいは心臓300gに)一様に、満遍なく、平均して被曝することにすり替えられ、危険なホット・パーティクルは、どこかに消えてなくなってしまうのです。ここで思い出していただきたいのは、シリーズこの項のテーマである『内部被曝と外部被曝は何が違うか』の3つめの特徴です。もう一度確認しておきましょう。
つまり、図5で示したような被曝は、外部被曝(原爆によるγ線や中性子線の被曝を思い出してください)では起こりえても、内部被曝では絶対に起こらないのです。それが低線量の被曝になればなるほど、たとえば、50Bqのセシウム137で心臓300gが一様に平均して被曝するなどということは金輪際起こりえません。 外部被曝では起こりえても、内部被曝では金輪際起こりえない・・・。つまり、ICRP学説は、外部被曝に当てはまる考え方を、そのまま内部被曝にも当てはめて「被曝影響度」を考えていることになります。<こうした操作を“外挿”といいますが、外部被曝の内部被曝への外挿がなぜ行わなければならなかったのか、という点についてはこのシリーズの最後半で取り扱うことになります> ところが、ICRP学説では消えてなくなる50Bqのセシウム137のホット・パーティクルは、現実には存在します。消えてなくなるわけがありません。そして、ICRPの実効線量でわずかに0.65μSvのセシウム137は確実に、周辺の細胞を傷つけ、健康をジワジワとむしばんでいきます。
ここで内・外部被曝の違い「第4の特徴」を再確認しておきましょう。
実際に外部被曝では、LETの低い線種、X線やγ線による強烈な照射や、核爆発時あるいは核分裂時に大量に発生する中性子線による外部照射などが被害の源泉になります。これは、広島・長崎の原爆炸裂時に発生した強烈なγ線照射や中性子線照射を思い浮かべてもらっても結構ですし、またシリーズ③で見たような、「地球磁気圏内である高度400km前後の上空で周回する国際宇宙ステーション滞在中の宇宙飛行士の被曝線量は、1日当たり1 mSv」という強烈な宇宙放射線の照射を思い浮かべてもらっても結構です。 それに対してLETの高いα線やβ線が外部被曝の源泉になることは、直接放射性物質に触れない限り、まずありません。何しろ空気の中で10cmも離れていれば、α線やβ線は、空気中の原子や分子と衝突してしまい、エネルギーを使い果たしてしまうのですから。
内部被曝と外部被曝の違いはこれにとどまりません。
このことは、同じ実効被曝線量(繰り返しますが、厳密にいって実効線量は“線量概念”ではありません。“被曝影響度”の概念です)でも内部被曝は、外部被曝よりはるかに細胞損傷の度合いは大きい、ということを意味します。 表2はECRRが想定する被曝形態(タイプ)による損害係数表です。同じ線量でも内部被曝の状況によっては、外部1回切り被曝に比べて最大1000倍から2000倍も違うことがわかります。ECRR2010年勧告第6章『電離放射線:ICRP 線量体系における単位と定義、およびECRR によるその拡張』の中の表6.2『 低線量領域の被ばくに対する生物学的損害係数WJ』を基に作成したものです。 ECRRがこの表を作成した経緯をざっとご説明しておきましょう。ECRRはおよそ次のように主張します。
この表は、こうして、被曝を8つのタイプに分け、「生物学的損害荷重係数“ N ”」を考慮して作成されたものです。
話が変わるようですが、ICRP 自身も自らの線量体系の不適切さを認めているのです。 ICRP1990年勧告は、非常に重要な節目となる勧告です。ICRPはこの勧告で“実効線量概念”シーベルトを導入しました。事実上、被曝強化・強制政策を大きく前進させるのです。この勧告の背景には1986年のチェルノブイリ原発事故による低線量被曝の現状がありました。ICRPが1990年勧告を出さざるをえなかったいきさつについては、中川保雄『放射線被曝の歴史』の『第10章 チェルノブイリ事故とICRP新勧告』の中で詳しく説明されています。(中川保雄という人は科学史家として“天才”としかいいようがありません) さてICRP2009年勧告は次のように述べています。<( )番号は勧告項目番号> (17) Historically, the quantities used to measure the ‘amount’ of ionising radiation dose have been based on the gross number of ionising events in a defined situation or on the gross amount of energy deposited, usually in a defined mass of material. These approaches omit consideration of the discontinuous nature of the process of ionisation, but are justified empirically by the observation that the gross quantities (with adjustments for different types of radiation) correlate fairly well with the resulting biological effects.
つまり、イオン化現象(細胞内での被曝現象といいかえることができます)は、本来起こるか、起こらないか、ONかOFFか、の不連続的事象であるにもかかわらず、一定質量内で、一定のエネルギーが与えられれば、そのエネルギーに比例して平均的に起こる、つまり一定質量内での連続的事象だと仮定してやってきた、そしてそれは、被曝による健康損傷の結果とうまくつじつまが合ってきた、と述べているわけです。科学的な思考ではないが、経験主義的にはうまくやってきた、とやや弁解がましく述べていると解釈もできます。しかし、自分にとって都合のいい“結果”しか見ず、都合の悪い結果は全て無視してやってくれば、どんなことでも“正当化”できるものです。やがてこの非科学性は、いつかは誰かが暴露します。ですから、次のように述べなければなりませんでした。 (18) Future developments may well show that it would be better to use other quantities based on the statistical distribution of events in a small volume of material corresponding to the dimensions of biological entities such as the nucleus of the cell or its molecular DNA. Meanwhile, however, the Commission continues to recommend the use of macroscopic quantities
なんのことはない、ICRP自身、彼らが使っている線量体系が、細胞、分子、原子レベルの中での電離現象を記述する、言い換えれば低線量内部被曝、極低線量内部被曝を説明する線量体系ではないことを認めているのです。ここで問題は、「将来の諸発展」が、低線量内部被曝をうまく説明できるかもしれない、と述べている点です。この勧告が公表されたのが1990年。2000年代はじめには「ヒトゲノム計画」がほぼ完了し、細胞に関する科学、遺伝子に関する科学が飛躍的に発展し、ICRP1990年勧告がいう“将来”はすでに到来しています。にも関わらず、その“すでに到来した将来”に全く考慮を払わず、相変わらず20世紀中葉の理論を振り回し、私たちに低線量内部被曝を正当化する被曝強制勧告を押しつけようとするICRPの“犯罪性”でしょう。 (なお、ICRP1990年勧告にこの記述があることは、ECRR2010年勧告第6章冒頭に記述があったので知ることができました。訳出にあたっては同日本語版PDFテキストを参照しました)
さて、表2を簡単に見ておきましょう。まずここでは、それぞれの損害係数の大きさよりも、被曝のタイプに注目してください。内部被曝・外部被曝と一口にいいますが、そのタイプは様々で、単純一様ではないことが重要なポイントになります。 <細胞に関する研究や細胞間通信で働くタンパク質の性質や役割に関する研究が進んでいくにつれて必ずやこれ以上の、もっと複雑でダイナミックなタイプが発見されるだろうと私は確信しています。係数についてはこれを絶対なものと考えることはできません。あくまで仮説です。別な言い方をすると、損害係数はもしかしてここで表示されている係数を遙かに上回る場合もあるかもしれません>
ところで、ここにあげた「5~8」のケースは、決して1度切りの被曝に終わりません。体の中に入った放射性物質が、その電離エネルギーを使い尽くすまで、あるいは体の外にでていくまで、あるいは体の外にでないまま、危険な電離放射線の照射を続ける、つまり慢性内部被曝の状態になるという点が大きな特徴です。外部被曝の場合は、被曝源から逃れることができます。しかし内部被曝の場合はそうではありません。内部被曝は慢性被曝を特徴とします。 ICRP学説信奉者は、内部被曝も外部被曝も同じ線量なら、損傷は同じと主張していますが、被曝の原理やメカニズム、あるいはそのタイプを知るにつけ、この「内外部同一説」を正しいとするわけにはいきません。内部被曝は、外部被曝とは全く別種の危険な被曝だと考えておかねばなりません。 |
(以下その⑤) |